「回復魔法しか使えない聖女など不要」と追放された私は、辺境で『万能ポーション』を振る舞う。――え、これ、ただのハーブティーですけど?
「クロエ。お前は今日をもって、この勇者パーティーから追放だ」
王都の一等地に構えられた、勇者パーティーの広大な拠点。
その豪華なサロンの中心で、勇者であるアレン様は冷酷な言葉を私に投げつけました。アレン様の隣では、魔法使いのサリナ様が鼻で笑い、剣士のガイル様がやれやれと肩をすくめています。
「え……?どうしてですか、アレン様。私、何か粗相をしましたか……?」
私は突然の宣告に、持っていたティーカップを落としそうになるのを必死に堪えながら尋ねました。
私はこのパーティーの『聖女』として、これまで彼らの傷を癒やし、身の回りの世話をしてきました。戦闘では後衛に徹し、彼らが存分に戦えるように精一杯サポートしてきたつもりです。
しかし、アレン様はため息をつきながら、忌々しそうに言いました。
「粗相どころの話じゃない。お前は無能なんだよ。戦闘では一切役に立たず、後ろで震えているだけ。お前ができることと言えば、せいぜい回復魔法を使うことと、その無駄に時間のかかるお茶を淹れることくらいじゃないか」
「ですが、私の回復魔法は……」
「回復魔法なんて、今や高価なポーションをまとめ買いすれば事足りるんだよ!むしろ、ポーションの方が飲むだけで一瞬で回復する。お前がいちいち祈りを捧げて回復魔法をかけるのを待つより、よっぽど効率的だ」
サリナ様が、嘲笑うように言葉を継ぎます。
「そうそう。それにあなたの回復魔法って、光が淡く灯るだけで、なんか地味なのよね。ポーションの方がよっぽど『回復してる!』って感じがするわ。私たちのような最強のパーティーには、あなたのようなお荷物は不釣り合いなのよ」
私は言葉を失いました。
確かに、私の回復魔法は少し変わっているかもしれません。一般的な聖女が使うような、神々しい光の柱が立つような派手なものではなく、ただ温かい光がじんわりと包み込むだけ。
それに、私は戦闘の才能が全くありませんでした。剣も振れず、攻撃魔法も使えない。
「分かったか?回復しかできない無能な聖女など不要なんだ。お前はもう自由だからな。どこへでも行くがいい。ただし、王都にはもう居場所はないと思え。魔物が徘徊する辺境の地で、せいぜい薬草でも摘んで暮らすんだな」
アレン様はそう言い捨てると、私に背を向けました。
こうして私は、長年尽くしてきた勇者パーティーからあっさりと追い出され、王都を追放されることになったのです。
―・―・―
王都から馬車に揺られること数日。
私が辿り着いたのは、国境付近にある辺境の村、ルミナスでした。魔の森に隣接しているため、常に魔物の脅威に晒されており、住む人もまばらな寂れた村です。
「はあ……本当に辺境まで来ちゃったな」
私は荷物を抱えながら、村の入り口でため息をつきました。
でも、不思議と悲壮感はありませんでした。
勇者パーティーにいた頃は、常にアレン様たちの顔色を伺い、少しでも役に立とうと必死でした。戦場に出るたびに生きた心地がせず、毎日がプレッシャーの連続だったのです。
「攻撃魔法が使えないのは事実だし、足手まといだったのは本当だもの。それに……」
私は自分の手を見つめました。
「私、もともとお茶を淹れたり、薬草を育てたりする方が好きだったし。のんびりスローライフを送るのも悪くないかもしれないわね」
そうと決まれば、まずは住む場所です。
村長さんに挨拶に行くと、彼は私の身なりを見て驚きつつも、快く空き家を貸してくれました。
魔の森に近いせいか、若い人たちは皆都会へ出てしまい、空き家はたくさんあるとのことでした。
私が借りたのは、村の端にある、少し古びた木造の一軒家でした。
「よし!ここを私のお城にしよう!」
私は早速掃除を始め、持ってきたなけなしの資金で家具や茶葉、そして少しの薬草を買い揃えました。
勇者パーティー時代から、私はお茶を淹れるのが趣味でした。戦闘の合間の休憩時間に、みんなに少しでもリラックスしてもらいたくて、独自にブレンドしたハーブティーを振る舞っていたのです。
