2話
待合室の空気は重かった。元ヒーローと元戦闘員が同じソファに座り、互いに視線を逸らしている。敵だった者同士が肩を並べるという現実は、まだ誰にも馴染んでいなかった。
沈黙を破ったのは元ヒーローだった。
「俺たちは人々を守るために戦った。だが、お前たちは破壊しかしてこなかったじゃないか」
戦闘員は顔を上げ、低い声で返した。
「守るため?俺たちだって仲間を守るために戦ったんだ。首領の命令に従うしかなかったが、それでも仲間を見捨てることはなかった」
ヒーローは言葉を詰まらせた。
「……仲間を守る、か。俺たちも同じだったはずなのに、いつの間にか“敵”としか見なくなっていた」
周囲の空気が張り詰める中、真琴は二人を面談室に呼び入れた。机を挟んで座る二人は、まだ互いを睨み合っている。
「あなたたちの言葉には、どちらも真実があります。ヒーローは市民を守ろうとした。戦闘員は仲間を守ろうとした。守る対象が違っただけです」
ヒーローは眉をひそめた。
「俺は戦うことしかしてこなかった。守る対象が変わったら、俺に何ができる?」
戦闘員は苦笑した。
「俺も同じだ。仲間を守るために戦ったが、社会に出たら仲間なんていない」
真琴は二人を見つめ、言葉を続けた。
「だからこそ、ここで新しい守り方を探すんです。ヒーローさん、あなたは人前で声を出す経験がありますね。戦う声ではなく、励ます声を届ける練習をしてみませんか?地域イベントの司会や子ども向け指導員なら、その力を活かせます。次回までに“人前で伝えたい言葉”をノートに書いてきてください」
そして戦闘員には別の提案をした。
「あなたは仲間を守るために動いてきました。その経験は“チームを支える力”に変えられます。清掃や設備管理の仕事なら、目立たなくても仲間を支える役割を果たせます。次回までに“自分の強みと弱みを一つずつ”ノートに書いてきてください」
二人はしばらく黙っていたが、やがてヒーローが小さく息を吐いた。
「……戦う声じゃなく、励ます声か。人前で伝えたい言葉を考えてみるよ」
戦闘員も頷いた。
「俺も、強みと弱みを書いてみる。仲間を守る力を、別の形に変えられるかもしれない」
真琴は微笑んだ。
「それで十分です。ここでは、過去の役割ではなく、今の言葉が大切です。そして、その言葉をノートに残すことが、未来への第一歩になります」
待合室に戻った二人は、以前よりも少しだけ落ち着いた表情をしていた。仲間たちはその変化を敏感に感じ取り、空気がわずかに柔らいだ。社会復帰支援センターの一日は、衝突と和解、そして小さな課題を積み重ねながら進んでいく。それは、過去を背負った者たちが未来を探すための、避けて通れない過程だった。




