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Strong solidarity

 長い渡り廊下を渡り、俺たちは体育館二階のステージに再び戻ってきた。最初と違うところは体育館にはわずかながら明かりが灯っていることだった。しかし、この薄明るさが逆に不気味さを増してもいた。

「誰も、いないのか?」

 辺りを見回すが人の姿はない。天井から落ちてくる気配もないし、ステージの裏に隠れているのか。

「向井君、気をつけて…」

 背中に負ぶさった諏訪が小声でささやく。

 わかっているさ。俺はその一言を頷くことで諏訪に返した。

『よくぞここまでたどり着いた!』

「「!!?」」

 またか。俺たちはステージ中央に設置してあるスピーカーに体を向けた。

『……なんて偉そうなことを言うのはやめておこう。今時の悪役に流行らないし、実際君たちの戦いぶりはこの目で散々焼き付けてきたことだしな。渡り廊下の精鋭もよく倒したものだ。足場は滑る、道幅が狭い、そして何より彼らが意思を持つ下僕たちの中では一番強いという悪条件にもかかわらず』

「意思を持った下僕?」

『そう、君たちは気づいたかどうかわからないが、我が下僕たちは強弱こそあるものの完全に操ることはせずに意思を持たせていた。そのほうがよりドラマがおもしろくなるだろうと思ってね。予想通りいいドラマを見させてもらったよ。おかげで少しはクラス内の親睦も深まったのではないかな?』

 相変わらず嫌みったらしい調子で担任は話す。

「先生!私たちが倒してきたクラスの皆は今日のことを覚えているんですか!」

 俺の背中の上から諏訪が質問した。確かに、それは俺も聞きたかった大事なことの一つだ。戦ったものの中にはひどいやられ方や、プライドを傷つけてしまった恐れのある者もいるからな。

『残念ながら今日の記憶は彼らに残ることはないだろう。意思は持たせたとはいえ、戦ったことを記憶するまでには至らない程度だ』

「そうですか……」

 がっかりしたような安心したような微妙な感じだ。バトルの中では一番楽しかったあのダンスも須磨高スマップ(自称)も今日のことは全て忘れてしまうわけだ。

『話を元に戻すが、これから私と戦ってもらう』

 そうだった。いつまでも微妙な雰囲気に流されている場合ではなかったな。ここはラスボスの間なんだからな。

『が、その前に残っている生徒六人と戦ってもらおう』

 スピーカーからはしっかりと先生が指を弾く音まで聞こえてきた。そういうところは無駄にラスボスっぽいよな。

 闇の中から生まれ出てくるように最後の六人が姿を現した。しかもよりによって全員女子ときたか。しかし、諏訪はもう戦えない。ここは俺一人で彼女たちを気絶させる程度に傷つけないといけないわけか。う〜む、やはり女の子と戦うのは抵抗があるな。

『女の子は傷つけない主義の向井君に一つ朗報だ。彼女たちには意思は持たせていない』

「!?」

『彼女たちは私が揃えた意思を持たぬ純粋な殺人メカだ。もはや、女であるという概念は捨てたほうがいい』

「殺人メカ?」

『そう。人を傷つけることを喜び、人の血をなめることを極上の楽しみとするまさに彼女たちは悪魔の生まれ変わりなのだ!』

「………」

『臆して声も出なくなったか。少々興ざめだがまぁよい!我が下僕たちよ!立ちはだかる敵を殺せ、殺せ殺せぇ!』

 スピーカーから流れる狂った雄叫びに反応して六人の女子生徒が同時に木の床を蹴って突進してくる。

「うるせぇ!!」

 スピーカーから流れる狂った悪魔の声にも勝るほどの大声に女子生徒たちも思わず動きを止める。俺はそのくらい今おかれた状況に腹が立っていたのだ。

「黙って聞いていればべらべらとくだらない能書きをたれやがって!何が『彼女たちは意思を持たぬ殺人メカ』だ。あんた、完全にイカれてるぜ!人の心を踏むにじっただけならいざしらず無抵抗の彼女たちを勝手に殺人メカ扱いするんじゃねぇ!」

「向井君…」

「先生、昨日までのあんたのその純粋な心はどこへ行ったんだよ!昨日までのあんたはいろいろ俺たちに提案を並べて少しでも皆を仲良くしようと努めていたじゃないか。校長や学年主任に叱られても叱られても、自分の思った理想像を追い続けていただろう!俺は少なくとも俺はそんなあんたは嫌いじゃなかったし、それなりに好感を持っていた。それなのに、今あんたがしようとしていることは何だ。俺たち生徒を力任せに言うこと聞かせているだけじゃないか!教師がそんなんで生徒がついてくるわけないだろうが!」

