22話 罠の罠
九恩が檻口により異能を掛けられ静止した後、二宮の火炎を警戒してか、昴は鋼鉄を浮かばせて宙に浮かんだ。この中で宙に浮けるのはただ一人、三嶋だった。慎太郎は、風の波動による跳躍は出来るが、浮いていられる力を使うには余力が少なすぎた。
直ちに追いかける三嶋。
「こいつの異能、『鋼鉄』はお前には効かない。空の上では五分と言ったところか」
初めて、六現は昴を介して声を発した。
「それはどうかな……! 俺はいくらだってお前をぶん殴ることが出来るぜ! 空の上じゃ自由だからな!」
しかし、三嶋の頬には汗が滲む。夕陽はもう、沈みかけていたからだ。三嶋は、光がない限り浮遊する程の力は出せない。
「ふふ……。ハッタリだよね……。私は、貴方が光がなければ光化できないことを知っている……。もう太陽は沈みかけてる……。貴方はもう飛べない……。そうなれば上空から一網打尽にできる。九恩もいるしね」
余裕に構える昴。真面目な顔付きで、三嶋は光化を解き、身体を露わにした。
「あら? 落ちちゃうけどいいの?」
「さあな、昴本人なら、これから見せる俺の技、知ってるぜ」
三嶋は身体を露わにしても、微弱に発光させ、空の上に居座っていた。
「なんだ、完全な光でなくても飛べるんだ。でも、それだけだよね……。それじゃ、勝てない……」
「そいつはどうかな」
そして、三嶋は再び昴に突撃する。
「何度やっても無駄! 死角はないの!」
「昴……。力、借りるぜ」
すると、三嶋は昴に攻撃するでもなく、四方に張られた鋼鉄を飛び回った。
「何……!? 目で追えない……!?」
六現の目からは、早すぎる三嶋が何十人にも見えていた。
「元々は俺たちの連携技なんだ。光ってのは鏡の反射で屈折する。鋼鉄を四方に設置したのが仇になったな!」
「なら……こんなの解けばいいだけ……!」
しかし、
「四波流……」
慎太郎は、昴の真下で刀を構えていた。
「いつの間に真下へ!? でも、下からの攻撃なんか簡単に防げるんだから!!」
六現は四方の鋼鉄、更に真下にも増やした。
「連携技って言っただろ!! やれ!! 慎太郎……!!」
「一ノ型 昇龍」
慎太郎が地面に刀を刺すと、無数の斬撃は上空へと舞い上がる。
ヒュオッ!!
慎太郎から放たれた上空への斬撃は、瞬く間に昴の四方を守る鋼鉄の盾を粉々に破壊して行く。周りには刃が飛び交い、昴本人は逃げることが出来ず、その竜巻の中に捕えられてしまう。
「コイツ……! わざとこの身体には当たらないように調節までしてる……! そこまでの剣技が……!」
「ハッ! No.4『風刃一閃』、うちの生徒会長の実力をナメんな……!」
そして、光化している三嶋には斬撃は当たらない。
「これで、王手だ……!」
「ふん! 周りが斬撃の嵐でも、アンタの攻撃は目で見れるから交わせるのよ!!」
しかし、三嶋はニヤリと笑みを浮かべ上体を反らす。
「なら……見えねぇ攻撃はどうだ……!」
三嶋がくるりと宙を返った瞬間、
「グハッ……!!」
透明な打撃が昴の腹部を直撃した。
「なんで……九恩が……!」
昴を攻撃したのは、檻口の異能に掛かったはずの九恩櫛の異能力でのエネルギーパンチだった。九恩の異能力には更に別の能力も備わっている。
「まずい……!!」
それは、憑依者、もしくは憑依している悪霊などのエネルギー体を、拳で強引に引っ剥がすこと。引っ剥がした瞬間、三嶋は思い切り昴を叩き落とす。慎太郎は力尽くでそれをキャッチ。
「志帆ー!!」
「判ってますわ、お兄様!! 四波流 八ノ型 風乱絶!!」
志帆の手から昴に向けて波動が解き放たれ、檻口による異能も解除された。
「あとはてめぇだけだ!!」
昴の中から飛び出したのは、生徒会室に集められた時よりも更に小さな面影の少女だった。
「ふふっ……」
