傀儡
何やら慌ただしい雰囲気に包まれ、昼間の事を思い起こさせた。
其の度にぼくは自分の仕出かした事がバレたのでは無いのかと平静を失う。
夕刻頃、ぼくは彼女の手記を見返そうとした。
然し、其れは叶わず。
ぼくの心の空虚を表わすかのように、ぼくの衣服に其れは存在しなかった。
ぼくは不安になる。
此処最近、ぼくは自分の見ているものが信じられないからだ。
何が現実で何が空想なのか、ぼくの見えている物は一体何なのか。
そんな悩みを抱えながら、祭りの夜を迎えた。
村一番の集会所にて、多くの村人が集まっている。
宴会のような雰囲気の中、ぼくに向かって首を垂らす衆人に、ぼくは困惑する。
ぼくは人一倍の贅沢をさせられ、何処か其の空気感を訝しむ。
だが、周囲は満足げに此方を見ており、ぼくは逃げようにも逃げられない事に気づいた。
絢爛豪華で小学生一人分にしては明らかに多い量の食事、所作一つ一つに敏感な程の過剰な持て成し、集まる周囲の人間は村長を中心とした、村の重鎮であった。
此の村のおかしさに気づいたのは此処数日では無い。ずっと前から可笑しい気がしていた。否、自分がおかしいのだろうか。
そんな時、遠くから場違いで、派手で、煩わしい排気音が辺り一面の騒々しさを押し流す。
其の音源は徐々に近づき、ギャギャギャと女性の悲鳴のようなスキール音と共に、近くで停止した。
何者かが集会所に乱入し、其の数秒後にはぼくを連れ出していた。
ライダースーツに身を包みフルフェイスで顔を隠す謎の男性。
其の声は、羽那子の父であった。
村のおばば様が切り離しの儀式に失敗したと連呼し、祭壇の方から走ってきた。
ぼくはされるがままにバイクに連れられ、走り出す。
此れから向かうのは村の外だ。ぼくも村に居座るのは反対であった。
村の皆はぼくの事を返せ返せと叫び、生気を失った目で追いかけてくる。
其の異様さに、ぼくの疑念は核心と成った。
羽那子の父はぼくが落とした手記を拾っていたのだ。
その時に、何かが目覚め、ぼくを救う決心をしたのだそう。
ぼくは其処で、祭壇の細工を命じた亜夜子の話をした。
だが、彼の反応は意外なもので、黙示録の青白い騎士も驚きな青ざめた顔で言った。
亜夜子なる人物は存在しない。即ち、幻影だ、と。
ぼくは、何を信じていたのかが分からなくなった。
細工はよからぬものと知り、脱出よりも祭壇へ向かう事になる。
ぼくは両親が気がかりになり、途中でバイクを跳び下りた。
何度か制止の声が後ろから降りかかるも、ぼくは必死にオヤジと母の名前を叫ぶ。
伽藍洞の自宅はパソコン以外の明かりも無く、パソコンはCADが開きっぱなしであった。
ぼくは好奇心から、其のデータを閲覧してしまった。
奇妙な事に今まで手掛けていた仕事は茶番だったかの如くぼくを嘲笑う。
CADデータなど最初から存在していなかったかのように全てが空で初期状態である。
そして、オヤジは村長の事を連絡がつかなかった友人と言ったが、村長からは何通ものメールや紙の手紙が来ている。
意図的に無視していたのだ。
そして、其の文面も文字化けしており、呼ばれた、と言うには些か異常な物を感じた。
ぼくは逃げる様にバイクへと戻った。
自分の両親がおかしくなった事を自覚する。否、此処まで来ると周りではなく自分がおかしくなったのかもしれない。ぼくは如何したらいいのかと問うていると、羽那子の父は逃げて、生きろとの一言で終わらせた。
己の在り方世界の在り方を問うなどは其れからに過ぎないと。
重い言葉であった。
振り向くと、家は誰もいないまま五十年が経ったかのように寂れており、表札は崩れ落ちていた。




