Steeplechase
話の内容も冷めてしまったところで俺たちは再び残りの刺客を倒すために立ち上がった。
「あれ?」
テラスを去ろうとしていた俺の目に飛び込んできたのはグラウンドに小さく見える人影のようなもの。
「あんなところにいやがったか」
「探す手間がはぶけましたね」
「ああ、行こうぜ」
俺たちは空になった缶ジュースの缶をゴミ箱に捨てると、グラウンドに向かった。
グラウンドの中央に立っていた人影はやはり俺たちのクラスメイトだった。今回に限り男ではなく女のほうに俺は面識があった。といっても別に親しいわけではない。まったく見知らぬ間柄なのだが、その身長が目に付くのだ。俺の推定だと、大体百七十中盤あたりだな。うちのクラスの男連中でもそのくらい高いと背の高さ順で並んだときに最後尾に近い位置に立つことになる。無論、彼女は女子の中では断トツトップで最後尾だ。まるでバレー選手並の高身長である。将来彼女の旦那になる男は可愛そうだな。
閑話休題、とにかくグラウンドには彼女ともう一人背の高さはそこそこの男が立っていた。
「俺たちを無視して楽しげに話していたナ」
「別に無視していたわけじゃないがな。気づくのが遅かっただけ」
「そのおかげでこっちは待たなくてもいい時間を無駄に待っていたのヨ」
「そんなことを言われても……」
諏訪は眉をハの字に曲げて小さく口を動かした。
「とにかくぐらうんども広いことだしバトルをするには絶好の場所ダ」
「そうだな。それで、何をするんだ?お決まりの殴り合いか?」
「無粋だナ。周りをよく見てみろ」
いちいち言うことが腹立たしいが、俺は奴に言われたとおりグラウンドを一周グルリと見回してみる。グラウンドには、所々にハードルやら網やら平均台、跳び箱他各種類の用具が丁寧に一定の間隔で並べられていた。
「わかったカ?」
「ああ。つまりは障害物競走ってわけだな。でも、ただの障害物競走じゃないんだろう」
「いいえ、ただの障害物競走ヨ」
これは何とも拍子抜けな答えが返ってきた。いや、普通で考えたら拍子抜けなんてしない答えなのだが、今まで俺たちは五回も日常ではちょっと考えられないとんでもバトルを強いられてきたために何か裏があるのではないかと若干疑心暗鬼になっていたのだ。
「ただし、条件があル」
何だ、やっぱりあるんじゃないか。俺はなぜか内心ホッとしていた。勝負の途中に知らされるよりも今知らされたほうが安心できる。
「俺たち二人は中学も陸上部でここでも陸上部に所属していル」
「そんな私たちとあんたたちの実力差は雲泥の差、月とスッポん」
いちいち言うことが本当に腹立たしいが、ここはこらえて条件に耳を傾ける。
「そこで俺たちはあるるーるを設けタ。お前らは今まで様々な奴らと戦ってきただろウ。そこの女を見てもわかるとおりいくつかの武器も隠し持っているはずダ。だから、お前たちには特別にそれの使用も許可すル」
「それに加えて距離のはんでもつけてあげるワ」
「この条件で我々と障害物競走で勝負ダ!」
何かこいつらの目がやたらと輝いている気がするのは気のせいだろうか。まぁ、いい。どうせ逃げることはできない勝負だ。嫌でも受けて立たなきゃいけない。
「いいぜ、受けたってやるよ。な、諏訪?」
「もちろん!」
俺の気のせいだろうか。諏訪の表情がいつになく自信に満ちているような感じがするのは。
「まずは我々から勝負開始ダ」
その声に俺は我に返り、男の後についてスタートラインにつく。
「距離のはんでは五十めーとるだ。異論ハ?」
「ないぜ」
「向井君、頑張って!」
激励してくれる諏訪に俺は片手を上げ、スタート位置につく。




