Metal heart
「おらおらーいくぞぉ!」
巨大ロボの戦闘は序盤からネクラに押されっぱなしの状態で俺たちのロボットの活動エネルギーがものすごい勢いで減っていった。
「そらそらー、エネルギーがなくなって大破しちゃうぜぇ!」
そんなことを言ってもどこをどう触ればいいのかわからない。とりあえずアーケードゲームのようにキーボードをいじるが、思うように行動ができない。手加減なしのネクラの攻撃を防御することもままならなかった。とりあえず、矢印キーで移動させることができることはわかったので緩い攻撃はかわせるようになってきたが、それだけで形成を逆転することは難しい。
「向井君、Dのボタンを押しっぱなしにしてみてください。防御ができますよ!」
サンキュー、諏訪!俺は早速向けられてきたパンチ攻撃をDキーで防御する。なるほど、防御を始めると斜め右下のバーが減っていくのか。このバーがゼロになるまで防御は可能ってわけだな。攻撃を防御されて焦るネクラに俺はAキーでネクラの機体にカウンターパンチを送り込んだ。ネクラの機体が大きく吹き飛ぶ。
「くそぅ、よくもやったな!」
ネクラはキーボードを叩いてすぐに体勢を整えると、ジェット移動で俺たち二人の機体に接近してくる。
くそ、何か技はないのかこいつ。
俺は適当にキーボードを叩く。すると俺の機体はネクラの攻撃をジャンプで避け、そのまま股下に装備されているドリルでネクラの機体をぶちぬく。
「ぐわぁぁあぁ!」
しかし、この技の終わりは以外に早いもので、技が終了すると勝手に相手との距離をとってしまった。この隙を当然ネクラは見逃すはずがなかった。すぐさま反撃と言わんばかりに――実際には言っていたが――奴の技が炸裂する。これにより、俺のロボットのエネルギーがわずか数ミリのラインまで下がってしまう。
「ヒャハハハ!後一撃で向井は終わりだなぁ!」
はい、その通りです。早く終わらせてください。一刻も早く……。
一方諏訪はキーボードを何度も叩くものの一向に技がでない。機体を動かすだけで精一杯のようだ。
こりゃあ、本気で全滅するか。諏訪のロボットのエネルギーはまだ五センチくらいバーの長さが残っているものの、あの調子ではいつか近いうちにネクラの決定打をもらうだろう。しかし、あいつが勝ったらさぞかしうるさいことだろうなぁ。『僕の勝ちだぁ』とか『見たか愚民ども!』とか言いそうだな。そして、最後にうざったいほどの高笑い。
うう、それだけは勘弁してほしいかも。負けた後に思いっきり奴を殴れてしまうではないか。
俺がそんなことを思っている横で諏訪が座っていたパソコンの画面がまばゆく輝いた。
ネクラの顔が恐怖に歪む。
俺は自分の席を離れ、諏訪のパソコンの画面を覗き込んだ。
「何をしたんだ!?」
「わ、わかんない!適当に押してたら画面が急に光って…」
こ、これはもしや格闘ゲームなどを始めたばかりの初心者が生み出す驚異のビギナーズラックではないか?
画面には『殲滅 ゴンザレムストライク!』と出ていたが、その後のゴンザレムのモーションからしてこれはまさしく――
(対ネクラ専用☆みのりんクラッシャーだ)
意味もなく星マークを入れてみたが、これくらいの茶目っ気は許されてもいいだろう。
全てを焼き尽くすレーザーがネクラの使用機体を一撃で葬り去った。
「ぐひょええええ!!」
爆発の圧力を受けたネクラの体は椅子から放り出され、そのまま机の角で頭を打って伸
びてしまう。まぁ、ネクラらしい栄誉ある死に方だ。
「すげぇ、一撃必殺技かよ…」
俺はしばらくパソコンの画面にでかでかと表示されている『DESTORY!』の文字に唖然としていた。
「向井君、これって相手を倒したことなの?」
超必殺技を出した後だというのに事がさっぱりわかっていない諏訪はきょとんとした表情で俺に問いかけてくる。
これは俗に言うあれだろう。素直な心の勝利というやつだ。怪訝そうに俺を見上げる諏訪に俺はただただ苦笑を浮かべるだけだった。
伸びているネクラはそのままに俺たちはさっさとコンピューター室を引き上げた。ただでさえ暗い中でパソコンの画面を見続けたせいで、目がすっかりチカチカしていた。諏訪は最後までネクラを介抱したほうがいいのではないかとねばったが、俺はもう一秒たりともこんなオタク部屋にこもる気にはなれなかった。
そのまま経済学棟を後にした俺たちは次の刺客を探して夜の校舎を彷徨う。
「なぁ、諏訪…」
俺は西に傾きつつある月を見上げながらつぶやくように言った。
「なんだかんだ言ってあんたと一緒にクラスの連中と戦うのは楽しかった。あんたには何度も助けられたよな」
「どうしたの、急に」
諏訪は照れているのだろうか。少し声が上ずっている。
「さっき、あんたはこの戦いが終わらなければいいなと言っていた。それは俺も同じ気持ちだった。俺だって、この楽しいときがずっと続けばいいと思っていた。でも、これは幻なんだと割りきろうとしていた」
「………」
「でも、やっぱり割りきれないや。諏訪と一緒に戦っている今を明日には幻だなんて決めつけることは俺にはできない。少なくとも今夜の一件であんたとは戦いを通じた戦友になれたと思う。この関係は明日になっても消えることはないと思う。だからさ、もし他の奴らが今日のことを忘れていたとしても俺たちだけは今日このときのままの間柄でいよう。そして、俺たちを中心にクラスの奴らとの友情を育てていこう!俺たちから始めていこう」
これが今の俺の正直な気持ちだった。今の俺にはもうさっきまでと違って割りきった気持ちはどこにもない。なんだかんだ言っても楽しかった今夜の出来事を幻になんてしたくないんだ!
諏訪はゆっくりと夜空を見上げた。
「私もこのままいつもの日常に戻るのは嫌。そうなるくらいだったら、いっそのこと学校を辞める」
諏訪の衝撃宣言に俺は両手の拳を固く握った。
「そのつもりでいたんですよ、さっきまでの私」
夜空を見上げていた諏訪はどこか自嘲じみた表情で笑った。
「でも、向井君の話を聞いていたら何だかその考えが馬鹿らしくなってきちゃった」
諏訪は一呼吸間をおいて、今度はどこか爽やかさを感じる笑みを浮かべて続けた。
「そうだよね。誰かが動くのを待っていちゃいけないよね。少なくとも私と向井君は友達になれたんだもん。私たちからみんなの関係をスタートさせていけばいいだけの話ですよね。何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう私」
「気づかなかったんじゃない。気づこうとしなかったんだ。自分が傷つくのを恐れていたから」
「そうかもしれない。でも、もう大丈夫。今の私は一人じゃない。向井君がいる」
「俺にも諏訪がいる」
「私たちが」
「俺たちが」
「「皆の仲を取り持つ役を演じるんだ」」
戦いという、今の世の中には不必要なもので関係を培った俺たちだからこそ――
「だからこそ、やらなくちゃ」




