Ready?
とある小さな町にある小さな高校。須磨ヶ岳高等学校は俺が今年から通うことになった緑豊かな高校だ。
緑豊かだ、というと大抵は自然に溢れた素晴らしいところだと予想するかもしれないが、実際そんなことはない。なんたって、ただ山の上に建っているだけだからな。俺が思うに山の上に建っている高校っていうのはなんだかんだで緑豊かなとか、自然がいっぱいのとかっていろいろ事実とは無関係なことを言われてかわいそうだと思うのだ。そして、俺は普通の公立中学校から受験を経てこの須磨ヶ岳高校、略して須磨校に受かって今年の春から気分新たに高校生活を楽しんでいるわけである。
いや、実際高校生活を楽しんでいる奴が自分の高校生活を振り返って楽しんでいるわけであるなんて書かないか。楽しんでいるならもっとあれは楽しいこれが楽しいとか言うべきだろう。
あほか、俺は。女じゃあるまいしそんなどうでもいい日常をぐだぐだと語れるかよ。まったく、今日の俺はどうかしている。モチベーションは低いくせにやたらとその場を盛り上げようとしている三流の司会みたいだ。しかし、そう思うのも無理はない。俺が所属することになったクラスはどうにもとっつきにくい奴らばかりなのだ。とっつきにくいというより、とっつかせてくれないといったほうが正確だといえる。まず、新クラスになったらするであろう自己紹介も担任のリードの下手さ加減も手伝って名前と通っていた中学を言うだけで終わったし。こういう時はどのクラスにも必ずいるであろうクラスのムードメーカー的な存在の奴が場を持ち直すものだが、俺のクラスはなぜかそういうキャラが揃わなかった。
一人ひとりの自己紹介が終わるたびに訪れる気まずい間、それに充分に浸ってから次の生徒に自己紹介を促す担任。
もう最高だね。ここまで完璧だと笑えてくるよ。結局、始業式の日は気まずい空気の中で担任が連絡事項を読み上げるだけで即解散となった。後で学年主任の先生から聞いた話だと、俺のクラスがホームルームを終えた時間は本来予定していた時刻より三十分以上も早かったらしい。
のっけからこんな調子だった俺のクラスはその後も特に誰かが誰かと仲良くなるなんてことはなく、常に空虚な時間をかもし出してきたため周囲のクラスからは根暗の空間とまで呼ばれる始末だった。
何とかしようとは思わなかった。もともと人同士の仲を取り持つなんて器用なことはできないし、これはこれでいつまでこういう状況が続くのだろうかという賭けができたりもする。無論、俺は一年間絶対無理だという側に賭けている。あいつらが自分から仲間に心を開いていくことなんてまずありえない。
担任がそのことで他の教師や学年主任に絞られている様を何度も見た。その後、屋上で頭を垂れている担任を暇つぶしとして見物させてもらったこともある。
俺のクラスの担任は結構若い方だと思うけど、ここまで覇気のない教師というのは初めて見たね。ホームルーム終わるたびに一つ大きなため息をつくあの癖も今では全員が日常茶飯事としてしか受け取っていない。
ああ、慣れとは恐ろしい。
しかし、もう時期そうも言っていられなくなる時期がやってくる。さぁて、俺のクラスがこれからどのように動くか楽しみだね。