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Battle5

「よくここまで辿り着いた。この渡り廊下を渡りきれば先生の待つ体育館のステージに行ける」

「しかし、ここでお前らはゲームオーバーだ。俺たち、先生直属の精鋭によってな」

「先生に何を吹き込まれたかは知らないけど、くだらない戦闘員になり下がるくらいなら普通に学生やっているほうがまだマシだと思うぜ」

「私たちは早く先生に会いたいんです。どいてください!」

「そう言われて通すと思うか?」

「思わないな!」

「思いません!」

 俺と諏訪は同時に武器を構えた。同時に敵も武器を構える。といっても一人はどうやら素手でくるようだ。もう一人の得物は俺と同じナイフ。素手・ナイフVSナイフ・中華鍋なら武器の優勢度合いとしてはこっちに分がある。



 どこかで風にあおられた缶が地面に落ちる音がした。そしてそれが戦闘の合図。互いに間合いを確かめ合っていた俺たちは同時に渡り廊下の床を蹴った。

「まずは俺が行く!」

 この狭い渡り廊下はニ、三人が立っているだけでいっぱいの幅。そんなところで二人が同時、特に諏訪は中華鍋という大きな武器を持っているため同士討ちになりやすい。それを避けるためだ。

「たいした自信だな」

 素手の男が鼻で笑う。

「素手がナイフに勝てると思うなよ!」

 俺は勢いよく奴の顔面に向けてナイフを突き出した。

「甘いわ!」

 奴の懐に突っ込んでいた俺はそのままナイフを持った利き手を受け流され、そのまま腕

をつかまれる。

 一瞬、上下が逆になった。それが投げられたということに気づいたのは背中からコンクリートの床に叩きつけられてからだった。

 声にならない痛みが襲いかかる。流石にコンクリートに背中から叩きつけられたらうめき声すら出せないな。しかし、上下が逆になったおかげで少しだが見えた。もう一人のナイフが男の肩を踏み台に背中を飛び越えていくのを。

「上!」

 痛みと戦う中で俺が何とか出せた声はその一単語だけだった。諏訪はそれが自分に襲い

掛かっていることだと気づいたのか咄嗟に中華鍋を斜め上に構える。

 刃物が鉄に接触し、甲高い音が響く。

「チィ!」

 ナイフは短く舌打ちをするが、諏訪はその一瞬の隙を見逃さなかった。すかさず中華鍋でナイフの左腕を叩いた。急な動作のため諏訪自体も動けについていけてなかったからあまり威力はないだろうが、それでもナイフに少しくらいはダメージを与えたはずだ。ナイフは今度こそ後ろに飛び退き、再び素手の男に隠れるように真横より後ろ目に立つ。

「いい一ラウンドだったな…」

 素手の男は低い声で笑う。

「第二ラウンドも楽しめそうだ」

「あいにくとこっちはさっさと体育館に行きたいんでね」

 俺は軽やかに床を蹴った。

「勝ちを急ぎすぎだ」

「ああ、学習能力は猿以下だな」

 素手の男はどっしりとした構えを見せ、再び俺を投げようと迎え撃つ。しかし、そんなことは俺だってわかっていた。だから、今度は後ろに諏訪をついてこさせている。俺がナイフで素手の男を斬ると見せかけて、その場にしゃがむ。

「何!?」

 見事に素手の男の手は空を掴む。

「今だ!」

「「!!」」

 二人の敵は気づいた。俺の真後ろで諏訪が中華鍋を大きく背中まで振り上げていることを。しかし、気づくのが遅い。そのままみのりんスイングで砕け散れ!

「行きます!」

 諏訪は大きく振り上げた中華鍋を奴らに向けて振り下ろす。今までの相手だってこれで一撃K.Oしてきたんだ。こいつらだって例外ではないはずだ。しかし、中華鍋が捕らえたのは素手野郎の体ではなくただの空気。つまり、失敗だ。勢いあまったみのりんスイングの威力を静止するだけのパワーがなかった諏訪はそのまま中華鍋を手すりに強打させてしまう。

「!!!」

 痛みにならない感覚が諏訪を襲う。それでも中華鍋を離さなかったのは正解だった。カウンターとばかりに二人の男が同時に俺たちを攻撃してきた。俺はジャンプで避け、諏訪は素手野郎が投げようと掴んでくるその手を中華鍋で何とか凌いだ。

