4話 エンキ、天は奴に二物を授けた
タレ作りや他のことをやり終えたのでメインをやっていく。
「時間もあるし、そんじゃあ早速やりますか」
魔猪の牙を削っていく。前に仲間から貰ったナイフで少しずつ、確実に粉末にする。少量削るだけでも時間はかかるが今日はもう休みなので問題なし。
1日に何回もダンジョンに行くなんて余程のことがない限り行かない。誰かの救助なり協会から緊急依頼がある時くらいだ。
話を戻そう。武器の素材にもなる貴重な魔物素材を削るなんて普通の探索者ならしない。面倒だしそもそもやる必要がないからだ。
牙は道具にするのが一般的な加工だ。
なんせ魔鉄を貫通できる素材だ。槍や剣の素材にすれば使ってる武器よりも強くなるだろう。
粉末を金属に混ぜれば打ち合った時なら金属特攻がついているこちらが有利になるかもな。
でも俺は違う使い方をする。俺だけが出来る俺だけのやり方。
「それじゃあいただきまーす」
削りたての大量の粉をそのまま食べる。むせそうになるがなんとか水で無理矢理流し込む。
「ガアア!?からまっずしぶにがエグい!!」
毎回だが酷い味で最悪の体験だ。今回は今まで食った事がない苦いと辛み、渋み、エグ味がある。体が拒否反応を起こしているのかガタガタ震えてくる。
ちょっと寒いかも。やばいな。
初めて異常個体を摂取したからか?くそマズイがまだ食える範疇だ。
普通の探索者ならそのまま苦しんで喉を掻きむしり魔猪の牙の魔力に侵されて死ぬ。もしくは体の一部が魔猪に変質するだろう。
「ゲフッ……あー気持ち悪。初めの1回目だけ酷い味なんだよな。そのあとはここまでじゃないから良いんだけど」
『捕食』
黄金眼からの派生能力。食ったものを己の糧にする。本来食えない部位さえも余すことなく喰らえる。
魔物によっては肉が1番のやつもいる。家畜化された魔牛や魔豚はこれにあたる。
ダンジョンに生息している魔物は己の身を守る器官が発達している。ツノや牙、爪が該当する。それを食っても変質しなくなる。
これも協会に秘匿している能力。
〈お前の体はすでに黄金でもある。魔猪如きの魔力では死なぬさ。それなりに苦しみはするがな。適応すればあとはただの経験値さ〉
俺の脳に直接声が聞こえてくる。始めての探索の終わりに手に入れた力。たまに使う「黄金眼」もコイツから貰った。そもそもなんで祖父からもらったペンダントに宿っていたんだ?
本人は奇物ではないと言っているし。不思議だが調べる方法もない。あまり気にしてもわからないしいいや。
もう2年以上の付き合いだが聞いても教えてもらえずいまだに正体不明だ。
「それはそうだけどもうちょい味はどうにかならないか?」
〈………はぁ。頭を使えと毎回言ってるだろうに。水ではなく果物の汁やら牛乳と飲めと〉
「あ、そっか。その手があったか!」
〈いやほんと毎回言ってるからな!覚えろよ!?〉
「へいへーい。覚えてたらやりますよー」
何故か言われても忘れちゃうんだよな。昔からたまに聞いたり言ったことが記憶から無くなる。
病気……ではないな。健康診断は毎回引っかからないし。重病を患ったこともないからな。まあ位階が上がれば記憶力も良くなるらしいからそれに期待だ。
1人しかいない部屋で愚痴る。他人から見たら狂人だと思われるだろうか?空中に向かって会話しているように見えるし。まあ仕方ないんだけど。
〈さっさと消化してくれ。これでようやく力が少し戻るんだ!〉
「そういえばそうだったな。まともに使えればいいんだが……」
異常個体 「巨大魔猪の牙」を取り込みました
特性 魔力を「黄金眼」に変換します
特性 「金属特攻」の一部を獲得しました
同期率が上昇します 現在二段階100%
三段階『不変』を獲得
ようやく三段階まで来た!魔物を食い続けて苦節2年、ようやくここまで辿り着けた。
位階は同期と比べて低いし、この力もまだまだ分からないし。やっぱ魔鉄熊なんかの強い魔物を食わないとダメなのか?
「というか不変?どんな能力なんだ?」
〈ふむ。簡単にいうと状態異常の無効化だな。毒、麻痺、睡眠、石化、呪いなどが対象だな〉
「おお!なら安心して探索出来るようになるじゃん!不壊と不変の2つを使えば無敵ってことだろ?」
〈…………いや?デメリットもあるぞ?〉
「へ?……なにそれ?」
第二段階「不壊」
使ったことはないが名前からして体が硬くなる能力。
第三段階「不変」
状態異常の無効化だろ?なら魔物が毒持っていても関係ないのはつよいだろう。
攻撃手段はないが殴れば解決するはず。デメリットはなんかあるのか?