小さく笑うと、六現はその場から消えた。
「なんだ!?」
そして、倉庫は大きな音を立てて爆破する。中からは、生徒会室に来た少女が立っていた。
「あれは……二体目のドール!? クソッ……。慎太郎、行けるか!?」
「ダメだ……。一ノ型は不完全で、大量のエネルギーを要する……。もう立っているのもやっとだ……。でも、行方先生の話では、異能祓魔院が相手しているはず……」
しかし、六現は笑みを浮かべながら近付く。
「ふふ……。やはり天に愛されてるのは私たち異能教徒……。もう一体の方がタイミング良く破壊されたみたい……」
「異能祓魔院が勝ったってことか……!? でも……このタイミングは……」
そう、異能祓魔院が勝利を収めたこと自体は朗報ではあるが、このタイミングがいけなかった。もう一体のドールが倒されたと言うことは、このドールは異能が使えると言うことになる。
そして、その能力は未知――――。
「さあ、私たちの勝ちよ……!!」
そう言いながら、六現は辺りを爆破させて歩く。
「なんだ!? 爆破の異能力か!?」
「クソッ……ここまで来て……!! こんな事態まで想定していられれば……。行方先生なら……出来ていたかも知れないのに……!!」
そんな項垂れる慎太郎の横を、一人の影が過ぎる。
ザッ!!
身体から鋼鉄を無数に出し、昴は一瞬の間に六現を捕らえていた。
「なんで……アンタが……! 檻口の異能から解放されたら暫くは意識を失ってるはず……!」
「俺の異能が『鋼鉄を出すだけ』だと思っていたなら誤算だったな。俺の『鋼鉄』の異能の真髄は、自らの心にも鋼鉄を巡らせておける」
「は!? 檻口の異能に掛かってたでしょ!? この時の為に防御を張ってたってこと!?」
「まさか檻口先生の異能があのような条件とは見誤っていたがな……。怪しいと感じ、接触を図っていた頃には既に心を鋼鉄で固めていた。だから解放された瞬間から、俺はこうして動ける……!」
「で……でも……私のこの異能は『爆破』ではなく、貴方たちには見えない悪霊を出現させる異能!! 貴方の鋼鉄じゃ防げない……!!」
ボォン!!
瞬時に昴目掛けて爆破させる六現。
「なんで……?」
しかし、昴が負傷することはなかった。
「八百万家もナメられたものだ……。俺の師匠が誰だか分からないのか……?」
昴の身体には、見えない程に薄らと鋼鉄が張られていた。
「お前……神子さんの技、習得してたのか!?」
三嶋は地上に降りると、その姿に声を上げる。
「これは姉さん……。異能警察長官の編み出した技だ。鋼鉄を全身に巡らせ、如何なる攻撃からも身を守る。当然、エネルギー体である霊魂もだ」
「そんな力……学生のくせに……!!」
「慎太郎!!」
「おうよ!!」
慎太郎は最後の力を振り絞り、行方から託されていた異能封印の札を貼り付けた。すると、ドールは消滅し、再び中から小さな少女が半泣きで現れた。
「俺たちの……勝ちだ……!」
その隙に、九恩はニタニタと檻口を拘束した。
「どうして……異能に掛かっていないんだ……?」
「ハハッ、お前らクズの考えることなんざ容易に想像できるんだよ!! 私もクズだったからね!! ま、最初に閃いたのは、行方先生だったけど……」
六現拘束後、三人はヨロヨロと集まった。
「それにしても、お前、檻口と協力関係にあるのかと思ってたぜ……」
「ふん、俺は最初から怪しいと睨んで彼と同行していたのだ。まあ、利用されてしまった訳だが……」
「でも、お前なりにこの学校を守ろうとしてくれた。流石は副会長様だな」
「やめろよ、慎太郎……。俺は……お前たちに……」
その時、十二の高笑いが聞こえ、全員が振り向く。しかし、そこには指を差し地に伏した行方がいた。
「行方先生……! やられてるじゃないか……!」
しかし、その直後、十二は姿を消した。




