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はい、こちらSRSCです!  作者: 双鶴


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1話

社会復帰支援センターの面談室は、古い市庁舎を改装した一室だった。窓から差し込む午後の光が、緊張した空気をやわらげるように広がっている。真琴は書類を整え、深呼吸をして扉を開けた。


そこに座っていたのは、元戦闘員の一人だった。灰色の作業着に着替えてはいるが、背筋の伸び方や視線の鋭さに、かつての「戦闘員」の影が残っている。彼は落ち着かない様子で手を握りしめ、机の上に置いた。


「……俺は、人前に立つと失敗ばかりで、仲間に迷惑をかけてきた」

低い声が室内に響いた。


真琴は頷き、静かに答えた。

「失敗は危険を察知する力でもあります。あなたが気づいたことは、他の人には見えないかもしれない。それを伝えることが、社会を守る力になるんです」


戦闘員は驚いたように顔を上げた。

「……俺の失敗が、役立つ?」


「はい。まずは『失敗ノート』を作ってみませんか。人前で困ったこと、戸惑ったことを記録して、次にどうすればいいか考える。それが、あなた自身の武器になります。そして、職業の方向性も考えてみましょう。例えば警備員や防災スタッフなら、あなたの“失敗を恐れる感覚”が安全確認に活かせます。あるいは物流や倉庫作業なら、命令に従う習性を“チームワーク”として活かせる。次回までに、この二つの仕事について調べてみてください。どちらが自分に合いそうか、ノートに書いてきましょう」


戦闘員は深く息を吐き、少しだけ表情を和らげた。

「……失敗ノートと仕事調べ、両方やってみる」


面談室を出ると、待合室の空気は張り詰めていた。元ヒーローが戦闘員たちを睨みつけ、声を荒げていたのだ。

「お前たちは結局、首領の命令に従っていただけだろう。自分の意志なんてなかったんじゃないか?」


戦闘員の一人が顔を上げ、低い声で返した。

「俺たちが命令に従っていたのは事実だ。だが、お前らヒーローだって上からの指示に従っていただけじゃないのか?」


互いの言葉は鋭く、過去の戦いの影を呼び起こす。周囲の仲間たちは息を呑み、誰も口を挟めなかった。真琴は二人を面談室に呼び入れ、机を挟んで座らせた。


「あなたたちの言葉には、どちらも真実があります。戦闘員は命令に従うしかなかった。ヒーローもまた、組織の指示に従っていた。でも、ここでは命令も指示もありません。あるのは、あなた自身の選択です」


ヒーローは眉をひそめた。

「選択……俺は戦うことしか選んでこなかった」


戦闘員は苦笑した。

「俺も同じだ。命令を待つことしかしてこなかった」


真琴は二人を見つめ、言葉を続けた。

「だからこそ、ここで初めて選べるんです。ヒーローさん、あなたは人前で声を出す経験がありますね。戦う声ではなく、励ます声を届ける練習をしてみませんか?地域イベントの司会や子ども向け指導員なら、その力を活かせます。次回までに“人前で伝えたい言葉”を一つ考えて、ノートに書いてきてください」


ヒーローは小さく息を吐いた。

「……戦う声じゃなく、励ます声か。やってみる価値はあるかもしれない」


戦闘員も頷いた。

「俺も、ヒーローと話すなんて無理だと思っていた。でも、こうして言い合うことで、自分の考えを初めて言葉にできた気がする」


真琴は微笑んだ。

「それで十分です。ここでは、過去の役割ではなく、今の言葉が大切です。そして、その言葉をノートに残すことが、未来への第一歩になります」


待合室に戻った二人は、以前よりも少しだけ落ち着いた表情をしていた。仲間たちはその変化を敏感に感じ取り、空気がわずかに柔らいだ。社会復帰支援センターの一日は、面談と衝突、そして小さな課題を積み重ねながら進んでいく。それは、過去を背負った者たちが未来を探すための、避けて通れない過程だった。


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