4話
交流室の熱気が冷めた翌日、待合室には重い沈黙が漂っていた。成功例を見た仲間たちは希望を抱いたが、同時に「自分にはできないのではないか」という不安も芽生えていた。
真琴は一人の戦闘員を面談室に呼び入れた。彼はノートを持ってきていたが、ページはほとんど白紙だった。
「課題はどうでしたか?」
戦闘員はうつむき、かすれた声で答えた。
「……書けませんでした。強みも弱みも、何も思いつかなかったんです」
真琴は静かに頷いた。
「書けなかったこと自体が、今のあなたの状態を示しています。無理に言葉を絞り出す必要はありません。ただ、“書けなかった”という事実をノートに残してください。それも一つの記録です」
戦闘員は戸惑いながらも、ノートに「書けなかった」と記した。だがその表情は暗く、成功例を見た仲間たちとは対照的だった。
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別の面談室では、元ヒーローが真琴の前に座っていた。彼は「人前で伝えたい言葉」を課題として与えられていたが、ノートには戦闘の掛け声しか書かれていなかった。
「これが……俺の声なんです。励ます言葉なんて、思いつかなくて」
真琴は少し間を置いてから答えた。
「それでも構いません。あなたが“まだ戦いの声しか出せない”と気づいたことが大切です。次回は、その声を少しだけ変えてみましょう。例えば“守る”ではなく“支える”という言葉を探してみてください」
ヒーローは苦笑した。
「支える……か。簡単には出てこないな」
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待合室に戻った二人の姿は、成功例を見た仲間たちとは違い、どこか影を背負っていた。仲間たちはその様子を敏感に感じ取り、空気は再び重くなった。
真琴は全員に向けて声をかけた。
「成功も失敗も、ここでは同じくらい大切です。成功例は未来の可能性を示し、失敗例は今の自分を映す鏡になります。どちらも記録し、次の一歩に変えていきましょう」
戦闘員はノートを握りしめ、ヒーローは窓の外を見つめた。彼らの歩みはまだ遅く、時に立ち止まる。だがその姿こそが、社会復帰の現実を映していた。
社会復帰支援センターの一日は、成功と失敗の両方を抱えながら進んでいく。過去を背負った者たちが未来を探すためには、立ち止まる時間もまた必要なのだった。




