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異能探偵局  作者: 春木
異能探偵局 第二章 学園騒乱編
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24話 フェニックス(前編)

 二宮は暫く走ると、涙は枯れ、次第に虚無感が体中をひしめく中、ただ夜の道を只管に歩いた。


「ここ……来たことがある……」


 来たはずのない地理だが、二宮は確かにその場所に既視感を感じ、少しだけ正気に戻る。スマホを確認すると、深夜二時を過ぎていた。


 ブロロロロロロ……


 夜間の為か、小さな音を立てて行方のバイクは二宮へと辿り着いた。


「行方くん……。私、補導されちゃうね」

「まあ、僕がいるからギリギリセーフだ。しかし、因果なものだ。()()()()に来るとは……」


 二宮と行方のいる場所は、半径二キロメートルに及び草木も生えない荒野だった。しかし、建設物があったと思われる崩落した家や、公園の跡地などが形を模して残っている。


「ここ燃やしたの、私でしょ」

「違う」

「嘘つき」


 そうして、二宮と行方は暫く夜の荒野を歩く。


「この場所……。水路と段差……見覚えがある……」

「ここは昔、畑だった場所だ。階段になっていて、子供の身体では登るのが大変だったな」


 二宮の脳裏に、記憶が薄らと蘇る。


「私、誰かの手を引いた……。男の子……」


 そう呟く二宮を、行方はそっと見つめていた。

 そうして再び歩き始める。


「ここ……公園……?」


 焼け焦げたブランコや滑り台が、生々しく残骸として残されていた。


「そうだな。あまり広くない公園だ。しかし遊具は豊富で子供たちの取り合いになっていた」

「行方くんもここに住んでたの?」

「言っただろ、ずっと監視してきたと」

「そっか。だから知ってるんだ」


 そうして再び歩き始める二宮。しかし、一歩目でまた一人の少年が頭を過ぎる。


「あれ……?」

「どうした?」

「私、特定の男の子といつも一緒にいた記憶があるの。行方くんずっと見てたんでしょ? 判らない?」

「その少年は……」

「やっぱりやめて!!」


 行方の言わんとしていることが分かってしまった。この荒れた土地。どうなったかなんて、少し考えれば分かる。

 そうして、二宮は再び歩き始めた。


「この円の中心が、私の家だったんだね」

「そうだ。ここでフェニックスの暴発、つまりは()()()()()()()が起きた場所だ」


 俯き、諦めたかの様に笑いながら、二宮は口を開ける。


「その時の……死者数は……」

()()だ」


 思いもよらない答えに、二宮はハッとする。


「ねえ……。さっきから嘘ばかり吐かないでよ!! こんな大きな事故で、死んだ人が二人な訳ないでしょ!?」

「事実だ。お前の父母。その二名だけだ」


 行方の真剣な表情に、戸惑いを露わにする。そして、ずっと頭に過っていた少年の顔が、二宮の脳内にハッキリと現れる。


()()()()だ……。私、あの男の子のこと、アキくんって呼んでた……」


 行方は変わらない顔で二宮を見つめる。


「行方くん……。アキくんって……行方くんだよね……?」


『ゆくあき! ぼくの名前はゆくあき、だよ!』

『うくあき……? 呼びづらい!』

『じゃあアキでいいよ。施設のみんなもそう呼ぶし』

『じゃあ、アキくん!』


 ニコリと、行方は笑みを浮かべた。


「思い出したね、()()()()()

「アキくん……」


 再び、二宮の瞳には涙が溢れた。


「君の記憶を奪ったのは僕だ。今から、君の記憶を全て返そう。準備はいいね」


 そうして、一つのボックスを開き、中には頑丈なアタッシュケース。その中から更にボックスが現れた。


「準備……いいよ……。ちゃんと全部、思い出したい……」


 その言葉を合図に、ボックスを二宮の額に当てた。少しの時間の後、二宮は涙を溢れさせた。


「ごめんね……。ごめんね……アキくん……」


 行方も、一粒だけ涙を落とし、その言葉を聞き入れた。


「謝るのは僕の方だ……」


   *


 十二年前――――――。

 行方行秋、七歳、二宮二乃、五歳。二人は、県境の自然豊かな町に住んでいた。


「見て見て! ニノちゃん! 僕にも異能が発現したんだよ! ほら!」


 行方は、七歳にしてようやく異能が発現していた。()()()()()()()、ただそれだけの異能だった。しかし、子供ながらに行方ははしゃいでいた。


「すごい! 魔法みたい! アキくん凄いね!」

「僕ももう小学生だからね! こんなの朝飯前だよ!」


 しかし、七歳での異能発現は遅いとされており、行方以外の子供たちはとっくに異能を私生活に活用していた。

 そんなある時――――。


「どけよ! ウスノロ!」


 公園の遊具の奪い合いで、行方は同級生からイジメの対象となってしまった。行方の異能自体も全く戦闘向きではなく、『物体を引き寄せるだけ』という力も、子供ながらに弱い者として扱われてしまっていた。


「アキくんを虐めないでよ!!」


 そんな時、蹴り飛ばされる行方の前に現れたのは、異能発現前の当時の二宮だった。


「女がなんなんだよ! 邪魔! ウスノロ連れてどっか行っちまえ!」

「アキくんはウスノロじゃないもん!!」


 そう言いながら、がむしゃらに行方の同級生たちを叩き、蹴られて泣いても行方を守ろうとした。諦めた子供たちは、いつまでも退かない二宮の姿勢に、どこか別の場所へと遊び場を変えた。


「えへへ、アキくん大丈夫?」

「ニノちゃん……。ごめん……。僕のせいで……そんなボロボロになっちゃって……」

「私は大丈夫なの! ヒーローになるから!」

「ヒーロー?」

「そう! 弱い人を助ける正義の味方! 知らないの?」

「凄い! ニノちゃんならなれるよ! 異能が発現した僕よりも強いんだもん! ヒーローになれるよ!」


 二人は、ボロボロな身体を洗う為、二宮の家に行く。


「あらあら、二人ともこんなボロボロになって……。先に、早くお風呂入っちゃいなさいよ!」


 二宮の母は、優しく二人を出迎える。事情を聞くなんてことはしなかった。


「アキくん、今夜泊まって行くわよね? 施設の方、連絡入れておいてあげるね」

「わー! ありがとうございます!」


 二宮の母は料理が上手で、行方の為に行方の大好物の唐揚げや、様々な料理を振る舞ってくれた。施設暮らしの行方にとって、こんな幸せはなかった。

 夜も、行方は自慢気に、二宮に異能を披露した。


「ほら、見ててよー」


 その瞬間、扉はパタリと開かれる。


「まだ起きてるのー? 早く寝なさいよー」

「あ、おばさん! おばさんも見てよ! 僕もやっと異能が発現したんだよ!」


 そして、二宮の母にも引き寄せる異能を見せた。


「わ、とても便利な異能を手に入れたわね!」

「へへへ、そうでしょ!」


 眠気からか、二宮は母に抱き付く。


「ねえ、ママー! 私も早く異能発現したい!」


 少し寂しそうな顔を浮かべ、二宮の母は訊ねた。


「ねえ、二乃。貴女はどんな異能が欲しい?」

「ママみたいな炎を出せる異能! あ、でも、パパみたいに空を飛べる異能もいいな〜! でも、ママとお揃いがいいから、やっぱり火の異能かな!」

「あら、私と同じ火の異能なのね?」

「うん! そうなったら私嬉しい!」


 その夜、二宮の異能は発現した。突如として、二宮の背から炎の翼が生えたのだった。

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