「時間のかかるお茶」と馬鹿にされていましたが、私にとっては心を込めて淹れる大切な時間でした。
数日後。
私の新しい家は、小さな看板を掲げたお店へと生まれ変わりました。
看板には柔らかい文字で『喫茶 クローバー』と書かれています。
「ふふっ、これで私も一国の一城の主ね」
私はカウンターの奥で、満足げに頷きました。
提供するメニューは、私がブレンドした特製のハーブティーと、少しの焼き菓子だけ。
ポーションなどの魔法薬は置いていません。だって、私は錬金術師ではありませんから。
しかし、開店して数日が経っても、お客さんは一人も来ませんでした。辺境の村で、わざわざお金を払ってお茶を飲む人などいないのは当然かもしれません。
「まあ、のんびりやりましょう。今日は新しいブレンドを試してみようかな」
私が厨房でお湯を沸かし、乾燥させたカモミールと少しのミント、そして魔の森の入り口で採ってきた名もなき薬草をブレンドしていた、その時でした。
カランコロン、と。
入り口のベルが弱々しく鳴りました。
「い、いらっしゃいませ!」
初めてのお客さんに胸を躍らせてカウンターに出た私は、思わず息を呑みました。
そこに立っていたのは、全身血まみれで、鎧はボロボロに砕け散った若い冒険者の青年だったのです。
「た、助けてくれ……魔の森で、オークの群れに……」
青年はそのままカウンターに倒れ込みました。
見れば、腕や足には深い裂傷があり、顔色は土気色。息も絶え絶えで、今にも命の火が消えそうでした。
「ひっ……!だ、大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
私は慌てて駆け寄りました。
しかし、私にはポーションがありません。勇者パーティーを追い出された時に、アイテム類は全て置いていかされたからです。
「ポ、ポーション……効果の高い回復薬を、頼む……金なら、これで……」
青年は震える手で、血に染まった革袋を差し出しました。
しかし、ここはお茶屋です。
「ごめんなさい!うちはお茶屋なので、ポーションは置いてないんです!」
「そ、そんな……俺は、ここで死ぬのか……」
青年の目から光が失われかけます。
私は焦りました。
私には回復魔法がありますが、アレン様に言わせれば「ポーション以下の地味で時間のかかる魔法」です。この瀕死の重傷を、私の回復魔法で治せるのでしょうか。
でも、何もしないわけにはいきません。
「あ、そうだ!お茶!とりあえず温かいものを飲んで、落ち着いてください!」
私はパニックになりながらも、先ほど淹れたばかりの特製ハーブティーをカップに注ぎました。
ただのお茶ですが、少しでも痛みが和らげばと思い、私は祈るようにカップを両手で包み込みました。
(どうか、この方の痛みが少しでも癒えますように……!)
「さあ、飲んでください!うちの特製ハーブティーです!」
「は、ハーブティー……?ふざけるな……俺は死にかけ……」
文句を言いかけた青年の口に、私は半ば強引にカップを押し当てました。
温かいお茶が、青年の喉を通り抜けていきます。
すると。
「……え?」
青年が目を丸くしました。
そして、私も目を丸くしました。
カアアアアッ!と。
青年の体が、淡くも強烈な光に包まれたのです。
光が収まると、そこには信じられない光景がありました。
骨が見えるほど深く抉られていた腕の傷が、跡形もなく塞がっています。
折れていたはずの足もまっすぐになり、土気色だった顔色は血色を取り戻し、ツヤツヤと輝いています。それどころか、ボロボロだった鎧の傷まで、なぜか元の形へと修復されているように見えました。
「な、なんだこれは……!?痛みが……全くない!?それどころか、魔力も体力も限界以上に満ち溢れてるぞ!?」
青年は跳ね起きると、自分の体をペタペタと触りながら叫びました。
「え、えええええっ!?」
私は驚きのあまり、ティーポットを落としそうになりました。
ハーブティーを飲んだだけで、瀕死の重傷が一瞬で完治?