〈不壊は体が硬直して動けなくなるし、不変は発動中呼吸出来なくなるぞ。まあ頑張れ〉
ってことはなにか?同時使用で動けないただのサンドバッグが出来るってことか?はあ?
「ええー苦労に見合わねえ。なんか活用法考えておくかー。あーアーヴァに相談しないと」
はあー解散解散。次の第四段階に期待して頑張ろ。
死にずらいのはありがたいんだがもう少し便利な力ならよかったな。
そう、エンキが持ってる奇物みたいな。
「やっぱりエンキと比べると俺って弱すぎでは?同期な筈なのにどこでこんなに差がついた?」
〈奇物持ちとあまり比べすぎるな。特にアレは別格だ。お前とは才能も資質も宿命も違う。ストレスで禿げるぞ〉
「あまり言わないでもらえます!?気にしてるんですけど!?」
エンキ。大穴の最前線で探索してる日本代表の国級探索者「樹剣」
奇物「神秘剣」と奇物「翡翠根」の所有者にして日本最強の探索者。
「翡翠根くらい便利だったらよかったのになーー」
〈なんだと?不壊にして不変にして万能たる我では気に入らないと?〉
「だって能力使いずらいじゃん」
〈ムキーー!!!我もうしらない!〉
俺の同期であり幼なじみでありライバル。
競争しているわけではないが負けたくない。だからもっと強くなって俺が追い越すんだ。
「俺は俺の持っている力を全て使い大穴を攻略する。そしてこの島で一生暮らせるだけの金を稼いで億万長者になる!!!」
〈……我が言うのもなんだが理由弱すぎないか?世界を救うとか、最強になるとか〉
「美味いメシ、気のいい友人、暴れてもいい環境。これ以上のとこがあるか?ストレス発散するだけで金がもらえるとか最高だな」
〈どうして吾輩がこんなやつに使われるんだ……〉
「うるさい。…にしても奇物2つ使うとかやっぱりあいつチートか?イケメンは優遇されるってこと?」
〈知らん。少なくともお前より我もあっちがよかった〉
「はいはい。こっちで残念でしたねー」
それはそれとしてズルくない?イケメンで強くて稼げるとか?奇物1つでも強いのに2つとか?世の中の不条理を感じるな。
〈アカリ、やることも終わったし飯を食わぬか?〉
「お、確かに。タレも染み込んでいるだろうし」
冷蔵庫から魔猪の肉を取り出す。余分な水分も抜けたのか身がしっとりとなっている。
〈味覚同期完了。早く焼け!喰らえ!〉
「焦んなって」
フライパンに油をさっと敷く。魔猪を焼けば脂は出てくるから少しでいい。
パチパチと脂が弾けいい匂いがしてくる。同時に醤油の匂いも漂ってくる。
「エル手伝え」
〈黄金眼!!〉
黄金の眼は万物全てを見通す。その力を使い肉の最適な焼き加減を見極める。
〈……いまだ!〉
「おっけー。ほいっ」
一度火から取り上げて軽く冷ます。そうすることで肉の水分を維持したまま肉の中まで火が通るのだ。テレビの入れ知恵だ。
そしてもう一度焼いていく。手間がかかるがその分うまい料理になると思えば気にならない。
味噌漬けもあるがそのほとんどは配る用に取っておく。量が多いから自分用は確保してあるしそのうち食べる。
「よし完成だ」
魔猪の焼肉丼
ホッカホカの米にこれでもかと肉が乗っている。
肉が多すぎて米が見えず丼からもはみ出している。
「いただきます」
〈…………うまっ!!!〉
ダンジョンで食べた時とは違い身が柔らかく簡単に噛みきれてしまう。
その上、味が濃く米との相性が抜群だ。何杯でもいけてしまう。
「俺……天才か?」
わさび。主に寿司に使うものだがローストビーフにも使われる。高級な肉なんかにも使うらしい。テレビで見たことがある。
焼肉にわさびバターと米を乗せて包む。
肉巻きおにぎりの出来上がりだ。
「うっ……ま……」
魔猪の異常個体ってだけで肉質がいいのにこの食い方はマズイ。
1日で肉を食い切れてしまう美味さだ。
〈サンドイッチ、すき焼き、カレー〉
……明日はそれでいっか。
「朝はサンドイッチにします」
〈よし!〉




