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異能探偵局  作者: 春木
異能探偵局 第二章 学園騒乱編
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13話 反省文

 事件後、二宮と行方は、二宮の補修の為に行方も同行、教室には二人きりで反省文と出された課題を行っていた。


「なんで私がこんなこと……」

「それ四回目だぞ、二宮。事件に関与する、それに助力する、それまではよかったが、十五歳の少年をぶん殴ったんだ。立派な児童傷害罪に当たる。それでも逆に、それだけで済むよう手配してくれた探偵局に感謝することだな」


 あの場面、相手からの攻撃があり、それに正当防衛という形で暴行をしていたならまだ許された。しかし、二宮は自分から少年を誘い、一方的な危害を加えてしまっていた。異能警察と探偵局の前、そして、二宮自身が異能教の生徒として、罰が下されるのは当然だった。


「相手の為の行いでも……確かに私も熱くなってた……。それは本当に反省しているけど……」


 そんな時、ふと廊下から喧騒の声が聞こえる。


「ちょっと待てよ!!」


 その声に、ふと廊下を見遣る行方と二宮。


「今の声……三嶋先輩……?」


 No.3、異能教学園三年の三嶋とは、異能警察庁本部で事情聴取を受けたキリだった。

 二人は声の方に向かい、自然と廊下に出た。


「だから待てって……!」


 そこには、異能教学園三年生、生徒会副会長であり、異能警察長官、八百万神子の弟、八百万昴の肩を強く掴んでいる三嶋の姿があった。


「どうした? 二人とも」


 行方は実習生だが、先生らしく仲裁に入る。


「あ、行方さん……」


 出会いの最初が事件だっただけに、少し動揺した姿を見せる三嶋。スルッとその手を離すと、昴も振り向いた。


「行方先生、休日なのに、事件を起こした生徒の為にわざわざご足労頂き、ありがとうございます。行方先生は、生徒からも人気が高く、よく話を聞きます。姉からも……」


 "事件を起こした生徒" と言うのは、遠回しに二宮のことを話しており、二宮は少し顔を膨らませた。

 

「副会長の八百万昴だったな。お姉さんの長官にはいつも世話になっている。それで、二人は何をしている?」

「行方先生は、実績もあり信頼も置ける。相談相手には丁度いいかも知れません。実は、三嶋とつるんでいる輩共の悪戯が過ぎているようで、生徒会の名に掛けて少しばかり注意しに行こうかと……」

「だから、俺の仲間はそんなことしねぇって!! お前、そうじゃなくても生徒会の権力を盾に振るうような真似はするんじゃねぇよ!!」


 熱くなってしまっている三嶋と、絶対に揺るがない態度を示す昴。しかし、そんな修羅場のような雰囲気でも、冷静さを失くさないのが行方だった。


「一先ず、三嶋は仲間ではないと言っている。証拠もない中で動くのは軽薄だ。僕も同行するから、まずはしっかり誰が何をしているのか、特定してからだ」

「チッ……。分かりました。従いましょう……」


 軽く舌打ちをし、イライラした雰囲気をまるで隠そうとしない昴は、そのままその場を去ってしまった。


「アイツ……何を焦ってやがんだ……」


 その背中を見て、ふと三嶋は零した。


「焦ってる?」

「あぁ。アイツの姉ちゃん、警察庁長官だろ? 前にも話されたけど、俺たち三人は、言わば悪友っつーか、腐れ縁っつーか……。幼馴染なんだよ。で、俺が今年はNo.3、会長の慎太郎はNo.4になった。でも、アイツはNo.8。一桁台でもすげぇことだけど、アイツは俺たちに出遅れたってきっと焦ってるんだ……」

「なるほど、そういう事情か」


 そう言うと、行方は教室に戻ってしまう。


「え!? ちょっと行方くん!? 同行するって言ってたのに、副会長のこと追わなくていいの!? 三嶋くんも放置だし……」


 すると、少し黙った後、二宮に向き合う。


「いや、八百万昴は悪くないからな」


 そう言うと、続きをやれと言わんばかりに、提出用の紙をザラっと並べた。

 二宮も、行方のこの発言の意図は分かっていた。この学校では、敷地内に限り異能の使用を許可されている。異能教学園は、最も異能の向上を目的としたシステムで取り組まれている為である。しかし、外傷を加えたら停学措置をされる。そんな中、外傷を加えることすら許されているのが、生徒会の特権だったのだ。