「なるほどな。今の大技に賭けていたというわけか」

 再び距離をとった敵は今の俺たちの行動を分析するようにつぶやいた。

「しかし、残念だったな。こんな狭い渡り廊下では一度はずせば勢い余った力でこのような手すりに中華鍋を当ててしまい、その振動がお前の腕に伝わる」

 ナイフ男はそう言って手すりを軽く叩く。

「ついでにいうと、お前のそれは構えるのに時間がかかるし軌道も読みやすい。俺たちに通用するような技ではない!」

「諏訪、どのくらい持ちそうだ?」

 敵の説教を聞く一方、俺は先ほど腕にダメージを受けた諏訪に小さな声でささやいた。

「かなりきついです。さっきの一撃で今まで中華鍋を支えてきた分の痛みも出てきてしまって…」

 マジかよ。今までが大丈夫だったから忘れていたがここに来て、ダメージが一気に諏訪の肩と腕にかかってしまったのか。

「今度の作戦は決まったか?」

 敵の二人は余裕しゃくしゃくといった表情だ。

くそ、ここまで来て力尽きちまうのかよ。俺一人じゃ奴らに特攻しても素手野郎に投げられ、その隙をついてナイフ男ががら空きの諏訪の元へたどり着いてしまう。

 一体どうすればいいんだ?どうすればこの悪状況を打破できる?

 考えろ!考えるんだ。動きで勝てないのなら後はこの頭の中に浮かんでくる頭脳プレー

に掛かってくる。とにかく卑怯でも何でもいいから奴らの隙を――

「やああああ!」

「「何!?」」

 今のは俺とナイフ男の声だ。そして俺の横を走り抜けていく一人の女の子。

「よせ、諏訪!無防備に突っ込むな!」

 無防備に突っ込めば俺と同じように奴に投げられる!

「ふん、中華鍋を両手で構えていれば投げられないとでも思ったか。甘……い!?」

 今の行動は俺にも信じがたかった。

 素手野郎に投げられる直前、諏訪は渡り廊下の滑りやすい床の性質を利用してスライディングしたのだ。そのまま素手野郎の股を抜け、ナイフ男の横を滑り去っていった。そしてすかさず後ろに回りこみ――

「よせぇ、すわぁぁぁぁ!!」

 しかし諏訪は構えをとかなかった。一瞬だが、諏訪の笑顔が垣間見れた。

「向井君、しっかり伏せていてくださいね」

 諏訪は微笑みながらそう言うと、もう限界に達している腕を大きく振り上げた。

「せーのぉ……吹っ飛べー!!」

 諏訪はがら空きのナイフ男の背中にみのりんスイングを叩き込んだ。

「ぐげぇ!」

「よ、よせ!来る……ブフゥア!」

 素手野郎はナイフ男との瞬間、大きく舌をかんだに違いない。そのまま悲鳴もあげずにナイフ男と二人、狭い渡り廊下の手すり・天井を数回バウンドした後、宙に投げ出された。奴らの落ちた先は校長が趣味で育てているらしい農園の土の上だったのでこの高さからでも死には至らないだろう。校長には悪いが、二人の命を助けるのに役立てたんだ。畑は死んでも何度でも助けられるが、人の命は失われたら二度と助からない。

「人の命…」

 そうだ、諏訪は!諏訪は無事なのか!?

 俺はぐったりと倒れている諏訪の体を抱き起こした。

「しっかりしろ!起きてくれ!」

 肩を揺さぶると、閉じられていた諏訪の目がゆっくりと開いた。そして、弱々しく笑いながら右手でピースした。

「我ながら、いい作戦だったでしょ?」

「馬鹿野郎!なんて無茶をするんだよ!」

「えへへ、右腕肉離れしちゃった…」

「馬鹿野郎!そんなになるまでどうして戦うんだよ!どうして俺に任せてくれなかっ

た?」

「だって向井君、必死に考えていたわりには行動を起こさないんだもん。まずはやってみようとするチャレンジ精神が大事だと思うなぁ…」

「それで死んだら意味ないだろうが!クラスの皆の仲を取り持てるのは俺たちだけなんだろ!どちらかが死んだら駄目なんだよ!」

「えへへ、嬉しいなぁ。向井君、そんなに私のことを必要だと思ってくれてたんだ」

「当たり前だろうが。あんたと俺は大切な戦友だ!」

「………」

「どうしたんだ?」

「諏訪君ってやっぱり変わった人だね」

「何だよそれ?」

「なんでもないよ…」

「まぁいい。とにかく先へ進もう。俺におぶされ」

 諏訪は小さく頷き、俺の背中にゆっくりとおぶさった。渡り廊下を進む途中もやはり俺は彼女に『変な人』扱いされていた。


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