第一話 もう一つの世界
第一話 もう一つの世界
人には表と裏がある。外にいるときや仕事ではあたかも明るく振る舞い、自分の裏を隠す。それが悪いとは言わないが、隠すことで溜まるストレスも存在する。そのストレスエネルギーはどこへ行くのだろう。そう、裏だ。
「おーい!蓮、遅いよ」
「待てって。お前が早すぎんだよ」
オレ、陽野川蓮は親友の神谷正輝と女友達の瀬月碧と共にこの人里から少し離れた山を登っている。
なぜって?今日は流星群が流れてくると予測されている日だからだ。まぁわざわざこんなところまで来る必要はないだろうが、特等席で見れたほうが最高だろう?
そんなわけで、今は正輝を筆頭にほのぼのと整備の行き届いていない林の中を歩いている最中だ。
「しかし今日は天気がよろしくないね。見れるかな」
「まぁ仮に見れなかったとしても、この三人で登る山登りは楽しいぞ」
「ははっ。確かに」
そう。正輝の言う通り今日は星一つ見えないほど雲が空の邪魔をしている。それに今は夜の十一時だ。街灯が一つとしてないこのクソ田舎の山は強い懐中電灯がないとそもそも周りが全く見えない。
ただ、そこにはスリルがあり、緊張感もある。オレたちはそんな日常では味わえない感覚を味わいに来たというのも一つの理由だろう。
「ね、ねぇ陽野川くん。私、すごく怖い」
「あ、そうか。ほら、懐中電灯貸すよ。これで少しは怖くなくなっただろ?」
碧が突然オレの裾を掴んで言ってきたので少しドキッとした。手に持っていたライトの力が強い方を渡し、オレはポッケから小型の懐中電灯を手に持った。
「ニヤリ…」
先頭の正輝が振り返り、ニヤつきだした。それはもう殴りたくなるほど口角を上げてな。オレには何をからかおうとしていたのかは分からないが、おそらく「蓮さん優っさしー」とでも思っているのだろうか。
グルルルルル……ガオォッ!!
「うわっ!熊だぁ!逃げるぞー!」
「きゃあ!嘘!!」
「突然だな…!」
林に入って少しして、緩やかな上り坂に差し掛かったとき、突然山の上の方から熊が飛び込んできた。
俺達は軽く横に躱して、逃げるように走る。さすが山道...!当然のように突然熊みたいな夜行性の生き物が出てくる。と思ったら熊の鳴き声に共鳴するように周りの動物たちも騒ぎ出した。その森の叫び声に全員がビクッ、と驚いた。
「もうヤダぁ!なんで来ちゃったんだろう私!」
「ぎゃぁぁ!逃げろぉ!ははははっ」
「お前楽しみすぎだろ」
正輝は笑いながら走っている。それはもう狂ったように。碧は来たことを後悔している。最初にここに行こうと言ったのはあなたですよね?
しかし熊って足が速いイメージがあったが思ったよりも遅かったようだ。走ってるうちに周りの動物の声も次第に遠のいていく。そこでオレたちは足を進める速度を落とした。
「はー撒いたか。覚悟はしてたがまさかこんなにいたとは」
「でも蓮は追われるの好きでしょーが」
「うっせ」
一瞬だけだが頭に来た。あいつが言ってきた言葉の意味はおそらくオレが女子に告白されまくっていることについてだろう。それをあいつはオレが追われているのを好んでると言っているようで気分が良くない。好きでやられてるわけないのに。
「でも確かに陽野川くんは女子たちからよく告白されてるよねー」
前のめりになりつつこちらに顔を寄せてオレに言ってきた。ちょっとそこのお姉さん!?いつも告白されるときすごい恥ずかしいんだからね?