いや、もしかして、私の淹れたお茶と彼の免疫が相性抜群で自己治癒力が覚醒したとか……?そんなわけないとは思いますが……。
「あ、あの……お体、大丈夫ですか?」
恐る恐る尋ねると、青年は私に向かって深々と頭を下げました。
「あんた、ただ者じゃないな!こんなすげえ効果、王都の最高級エリクサーでもありえねえ!一体どんな魔法薬を飲ませてくれたんだ!?」
「え?魔法薬?いえ、ただのハーブティーですけど……。カモミールとミントと、その辺で採った草を少々……」
「その辺で採った草!?そんな馬鹿な!俺の失ったはずの右手の握力まで完全に元通りどころか、強化されてるんだぞ!」
青年は興奮冷めやらぬ様子で、カウンターに金貨を数枚叩きつけました。
「釣りはいらねえ!命の恩人だ!あんたの店の噂、冒険者仲間に広めとくからな!」
そう言うと、青年は嵐のように店から飛び出していきました。
「…………え?」
残された私は、空になったティーカップと金貨を見つめながら、首を傾げました。
私はまったく気づいていませんでした。
私の『回復魔法』が、勇者たちに馬鹿にされていたような「地味な魔法」などではなく、触れたもの、込めた想いを対象に、規格外の治癒力と生命力を付与する、神話レベルの『奇跡』であったことに。
そして、私が心を込めて淹れたハーブティーには、その奇跡が尋常ではない濃度で溶け込んでいたことに。
「……まあ、元気になってよかったわ」
私は不思議に思いながらも、カウンターを拭き始めました。
これが、辺境の小さな村が『伝説の聖域』と呼ばれるようになる、ほんの始まりの出来事だとは知らずに。
あの血だらけの青年が駆け込んできてから、わずか数日後のこと。
私の小さなお店『喫茶 クローバー』の前には、信じられない光景が広がっていました。
「頼む!俺にもその『奇跡の霊薬』を一杯飲ませてくれ!魔の森で毒を食らって、もう腕が動かないんだ!」
「順番を守れ!こっちは呪いで全身が腐りかけてるんだぞ!店主様、金貨ならいくらでも払います!」
朝から晩まで、店を開ける前から外にはボロボロになった冒険者たちの長蛇の列ができているのです。
「ええと、奇跡の霊薬なんてないです!あと金貨なんてそんな大金受け取れませんから、銅貨3枚で結構です!順番に淹れますから押さないでください!」
私はてんてこ舞いになりながら、次々とお湯を沸かし、ハーブティーを淹れ続けていました。
どうやら、最初の青年が冒険者ギルドで「辺境の村に、飲めば一瞬で死の淵から蘇り、さらに能力まで底上げされるヤバい茶を出す店がある」と吹聴して回ったらしいのです。
最初は誰も信じなかったようですが、実際に彼の千切れたはずの腕が元通りになっているのを見て、魔の森の探索で傷ついた冒険者たちが藁にもすがる思いで押し寄せてきたのでした。
「さあ、お待たせしました。本日の日替わり、ローズヒップと蜂蜜のブレンドです。熱いので気をつけて飲んで……」
「おおおおっ!?飲んだ瞬間、体の中から光があふれて……腐りかけていた皮膚がみるみる再生していくぞ!?呪いも完全に浄化された!なんだこの甘くて美味い神の飲み物は!」
「こっちもだ!毒が消えたどころか、以前より魔力の最大値が跳ね上がってる!すごい、すごすぎるぞ!」
ハーブティーを飲んだ冒険者たちは、次々と淡い光に包まれ、嘘のように傷を癒やしては涙を流して喜んでいきます。
「うーん……やっぱり、魔の森で採れるお水とハーブは栄養満点なのね。みんな疲れてるから、甘いものが体に染みるんでしょうね」
私はウンウンと頷きながら、空になったカップを片付けました。
(勇者パーティーにいた頃は『時間ばかりかかって役に立たない』って言われてたけど……こうして美味しいお茶でみんなに喜んでもらえるなら、お茶を淹れる腕を磨いてきて本当に良かったわ!)
