第15話 決勝戦
二日目。
男子400m準決勝。
昨日通ったことで気持ちが軽くなるかと思っていたが、逆だった。
残ってしまったからこそ、ここから先が欲しくなる。
招集前、相沢が言う。
「昨日より、顔がちゃんとしてる」
「……それ褒めてますか」
「半分」
神崎もそこへ来た。
「朝倉」
「はい」
「準決も、最初の二百で急ぐな。第四コーナーまで残せ」
「はい」
「県で二本目になると、前半だけで押し切ろうとする奴が増える。そこに引っ張られるな」
蓮は深くうなずいた。
号砲。
準決勝は、予選より速かった。
誰も落ちてこない。
二百まで我慢しても、前との差が簡単には縮まらない。
それでも蓮はペースを落とさなかった。
第三コーナーから身体を入れる。
第四コーナーへ入ってもフォームがくずれないように保つ。
ホームストレート。
苦しい。
だが、昨日より残せている。
ゴール。
結果は組二着。
決勝進出。
真壁が拳を握る。
「よし!」
西野が声を上げる。
「行きました!」
瀬川が言う。
「今のは良かったです。最後まで、落ち幅が小さかった」
相沢は短くうなずく。
「肩は上がったけど、残したな」
蓮は息を整えながら返す。
「はい」
その日の午後、400m決勝。
県の決勝のレーンに、自分が立っている。
それだけで、少し現実感が薄くなる。
だが、号砲が鳴れば関係ない。
決勝は、明らかにレベルが違った。
前半から速い。
中盤でも落ちない。
第三コーナーで上げても、相手も同じように残してくる。
それでも蓮は逃げなかった。
苦しさを抱えたまま、ペースを落とさない。
第四コーナーへ入っても、フォームを保つ。
ホームストレートで、最後の一歩まで前を切らさない。
ゴール。
全員が掲示板を見る。
数秒遅れて表示が切り替わる。
五着。
そして、南関東大会出場圏内。
蓮はしばらく動けなかった。
悔しさがないわけではない。
もっと前へ行きたかった。
だが同時に、県でここまで来たという事実も否定できない。
神崎が肩を軽く叩く。
「行ったな」
「……はい」
相沢が少し離れた場所から言う。
「これで個人は南関だ」
真壁が笑う。
「朝倉、お前、ほんとに一年かよ」
瀬川も小さくうなずいた。
「これで、県で終わる選手じゃないことは分かりました」
蓮は掲示板から目を離せなかった。
個人400m。
南関東大会進出。
その文字列だけが、少し遅れて実感になった。




