プロローグ
長い戦いの末、ようやく平和が訪れた。
街を覆っていた爆炎も、空を裂いていた咆哮も、もう聞こえない。
瓦礫の山だった通りには再び人々の笑い声が戻り、空には凧や風船が舞う。
人々は「平和」を取り戻したと口にするが、その影で静かに苦悩する者たちがいた。
かつて正義の旗を掲げた戦隊ヒーローたち。
かつて悪の理想を信じ、秘密結社に身を投じた戦闘員たち。
彼らは戦いの終結とともに、居場所を失ったのだ。
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首領を倒された悪の秘密結社は瓦解し、残された戦闘員たちは途方に暮れた。
「悪のために生きる」以外の術を知らず、社会に戻る道を見失った。
彼らは戦闘服を脱ぎ捨てても、心の奥底には「命令を待つ癖」「集団に従う習性」が残っていた。
市民として生きるための言葉も、仕事を探すための手段も、何一つ持っていなかった。
一方で、首領を打ち倒した戦隊ヒーローたちもまた役目を終え、仕事を失った。
「正義のために戦う」以外の生き方を知らず、平和の中で自らの存在意義を見失った。
彼らは人々から「ありがとう」と讃えられながらも、次第に「もう必要ない」と囁かれるようになった。
戦いのない日常に立ち尽くし、かつての仲間と顔を合わせても、語るべき使命は消えていた。
敵味方であったはずの両者が、同じように孤立し、同じように未来を見失っていた。
国はその現実を放置できなかった。
戦いの記憶を背負った者たちを、ただ「過去の人」として切り捨てれば、社会の不安定要因となりかねない。
彼らが犯罪に走れば治安は揺らぎ、彼らが絶望すれば社会の亀裂は広がる。
「戦いの後の平和」を守るためには、戦いに関わった者たちの居場所を作らねばならなかった。
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そこで設立されたのが――
**「社会復帰支援センター(SRSC)」**である。
元ヒーローと元戦闘員を対象に、職業訓練、生活支援、心理カウンセリングを行う。
表向きは「社会の安定のため」だが、実際には彼ら自身の人生を再び歩ませるための場所でもあった。
センターの建物は、かつて市庁舎として使われていた古い施設を改装したもの。
待合室には、敵味方だった者たちが肩を並べて座り、互いに視線を逸らしながら沈黙している。
廊下には「職業訓練室」「心理相談室」「地域交流室」といった札が並び、そこに新しい日常を模索する人々が集う。
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三枝真琴、三十歳。
役所勤務を経て、SRSCに配属された個別指導担当官。
真面目で親身、誰に対しても誠実に向き合う姿勢を持つ。
だが、長い役所生活のせいで世間の現実には疎く、建前と現実のギャップにしばしば戸惑う。
「制度上は問題ないはずなのに……どうしてうまくいかないの?」
そんな疑問を抱えながらも、彼女は対象者と共に悩み、驚き、挑戦していく。
それが、彼女自身の成長の物語でもあった。
真琴は初めての面談室に立ち、深呼吸をした。
扉の向こうには、かつて戦場で敵として立ちはだかった者たちが待っている。
彼らはもう「戦闘員」でも「ヒーロー」でもない。
ただの人間として、未来を探す者たちだ。
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――これは、戦いの後に残された者たちが、
新しい居場所を探し、時に笑い、時に躓きながら歩む物語である。




