2話 昼メシの時間
家ほどもある大きな魔猪が死んでいる。周囲の敵性生物はエンキが狩ってくるらしい。ここらへんなら敵と呼べるのはいないらしい。
今も遠くから魔物の断末魔が響いている。緑の森の魔物は手強いと聞いているが流石、日本代表探索者なだけある。
代わりに俺はここで魔猪の解体作業だ。
「よし、やるか」
手持ちの解体できそうな道具はナタしかない。小盾とナイフでは無理だし。ナイフに関しては解体にも一応使えるが小さくてあまりにも時間がかかる。それに高価で勿体無い。
今使えるのは大穴産の鉄『魔鉄』製のナタ。魔鉄は鉄よりも硬くダンジョンでは必須の素材。
魔物は通常兵装ではあまり効果がないからだ。死んだ魔物には効果があることから生きている時の何かが邪魔をしているとかなんとか。
俺が使っているナタは武器としても使えて便利で重宝する。
「本当に買ってよかった。高すぎたけどな!」
普通は少量の魔鉄を混ぜるが俺の使っているナタは総魔鉄製。だからより硬くよく切れる。
おかげで毛皮と肉を簡単に分けることが出来る。魔猪の素材は肉、牙、毛、骨が主だ。
今回は食べる分の解体だけでいい。
というか全身解体は無理。ちゃんと解体所に持っていかないと。重くて運べないし……後でエンキに頼もうかな?
「ふん、ふふーん。脂の乗っている部分だけでいいか。腹周りにしよー」
慣れた手捌きで皮を剥ぎ肉を切り分けていく。アイツ程じゃないにしても俺も探索者だ。少し解体するくらいの腕力はある。
しかしコイツは異常個体。食えるか不安だな。目も増えていたし大丈夫なのか?
……毒がないか少しだけ視るか。周りに他の探索者がいないことを確認し、俺の目が一瞬だけ金色に光る。
異常個体 巨大魔猪の肉 毒性なし
食べると魔の因子を獲得する
経験値が少し増加する
通常個体よりも味が濃厚
魔力を過剰摂取したため巨大化した
結構いい効果だな。巨大だったのは魔力がありすぎたせいなのか。
何か悪いモノでも食ったのか?草原に魔力の多い物はないんだかな。
食う分の解体はできたしそろそろ呼ぶか。俺もだんだん腹減ったし。
「エンキー!メシ、食うぞー!!」
近くにいるだろうエンキを呼んでおく。その間に火を熾し、木の枝を拾いナイフで串に加工する。肉を刺して焚火の近く、火で熱される位置に置いておく。
ここからが腕の見せどころだ。
「呼んだかい?おお、もうそこまで出来たのか。ちょうどこっちも終わったよ。いつも解体は仲間にお願いしてるんだ」
「知ってるよ、戦闘バカ」
軽口を挟みつつも肉から目は離さない。脂が乗っているおかげですぐに良い匂いが広がっていく。
毒は無いが一応しっかり焼いていく。個人的にウェルダンが好みだからだ。焼きすぎず、焼かなすぎずの火の見極めは重要だ。
「ほい、出来たぞ」
「わぁー、ありがとう。とても美味しそうだ」
「あとこれ調味料。おすすめは黒胡椒をサッとかけるのがいいぞ」
「さすがだね。味変したくなったら使うよ」
「「いただきます」」
一気にかぶりつく。アツアツの肉からは肉汁が溢れだし火傷しそうなほどだ。
火がしっかり通っているからか硬いが噛み切れる硬さで丁度いい。
燻されたのか木のいい香りもしている。燻製っぽくなり美味さが段違いだ。
そして鑑定結果から分かっていたが魔猪の肉自体が濃厚だ。程よい塩味、脂もいい脂特有のサラサラでバクバク食べれてしまう。あとでお腹を壊さないか心配だ。
まったく血生臭くなく高級な肉を食べている気分になる。
魔物を食べる度に探索者をしていて良かったと思う。米がないのが残念だが仕方ない。次回持ってこよう。
「うめぇ……。さっきまで俺を殺そうとしてた奴なのに。めっちゃうめぇ。バクバクいける」
「ん〜、美味しい。普通の魔猪より味が濃いね。だから異常個体は大好きだ」
「お前、前にそれで蛇食ったら毒あったの忘れたのか?お仲間がそれ見て泡吹いたらしいな?」
「でも毒は効かなかったし通常個体より美味しかったよ?あと念のため解毒はしていたよ?体内で」
「……そうか。ならいいか」
本人がいいなら何も言うまい。体内で解毒とか何言ってんだとか思うが気にしない。
その後、腹八分目になるまで食った。胡椒をかけると風味が変わりそれも止まらず食べてしまった。
今回はひとまず終わりだな。
一旦地上に戻って報告もしたいし魔猪と他の素材も持ち帰るか。
「エンキ、これお願いしてもいいか?」
「ご馳走様でした。うん、残りは僕が持っていくよ」
「すまん、助かる。アレで運ぶか?」
「正解。運んでおくれ『翡翠根』」
エンキの足元からいきなり木の根が生える。緑色の根っこが無数に地面から生えて巨大魔猪とエンキが狩った魔物達をぴょこぴょこと運んでいく。
非現実的な光景だが今更か。こんなので驚いていたらやっていられない。
そのまま一緒に大穴の上昇コンテナまで歩いて行く。
「エンキ、今日はありがとな。助けがなかったら死んでたわ」
「気にすることはないよクロセ。人助けは趣味なんだ。美味しいご飯も食べれたしそれで充分だよ」
コイツがいなかったらマジで今日で人生終わってたな。一攫千金目当てで来たのに死ぬところだったわ。にしても今回は運がなかったな。異常個体はそうそういないはずなんだが?大穴でなんかあったのか?
まあそのうちわかるだろう。だれかがなんとかしてくれることを祈る。
そんなことを思いつつエンキと共に地上に上昇していく。あー怖かったぁ。




