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Phantasma

「さぁ、踊れおどレー!」

「皆もたのしく踊ロウよ!」

 と言って勝手に踊っているのはこいつらだけじゃないか。巻き込まれた俺たちは何が何だかわからないまま即席ダンスショーの観客になっていた……のも束の間だった。

「おわ!?」

「なになに!?」

 俺たちはいつの間にか下に降りてきていたバックダンサーの女どもに無理矢理ステージの上げられてしまう。

「ヘイ、ボーイ!そんな顔してオレタチを見ていたっておもしろくないだろウ。楽しくよウきに踊ろウゼ!」

「そ、そんなこと言われてもなぁ。別に踊りたい気分じゃないし、夜中なんだからもう少し静かにしたほうが…」

「つべコベ言わずニさぁ、オドレー!」

 俺は五人の男たちに囲まれるや否や、無理矢理手足を捕まれ、振り回された。

「お、おいこら。よせ!わ、とと、こけるだろ!」

 俺が男五人に捕まっているのと同じように諏訪もまたバックダンサーの女たちに捕まって無理矢理踊らされていた。しかし、人間やはり楽しい音楽というもに逆らえないものなのかもしれない。五分も経つと、俺たちはすっかりその気になってダンスを踊っていた。

 近所迷惑なんてなんのその!

 楽しければそれでいいのさ!

 結局俺たちは数曲踊った後、須磨高スマップ(自称)たちとバックダンサーの女子生徒たちに別れを告げて、次のライブステージへと……じゃなくて担任を探すため校内へと戻ることとなった。

「楽しかったですねぇ」

「ああ、超大満足だ」

 俺たちは曲のテンポに酔いながらポテポテと再び校舎側へと戻っていった。

「結局あの人たちも私たちのクラスメイトだったわけだけど、今までみたいな感じじゃなかったね」

「いいんじゃないの?楽しかったし、無駄な汗と血を流さずに済んだし。おまけにこんなに気分がいいんだ」

「アハ、実は私もです」

 諏訪はそう言って可愛らしく微笑んで見せた。

 さてさて、十分遊んで、もとい戦った俺たちはその熱気を冷ますために再び食堂のテラスで風に当たっていた。さっきまでは湿っていてうっとおしかった風も今となってはとても涼しく感じられる。

「ほい、ジュース」

 俺は諏訪に自販機で買った冷たいジュースを渡した。

「これ、向井君が?」

「そ、俺のおごり。諏訪の好みを知らなかったから適当に選んだけど」

「ううん、ありがとう。向井君って割と女の子に優しいんですね」

「たいていの男は女の子には優しいものだよ。俺もそれに従っているだけ」

「それでもかまわない。私は今、向井君からジュースもらってとっても嬉しいから」

 う〜ん、何とも青春真っ盛りのような会話だなぁ。

 向井君からジュースもらってとっても嬉しいから、だってよ。くぅ〜、たまらないねこの感じは。当たり前だと思ってしたことでこんなにも嬉しくなるなんて思わなかったな。

 乾いた音を響かせて、缶ジュースの蓋を取り中身を一気に飲み干す。

「ぷはぁ、うめぇ!」

 実はこれ一度やってみたかったんだよな。俺の親父が仕事から帰ってきて一人で晩酌するときによく言う台詞。何がぷはぁだ、と馬鹿にしたものだがこうして汗をかいてみるとよぉ〜くわかる、わかるぜ親父。

「向井君、親父くさ〜い」

「いい。この瞬間だけ俺は親父になる。これ、すごくはまった」

 そう言って俺はもう一度缶ジュースの中身を一気に喉に流し込み、同じ動作をする。いやぁ、たまらないね。

「向井君って変な人だね」

 諏訪が笑いながら言ってくる。

「おいおい、たったワンアクションで人を変人扱いするなよ」

「だって変だもの」

 諏訪はケラケラと笑う。笑いが止まらないところをみるとなんだかんだ言ってこいつも今の動作が笑いのつぼに入っているんじゃないか。本当に可愛い奴め。

 俺たちはその後も他愛もない会話をしながら月夜の歓談を楽しんだ。

 俺も諏訪も数時間前と違って自然に向かい合って会話できるようになっていた。

何だ、打ち解けるって意外と簡単なことじゃないか。ほんの数時間一緒にいるだけで、まして学校生活は今の俺たちと同じくらいの時間一緒にいるんだからすぐにでも仲良くなれるはずだ。俺たち二人をきっかけにクラスの皆がどんどん打ち解けていくといいよな。

「………」

「どうした?」

 さっきまでずっと明るく笑っていた諏訪の笑顔がピタリとなくなったので俺は何かまずいことでも言ったかと必死に数分前までの話の流れを思い起こしていた。

「ううん、なんでもない。ただね、さっきの須磨高スマップを見ていて思った。皆あんなに楽しそうにダンスを踊っていたのに、この戦いが終わったらそれも忘れちゃうのかなって」

 そうか。所詮、これは狂った俺たちのクラス担任が作った虚構の出来事、つまり幻なんだ。夜が明ければきっと今夜のことも忘れてまたいつも通り仏頂面をして学校にやってきて教室で一日を過ごすんだ。

「そう思うとさ、ずっとこのまま戦いが終わってほしくないなって思う」

 諏訪は悲しげにつぶやいた。

「そうだな。確かに、昨日まで学年の中でもあんなに浮いたクラスだったのに今夜に限っては別物なくらい楽しかったよな。皆、明日になったら忘れちゃっているかもしれないと思うと悲しくなるよな」

 俺だって諏訪とのこの関係が虚構のものとなって、初夏の風にさらわれてしまうのは嫌だ。でも――

「でも、この戦いは終わらせないといけない」

「……うん」

 諏訪は俺の言った結論に納得していないのだろう。渋々といった感が否めないような頷き方だった。


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