私は彼らが光っているのは「気力に満ち溢れて魔力が少し活性化した」くらいにしか思っていませんでしたし、欠損した腕が生えたり呪いが解けたりしているのも、「魔の森で取れる水と私の回復魔法の相性、それと彼ら冒険者の免疫力のおかげ」だと本気で信じ込んでいました。
まさか自分の『祈り』を込めただけのお茶が、国宝級のポーションを遥かに凌駕する効果を発揮しているなど、夢にも思っていなかったのです。
この騒動により、寂れていた辺境の村ルミナスは劇的な変化を遂げました。
『喫茶 クローバー』を拠点に魔の森を探索する冒険者が激増したため、彼らを泊める宿屋が新設され、武具屋や道具屋が次々と店を構えるようになったのです。
村長さんは毎日涙を流して私に感謝し、村人たちも私を「聖女様」と呼んで慕ってくれるようになりました。
「私は聖女なんかじゃありません。ただのカフェの店長ですからね?」
そう訂正しても、みんな「またまたご謙遜を」と笑うばかりでした。
そんなある日の昼下がりのこと。
突如として、村全体を揺るがすような凄まじい地響きと、空気を震わせる獣の咆哮が響き渡りました。
『グルルルルルル……ッ!!』
「な、なんだ!?」「魔物か!?」
店でくつろいでいた冒険者たちが、慌てて武器を手に外へと飛び出します。私も何事かと、エプロン姿のまま店の外に出ました。
村の入り口、魔の森との境界線。
そこに立っていたのは、見上げるほど巨大な、白銀の毛並みを持つ狼の魔獣でした。周囲の空気が一瞬で凍りつくような、圧倒的なプレッシャー。
「ば、馬鹿な……神話に語られる『白銀の魔狼』だと……!?」
「なぜあんな厄災クラスの伝説の魔獣が、森の奥から出てきたんだ!終わりだ、村が滅ぼされるぞ!!」
歴戦の冒険者たちでさえ、恐怖で足がすくみ、武器を構えることすらできずに絶望していました。
しかし、私の目にはまったく違うものが映っていました。
その巨大な白銀の狼は、全身に痛々しい裂傷を負い、赤黒い血をダラダラと流していたのです。息も荒く、今にも倒れそうに足元をふらつかせていました。
「まあ!なんて可哀想に……!森の奥で、強い魔物と縄張り争いでもしたのね」
私は、恐怖よりも心配が勝ってしまいました。
気がつけば、私は厨房に戻って一番大きなタライを引っ張り出し、そこに特製の『カモミールミルクティー(蜂蜜たっぷり)』をなみなみと注いでいました。
「おい、店長!?何をしてるんだ、死ぬ気か!!」
冒険者たちの悲鳴をよそに、私はタライを抱えてまっすぐ白銀の狼の元へ歩み寄りました。
『グルル……ッ!』
狼は私を警戒し、鋭い牙を剥き出しにして威嚇してきます。
「よしよし、大丈夫よ。痛かったわね。怖くないから、これを飲んで少し休みなさい」
私はタライを狼の鼻先にコトッと置き、まるで近所の捨て犬に接するように、優しくその鼻筋を撫でました。
冒険者たちは「食われる!」と目を覆っています。
しかし、狼は私の手から伝わる温かな気配に何かを感じ取ったのか、威嚇をやめ、クンクンとミルクティーの匂いを嗅ぎ始めました。
そして、ペチャ、ペチャと音を立ててタライのミルクティーを飲み干したのです。
その瞬間。
カアアアアアッ!!!