 先程の三嶋の『生徒会の権力を盾に振るうな』と言う発言は、そこから来ていた。行方は、それらも全て分かった上で、椅子に座った。溜息を零しながら、二宮は続きの課題を行なった。


   *


「ふあ〜〜、終わったぁ〜〜!!」


 二宮は大きく両腕を上げる。ずっと隣に鎮座していた行方は、夕焼け空を眺める。


「この量をよく一日で終わらせたな」


 二宮の提出用の課題は膨大な量があった――――にも関わらず、二宮は一日で終わらせてしまった。

 流石の行方も、多少驚いている。


「へへへ、こう見えても自主勉がんばってるから」

「意外だな。家で学習は無頓着だと思っていた」


 すると行方は、椅子に掛けてあったコートの内側のポケットから、イヤホンと小型の機械を取り出す。自分の右耳に指すと、もう半分を二宮に向けた。


「え、な、何……急に……!」


 異性関係で半分ずつイヤホンで音楽を聴くと言う行為に二宮は以前より甘酸っぱいものを感じていた。そんな憧れが何の前触れもなく起こり、二宮は赤面させ動揺を露わにした。


「いいから付けろ」


 しかし、甘酸っぱい雰囲気などどこにもなく、行方は表情を変えずにイヤホンを机に置いた。


「わ……分かったわよ……」


 渋々付けたイヤホンの先に聞こえてきたのは、音楽ではなかった。


「何これ……喋り声……?」

「そうだ、盗聴だ」


 一瞬の静寂の後、二宮は大きく仰け反る。


「ええええ!? いやいや、私に法律のこととか散々言っておいて何やってるのよ!?」

「探偵局の仕事の範囲内であれば、疑わしき人物の盗聴は赦されてるんだよ……。いいから、早く付けろ」


 苦渋の顔を浮かべ、二宮は再びイヤホンを付ける。


「この声……檻口先生じゃない!?」


 声の主は、異能教学園、三年異能学担当教師、檻口。


「以前から、見覚えのある顔で気になっていて調べたところ、檻口先生は一度禁固入りしている。出所しても教師をしているのは偉いと思ったんだが、昨日『⑧ 17:00』と書かれた怪しいメモ書きをデスクの上で見たんだ」


 盗聴器は檻口に付けられている為、話し相手の声は薄っすらとしか聞こえなかった。それでも、誰かは喋り方ですぐに分かった。


「話し相手は……八百万副会長……!!」


 二人は、檻口と昴の会話に耳を立てる。


「また持ってきてやったぞ、成績不審者の資料と、最近校則違反を犯した生徒のまとめだ」


 そして、ゴニョゴニョと昴は何かを返している。


「いいんだぞ? 先生として、俺から言ったって」


 そしてまた、ゴニョゴニョと何を言っているか分からない音量が二人の耳に聞こえる。数分のやり取りの後、解散したようだった。


「何これ……どう言うこと……?」

「だから言っただろ、『八百万昴は悪くない』と」

「檻口先生に操られてるってこと……?」


 そんな時、コンコン、と教室の戸が叩かれる。


「そろそろ鍵閉めたいんだけど〜」


 声の主は、二年の化学教諭、清水だった。


「すみません、清水先生。二宮も、課題を全て終わらせたようでしたので、届けに向かうところでした」

「え、お前あの量一日でやったの? やべぇな〜」


 そう言いながら、サラッと課題を手に取る。


「実習生の……」

「行方です」

「あ、行方くんね。付き合ってくれてありがと。じゃあ俺早く帰りたいから、もう二人とも帰っていいよ」


 そう言うと、欠伸を浮かべて二人を見送った。清水先生は、生徒にあまり干渉の少ない、教師らしくない癖の強い先生だった。

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