『!!』

「どうしちゃったんだよ。早くいつもの先生に戻れよ。何を言っても知らんぷりしている俺たちを見て眉をハの字に曲げて困っているいつもの先生に戻れよ!」

『ほざけ!』

「!!」

「我が下僕たちよ。奴の虚言に何を迷っている!さっさと始末しろ!」

「向井の言っていることは虚言なんかじゃない!」

 突然聞こえた叫びに、俺も諏訪も体育館の入り口に顔を向けた。

「本田!それに安島も…?」

「先生、向井君の言うとおりだよ。早くいつもの先生に戻ってください!」

 本田と安島は懇願するように叫ぶ。そして、俺たちの間に割って入ってきた。

「いろいろとすまなかったな向井、諏訪!」

「僕らも闘いに参加するよ!」

 こいつら……。

『お、お前たち!なぜ闘いの記憶がある!?私の魔法で操っていたはずなのに…』

 スピーカーの奥から震えたような悪魔の声が響く。

『ええい、二人増えただけで何ができる!我が下僕たちよ、叩きのめせ!』

 悪魔の声で再び六人が戦闘体勢に入った。くそ、この程度じゃまだ彼女たちの自我を取

り戻すに至らないのか!

「二人だけじゃない!」

 今度は体育館の側面扉から声が聞こえた。

「サトーちゃん!それに芹沢さんも!」

「おまたせ、実ちゃん!須磨高スマップ、バックダンサーズ第一メンバー佐藤都子ただい

ま参上!」

 佐藤はそう言って敬礼のような決めポーズを取る。

「諏訪さん!種目は違うけど、同じ陸上を嗜む者同士。私も協力してもいいよね?」

 諏訪は俺の背中に負ぶさったまま、右手の親指をピッと立てた。

『く、くそ。一体どうなっている。何が起こった!』

 俺にも何が起こったのかはわからない。でも、一つだけ言えることがある。ここにいる

こいつらは皆、俺たちと同じ気持ちだったということだ。

「先生、早く元に戻れよ!俺たち皆先生の復帰を待っているんだぜ!」

『う、ウウ…』

「先生、もうこんなことはやめましょう。そんなことをしなくても私たちの絆は今ここに

完成したじゃないですか」

『グ、グググ…』

 どうやらこいつらの声援でかなり悪魔は動揺しているようだ。周囲を囲む女子生徒たち

の動きが鈍くなっている。

「先生!」

「先生!!」

「先生!!!」

 全員でスピーカーの向こうにいるであろう悪魔に向かって叫んだ。

 ボンッとスピーカーが爆発した。刹那、俺たちを囲んでいた女子生徒たちの意識が一斉

に途絶えた。

「!!」

「…いや、大丈夫だ」

 彼女たちの手を取り、本田はつぶやいた。

「気を失っているだけだ。どうやら先生がかけていた呪いがとけたみたいだな」

「よかった…」

 俺の背中の上でホッと安堵の息を吐く諏訪。

「こしゃくな真似を……すぐにそいつらもお前たちの後を追わせてやるわ!」

「「「!!!」」」

 俺たちの目にはそれが瞬間移動をしたように見えた。先生の体を乗っ取った悪魔は怒りの形相で俺たちを睨みつける。

「芹沢、佐藤。諏訪を頼む」

「オッケィ」

「わかった」

 女子二人は小さく頷くと、俺の背中からゆっくりと諏訪を引き取った。

「向井君、ごめんね。最後の最後に役に立てなくて…」

「何を言っているんだよ。あんたには今まで散々世話になったじゃないか。最後くらい男

らしくビシっと決めてやらないとな」

 俺は両手の指を鳴らしながら先生と対峙する。

「かっこいいこというじゃねぇか向井」

「俺たちも仲間に入れてもらっていいよな?」

 そう言って自ら戦いの場に立つことを志願した二人。気持ちはありがたかったが、俺の

気持ちはもう決まっていた。

「お前らは下がっていてくれ。先生とは俺が一対一でケリをつけたいんだ」

「何言っているんだよ。一人でどうにかなる相手か?」

「そうとも。力を合わせて戦おうぜ」

 なおも食い下がろうとしてくる二人に俺は小さく首を振った。こればかりは、この気持

ちばかりは譲れない。

「……わかったよ。好きにしろ」

「芝居のカーテンコールは向井君で閉めてもらうことにするよ」

 おっと、意外と予想外だったな。もう少し食い下がってくるのかと思ったが。やっぱり

その辺りはまだ入学して二ヶ月だし、気を遣ったのかもしれないな。でも、とにかくこれ

で俺は先生と一対一で勝負ができる。

「せっかくの申し出を断っていいのか?君相手なら私は一分以内で終わらせるつもりだ

が?」

「なら、その一分で先生を奪い返してみせる!」

「見上げた魂だな。やってみるがいい!」

 そうして最後の戦いが始まった。


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