「ぐっ、、ま、正輝は女たらしじゃねぇかよ」
「た、たらしてねぇし」
実は正輝も人のことを言えない。高身長で可愛い系のこいつは大層モテる。そりゃまぁいつも女子に囲まれてるわけ。ということで異名は「女たらし」だ。
「いーや確信犯だね。だよね?碧」
「ま、まぁ?噂はそこそこ…」
「ち!」
言い返せなくなったのか少し可愛げのある舌打ち、というか言葉を発した。囲まれてるだけとはいえ、たらしてる自覚があったのだろうか。
……そうこう話しながら歩いていたら、林を抜けてこの山の頂上に来ていた。
「通り抜けたー!かの有名な悪魔のクロスロードを」
「何だよその名前」
「わー!景色綺麗」
正輝は相変わらずのギャグ選だな。碧は興味なさげだけれども。
頂上には少し整備された凸凹したアスファルトの広い空間があり、そこから自分たちのまばゆいビルの立ち並ぶナイトタウンを一望できるようだ。ただ目の前は崖。柵もなければ助けてくれる人もいない。気をつけなければ。
ただこの景色、晴れだったら星が見えてよりきれいだっただろうに。最も、流星群が雲より下に落ちてくれないと見れないが。
「予定時間まであと何分だ?」
「えっと、あと、十分くらい」
「じゃあここらへん探検しようよ」
オレらは碧の意見に合意した。景色を眺めてるのもいいが、オレたち三人組はじっとするのがあまり好きではないからな。
…しかし不気味だ。季節はもう冬に近い。動物たちはまだ冬眠していないはずだ。(さっき襲われたし)なのに今は少し静かすぎるような気がする。音一つしない。もう少し虫や動物の声がすればこの緊張感はほどけるだろうか。正輝と碧ががいなけりゃ来なかっただろうな。
「あれ?ねぇ皆、あそこなんか光ってない?」
碧が突然景色を眺めていたオレと木登りしていた正輝に問いかける。碧はオレたちが登ってきた反対側の崖下を覗いていた。光だって?この山奥で?
「どれだ?」
「ん?何々〜」
「確かここらへんだった気が…」
あまり高さがなかったので崖を飛び降り、その光のもとへ歩いていく。だんだん近づくにつれ、体が少しピリピリしだしてきたが、そこまで気にならないので進むことにした。
「あっ、何だ鉄塔か」
碧は見つけてつまらなそうな表情になった。一体何を望んでいたのやら。
ともあれ、なぜかここには鉄塔があった。山によくある電線が鉄塔伝いに繋がっているあれだ。ただ、この鉄塔には電線がない。孤立している。正輝の言っていた光とはこの鉄塔の下のよくわからない大きな四角い機械のライトの点滅だろう。触れてみるが、やはり分からない。なんなんだ?これは。バッテリー?
「まぁ光の正体がわかったんだし、戻るぞ。ここじゃ流星群が見えねぇ」
光を追ってそこそこ移動していたようだ。予定時間までもうあと少しだろう。こんな木々の中で見えるか見えないかの流星群を見るのはゴメンだね。そう言って戻ろうとしたその時。
「プッ、蓮〜、何その髪」
「ん?」
突然正輝が呼び止めるようにオレの後頭部をつついてきた。オレはふと思った。多少普通の人よりは髪の癖は強いが、セットはしてるしケアも欠かさない。ましてや親友に髪のことをイジられるのは初めてだ。
だが自分の髪を触り、なぜ呼ばれたのかすぐわかった。なんと髪が所々立ち上がっていた。それも下敷きで擦ったあとの髪のように。
「はぁ?何だこr…」
と、ふと察したオレは喋りながら正輝と碧に顔を向ける。まさかとは思ったがそのまさかだった。二人も同じように髪が立ち上がっていた。
「ふ、メデューサみたいになってんぞ」
「え?うわ!」
二人ともお互いを見合って同時に驚いた。その中でも正輝は最近美容室でパーマをかけてもらっている。そのせいで立ち上がった髪はうねうねでまるでメデューサのあのヘビの髪と瓜二つだった。笑えるね。
「そんなことより、おかしくないか?なんで静電気なんか……静電気…まさか!?」
「どーいうことだよ?」
急いで真後ろにある鉄塔の柱に向かって、そこら辺の木の枝を投げてみる。するとなんとビジッという音とともに木の枝が発火した。
「えっ?燃えた!?」
やはり読み通りだ。この鉄の柱には超強力な電気が流れていた。さっきここに来るときのピリピリはまさかこれが原因だったのか。もう周辺で電気関連の物事を起こせるのはここだけだ。
そこで名探偵蓮さん始動!体は高校生、頭脳も高校生……ん?ただの一般人じゃねぇか。まぁそんなことはいい。電気が走っているということは電線の故障か外部的な電力の伝達。大きく捉えるとその2つだ。そしてこの鉄塔には電線がついていない。つまり答えは外部的な電力の伝達だ!(何もわかっていない)
ゴロゴロゴロ…!!ドシャッ!!
