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異能探偵局  作者: 春木
異能探偵局 第二章 学園騒乱編
34/40

18話 檻

 檻口が現れると、昴と三嶋はその場に倒れてしまった。


「あなたの異能力は『檻』。発動条件は『あなたの問い掛けに三回 "Yes" と答える』こと」

「ふふ、()()()()()()()()()()()()()だろう?」


 すると、昴と三嶋はフラフラ立ち上がる。二人ともに意識は無い様子だった。


「それでは、失礼させてもらうよ、実習生くん。いや、異能探偵局……」


 そう言うと、檻口は去って行き、フラフラと二人も檻口に着いて行ってしまった。


「ねえ!? 追わないの!? 二人とも連れて行かれちゃったよ!?」


 焦る二宮だが、行方は微動だにしない。


「追わないのではない、"追えない" んだ。檻口教諭がこの学校に来て何年になると思っている。"Yes" と三回言わせた生徒だけでも数え切れない数がいる」

「それなら、先生に掛け合えば……! 異能教学園の先生たちなら、一人くらい……」


 しかし、言っている内に二宮はハッとする。


「気付いたか。"先生も" Yesの対象だ」

「それ……学校が乗っ取られるってことですか……」


 不安そうにする十二と二宮。


「大丈夫だ。既に手は打ってある。それに……」

「それに……?」

「捕獲対象は檻口じゃない。()()()()()()()()()()()()()()だ」

「それって……この学校にいるってこと……?」

「ああ、誰かも検討は付いている。()()()()()()()だ」

()()()()()()()()()()()ってこと……!?」

「そう言うことだ。そいつを先に捕獲しない限り、檻口教諭に手は出せない」


 そう言い切ると、行方は去って行った。


   *

 

 翌日、行方は檻口に三回Yesと答えていない生徒をリストアップし、生徒会室へと集めていた。既に生徒会長と話は済んでいるようで、二人を奪われた沸々とした怒りが慎太郎から漏れ出していた。


「ここにいる五名が、確実な六人だ」


 二宮は、殆どが知ってる顔で逆に困惑していた。


「まず、生徒会長、四波慎太郎。彼は意外にも檻口教諭との接点が少なかった。何故なら、檻口教諭は副会長の方にご執心だったからだ」

「そうですね……。授業にも参加はしていましたが、何分生徒数も多いので、会話した記憶はほとんどありません」

「次に二年生、二宮二乃、十二鳴美、四波志帆、九恩櫛。この三人もほぼ会話はなかった。檻口教諭は、どうやら感覚的に()()N()o()()()()()()()()()()ようだ」


 九恩は一人不貞腐れた顔で離れて座っていた。


「最後に、一年生、No.6 六現夢結(ムゲン ムイ)。あまり学校に来ないらしいな。今日はよく来てくれた」

「別に……ただの気まぐれ……」


 六現は物静かで小さな女の子だった。


「今から君たちに大事な話をする」


 そう言うと、全員は行方をそっと見遣った。


「まず一つ、僕は()()()()()()異能教徒の幹部が誰か既に分かっている」


 その言葉に、全員が唖然とする。


「そ、それじゃ、ソイツを捕らえりゃ終わるじゃねぇか! なんで行動に移さないんだよ!!」


 九恩は立ち上がると大きな声を上げた。


「九恩、考えてみろ。今、僕が犯人を指摘すれば、学校内で戦争が起きるぞ。相手には三嶋と副会長がいる」

「そ、そうか……。でもなんで、犯人が分かってることなんか犯人に伝えるんだよ……。警戒されるだろ……」

「それは大丈夫だ。何故なら、異能教徒には()()()()()()()()()()がある。幹部ともなれば、その責任は大きい。僕から指摘されない限り、軽率に動きはしない」


 その言葉に、九恩は再び静かに席に着いた。


「僕たちがまず最初に防ぐべきは、()()()()()()()()()()()だ。No.3である三嶋、No.8である八百万昴が向こう側にいて、更に誰が檻口教諭の異能を受けているか判らない。その為、戦争が始まれば学校内は乱戦状態となる」

「ちょっと待てよ……。なんでそんな作戦みたいなことまで犯人の前で言う必要があるんだ……?」


 再び九恩は食い付く。


「乱戦状態、それは、()()()()()()()()()()()からだ。両者の願いが同じなら、起こることはあり得ない」


 次いで、十二がゆっくりと手を挙げる。


「す、すみません……。檻口先生の異能、『檻』って言ってましたけど、具体的にどんな異能なんですか……?」

「檻口教諭の異能『檻』は、意識を檻の中に閉じ込める、言わば()()()()()()()()()()だ」

「そ、それじゃあ戦争は起こらないんじゃ……?」

「それ以上は話せない。行動に移されるからだ」


 行方の言動に、多少の質問が飛び交う中、この六人の生徒にはとある条件が言い渡された。

 一に、今後も檻口と会話をしないこと。

 二に、学園側に悟られないこと。

 三に、この中の誰かを尋問に掛ける等をしないこと。

 四に、今日一日、異能を一切使用しないこと。

 全員が頷くと、それぞれは静かに生徒会室から出て行った。生徒会長、慎太郎は未だ深刻な顔を浮かべる。


「生徒会長、やはり二人が気になるか」

「もちろんです……。二人は古い友人。しかし生徒会長として、学園の危機を前に何も出来ない無力感が自分の心を占めています……!」


 そんな生徒会長を前に、行方は静かに近寄る。

 そして、


 パシン!!


 行方は慎太郎の頬を強く引っ叩いた。


「な……何を……!!」

「四波慎太郎、()()()()()だ」


 慎太郎は目を丸くして行方を見遣っていた。


「な……何を言っているんですか……? 僕な訳ないじゃないですか……。僕は生徒会長……」

「頭がグラグラするだろう。顎を強く打ち付けたからだ。意識を鮮明に保てないだろう」


 暫くして、慎太郎は脳震盪を起こし気を失った。


「行方くん……」


 二宮は、行方の指示の元にゆっくりと入室する。


「本当にそんなやり方でいいの……?」


 行方は黙って慎太郎を背負った。そして、黙って二宮の横を通り過ぎる。


「着いてこい、二宮」


 保健室に連れて行くと、保健室の先生には、「廊下で倒れているところを見つけた」と報告した。次いで、行方は慎太郎の妹、志帆の下へ向かう。


「四波志帆、お前が犯人だ」

「え、そんな訳ないでしょ!?」


 そして、またも思い切り顎を強打させ、気絶させた。


「ねえ……。こんなやり方……怖いよ……。行方くん……」

「行方 "先生" だ。連続して倒れていると不自然だ。続きは日を跨ぎながらゆっくり行う」


 そう言うと、職員室に戻ってしまった。二宮は、不安を抱えながら教室に戻った。そして、抑えきれない感情をぶつける先は、唯一信じられる友人だけだった。


「ナル……」

「ニノ、どうしたの? 危ない状況かもだけど、行方先生は犯人を判ってるって言ってるし、大丈夫だよ!」

「そうじゃないの! 行方くんがおかしいの……。いつもと違うと言うか、論理的じゃないと言うか……。とにかく、ナルは逃げて……! 行方くんから逃げて!!」


 声を荒げる二宮、その背後には、


()()()()()()()()

「え……?」


 行方が立っていた。

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