狼の巨大な体が、太陽のように眩い光に包まれました。光が晴れると、そこには傷一つない、美しい白銀の毛並みを取り戻した狼の姿がありました。
それどころか、見上げるほどだった巨体はシュルシュルと縮んでいき、気がつけば私の腰の高さほどの、モフモフの大型犬サイズになっていたのです。
『キャン!ワフッ、ワフッ!』
小さくなった白銀の狼は、ちぎれんばかりに尻尾を振りながら私に飛びつき、顔中をペロペロと舐め回し始めました。
「ふふっ、くすぐったい!元気になってよかったわね。シロって呼んでいいかしら?」
『ワオン!』
その光景を見ていた冒険者たちと村人たちは、全員が顎が外れるほど口を開けて固まっていました。
「で、伝説の厄災を……ミルクティー一杯で手懐けただと……?」
「傷が治ったどころか、完全に神聖な眷属に進化してないか、あれ……」
「やっぱり、あの人は神が遣わした本物の聖女様なんだ!!」
こうして、私こと『ただのカフェ店長』に懐いた伝説の魔狼シロは、そのまま『喫茶 クローバー』の看板犬(?)兼、村の守り神として居座ることになりました。
どんな不治の病も怪我も治す奇跡の茶を淹れる聖女と、それを護る伝説の魔狼。
辺境の寂れた村であったルミナスは、いつしか国中でこう呼ばれるようになります。
――誰一人として死なない、奇跡が日常の『伝説の聖域』と。
一方その頃、王都では。
私を追放した勇者アレン様たちのパーティーに、静かに、しかし確実な破滅の足音が忍び寄っていることなど、辺境でスローライフを満喫している私は知る由もありませんでした。
私が辺境の村ルミナスで『喫茶 クローバー』を開き、シロというモフモフの看板犬(正体は伝説の魔獣フェンリル)と平穏な日々を送り始めてから、数ヶ月が経ちました。
村は今や『伝説の聖域』として国中に名を轟かせ、私の淹れる特製ハーブティーを求めて連日大盛況です。
そんなある日の午後。
「た、頼む……!聖女様に取り次いでくれ!」
店の外から、聞き覚えのある情けない声が響きました。
入り口の扉がバンッと開かれ、転がり込んできたのは……なんと、私を追放した勇者アレン様たちでした。
しかし、その姿にかつての栄光など微塵もありません。
アレン様の全身には黒い痣のような呪いが広がり、サリナ様は魔力枯渇でゲッソリと痩せこけ、ガイル様は片足を引きずっています。全員がボロボロで、今にも倒れそうでした。
「アレン様!?皆様、一体どうされたんですか、その酷いお怪我と呪いは……!」
私が慌ててカウンターから飛び出すと、アレン様は私を見てすがりつくように手を伸ばしました。
「ク、クロエ!悪かった、俺たちが間違っていた!頼む、噂に聞くその『奇跡の茶』を俺たちにも飲ませてくれ!この呪いを解いてくれ!」
あとの二人も、ボロボロと涙を流しながら必死に頷いています。
しかし、私は彼らの痛々しい姿を見て、真っ青になって首を横に振りました。
「だ、ダメです!こんな一刻を争う重傷の時に、私のお茶なんか飲んでいる場合じゃありません!」
「え……?」
「アレン様が仰っていたじゃないですか!『お前のお茶は無駄に時間がかかるだけで何の意味もない』、『回復魔法も地味でポーション以下だ』って!こんな恐ろしい呪いや大怪我、私の淹れたただのお茶で治るわけがありません!」
私は純粋な善意と心配から、泣きそうな顔で彼らに訴えかけました。
「お願いですから、私の無駄なハーブティーなんかで大切な時間を消費しないでください!村長さん、早く王都へ向かう馬車を!この方たちを一刻も早く、王都の立派な神殿と、最高級ポーションのある大きな病院へ運んであげて!」
「ち、違うんだクロエ!あれは俺の勘違いで……お前のお茶が、本物の奇跡で……!」