そんな考察をしていたら突然近くで雷が落ちたようだ。
「なんだ雷のせいかよ」
あっなるほど、名探偵さんは要らなかったようだ。答えは雷だ。もっと面白い答えを望んでいたが、現実はそんなにミステリーはないようだ。一度この鉄塔に雷が落ちたからたまたま電気が滞留していたのだろう。
「陽野川くん。雨は降ってないみたいだけど」
「ホントだな。…でも聞いたことがあるんだ。雨が降らずとも雷が落ちる事例を」
確か湿気てないときは電気抵抗が強くなるんだっけか。そんなニュース……今でも思い出す。あの時あの場所の。
「てゆーかそれならここはまずいと思うよ?こんなのもう避雷針じゃん」
確かに正輝の言う通り、この鉄塔の真下にいるのは非常にまずい。この地区周辺で一番高い山の上、プラスこんな避雷針の役割を持ったような鉄塔。絶対に雷が引き寄せられるに決まっている。
「あ、あぁ。まずいな、急いで離れるぞ」
オレは一旦冷静に考えた。すると非常に焦った声色になり、血の気が引いた。普通に考えたらここに雷が落ちたらオレたちもどうなるか分からないからだ。死?それだけは絶対にごめんだ。まだあいつに好意さえ伝えていないのに!
二人を呼んで急いでこの場から立ち去ろうとしたその時、トラブルが発生する。
ドガシャァァァ!!
間に合わなかった!鉄塔に雷が落ちてしまった。咄嗟の判断でオレは碧に飛び込んで押し倒し、上に乗っかり壁になる。もはやこれはハグだ。恥ずかしい。正輝はというと、土下座のポーズを取っていた。確か、あのポーズなら電気が心臓に達さず地面に流れるんだっけ。だがオレにそんな余裕はなかった。
「くっ…」
「陽野川、くん!?」
雷の発する白い光と刺々しい稲妻は鉄塔を囲うように広がっていき、みるみるオレたちを飲み込んでいった。正輝はあの体制だったとはいえ、流石に数千万ボルトの落雷を食らっては死ぬ。電気抵抗どうのはもはや意味を成さないだろう。
告白、したかったな。オレはただのヘタレだな。ごめん、兄さん。あの事件、解決する前に同じところに向かいそうだよ。
ウゥーピーポーピーポー……
十四年前、オレが三歳の頃だったそう。なんてことない夜の山道のドライブを、父は運転、隣に兄。母はオレをだきかかえ後部座席に。
四人で楽しくドライブを楽しんでいたらしいが突然、かなり強力な雷が前の窓を割り、左前に座っていた兄に直撃したらしい。運転手の父はひどく焦り、兄の安否を確認する前に事故ってしまったそうで、気がついたときには兄は姿をくらましていた。
警察や救急車が駆けつけ、三週間にも及ぶ捜索が行われたが、打ち切り。雷直撃の原因として、近くにあったある鉄塔によるものだと断言され、テレビで報道された。
物心つく頃には兄の存在を聞き、二年前までは事件の真相を突き止めるために色々と奔走していたが、結局オレも警察側と同じ道を辿ってしまった。あれはただの事故なのだと。
残った不可解な謎は兄の遺体の場所のみだった。そこそこ異世界ものが好きだったオレは、突然どこかに転移したんじゃないかなと妄想をくらましていた。
「う……」
い…きてる?良かった。オレたちは助かったようだ。あの強烈な天からの怒りを乗り越えたのだ。
「あれ?体…が、痺れてる」
まぁ当然だろう。雷を食らったんだ。だが地面に突っ伏してるのは痛い。ん?突っ伏している?
「碧は、どこいった。正輝、は」
周りには誰一人としていないようだ。オレはゆっくりと状態を起こし、鉄塔の柱にもたれかかったあと、立ち上がった。
「まさか…!兄の時と同じ状況…なのか!」
だがその理論だとオレは今現実で行方不明になってるってことか?じゃあ今生きているかすらも怪しい?そんな非現実的なことがあり得るのか?ここは霊界なのか?じゃあ兄がここに。…駄目だ、頭がパンクしてしまいそうだ。
「とりあえず、街まで降りるしかないな」
正輝や碧がいるかもしれない。というか降りない選択肢は存在しないだろう。山の上なんだから。
少し薄暗い。夜明け前なのだろうか。オレはなんとかさっき飛び降りた崖をよじ登り、アスファルトの空間の場所まで戻ってきた。
「なんだ?ここは…」
そこで街を見たオレは驚きを隠せなかった。ビルが立ち並ぶあの風景が、すべて黒く染まっていたからだ。オレは一瞬にして理解してしまった。ここが現実世界ではないことを。
第二話 裏人へ続く……
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