「気休めはいいんです!私、自分が無能だってちゃんと自覚してますから!さあ、早く!手遅れになってしまいます!」
私の必死の呼びかけに、常連の冒険者や村人たちも立ち上がりました。
彼らは何故か少しニヤニヤしながらも、素早くアレンたちを荷馬車に縛り付けました。
「店長がそう言うなら仕方ねえな!俺たちのお茶の時間を邪魔されても困るしな!」
「ほら勇者様、王都まで三日三晩揺れるから舌噛むなよ!店長の言う通り、しっかり神殿で治してきな!」
「やめろおおおお!ちがう、違うんだああ!一口、一口だけでいいからあのお茶を飲ませてくれええええええッ!!」
ガラガラと激しい音を立てて遠ざかっていく馬車と、アレンたちの悲痛な絶叫。
私はその背中を見送りながら、胸の前で両手を組みました。
「……どうか、王都の立派なポーションで皆様の命が助かりますように」
心からの祈りを捧げる私の足元で、シロが『ワフッ』と呆れたような、それでいて誇らしげな鳴き声を上げました。
馬車が見えなくなるまで手を振りながら、私はふと首を傾げました。
(そういえば、あんなにポーションを絶賛していたアレン様たちが、どうして私のお茶なんか飲みたがったのかしら……?まあ、きっと思いつめて幻覚でも見ていたのね。王都の優秀なお医者様に診てもらえば、きっと良くなるわ!)
彼らがその後、王都でどうなったのかは分かりませんが、一日も早く元気になるようお祈りするばかりです。
――さて、嵐のような騒ぎが去り、再び平穏が訪れた夕暮れ時のこと。
カランコロン、と入り口のベルが鳴りました。
「はい、いらっしゃいませ!……え?」
私は出迎えようとして、思わず目を丸くしました。
扉をくぐって入ってきたのは、立派な白い髭を蓄えた初老の男性でした。地味な旅の外套を羽織っていますが、その下から覗く衣服は仕立ての良い最高級の絹で、隠しきれない気品と威厳が漂っています。その後ろには、やたらと姿勢が良く、周囲を鋭く警戒している護衛らしき青年がピタリと控えていました。
一瞬にして店内の空気がピンと張り詰め、冒険者たちが「あ、あの顔、王国の金貨の肖像画で見たことあるぞ……!?」と青ざめたその時。
初老の男性は、少し恥ずかしそうに立派な髭を撫でながら、遠慮がちに口を開きました。
「あー……お忍びの旅の者だが。国中はおろか、王城にまで『飲めば長年の肩こりや古傷まで吹き飛ぶ、奇跡の茶を出す店』の噂が届いておってな。最近、公務のストレスでどうにも胃が痛くて……空いている席はあるだろうか?」
その言葉に、私はパァッと顔を輝かせました。
「まあ!遠いところからわざわざありがとうございます!奇跡の茶なんて大げさなものじゃなくて、ただのハーブティーしかありませんが……胃に優しくてリラックスできるカモミールのブレンドならすぐにお出しできますよ!」
「おお、本当か!頼む、ぜひそれを一杯いただきたい!」
伝説の魔狼シロに続き、今度はお忍びの王様までご来店!?
どうやら私がのんびりスローライフを送る辺境の小さな喫茶店は、これからもまだまだ、予想外のお客さんたちで大忙しになりそうです。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
勇者パーティは今まで実力も高かったため、大きな怪我とかをせずにいたのでクロエの本当の凄さを実感することがなかったという設定です!また、シロが怪我した相手や色んなお客さんの来店など、あえて伏線のようにしてみました!もし機会があれば書いてみたいなと思っています!
よろしければ評価してくださると励みになります!
よろしくお願いいたします。




