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異能探偵局  作者: 春木
異能祓魔院 第一章 異能開花編
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(10話 弾丸暴徒)

 いつもの様に、異能祓魔院では、淡々と書類作業が行われる。楽にとって一番嫌な時間だった。


「隊長〜……もう限界だ〜……」


 愛を憑依してから楽はある程度の漢字が読めるようになってしまい、雑務も手伝うことになったのだ。


「つーか神崎の奴はまだかよ。遅刻じゃねぇーの?」


 アルバイトの神崎は、基本的に雑務に参加はせず、学校終わりに清掃や食事作り、残りの時間に軽く書類整理を手伝うのが日課だった。しかし、面倒見のいい神崎は、楽のミスを心配して少し手分けしてくれていた。


「そう言えば確かに、神崎が遅刻は珍しいですね」


 普段から寡黙な逸見も、楽のだらけた言葉には反応しないが、この話題には食い付いていた。


「それもそうだな……」


 そして、暫くの時間が経つ。


「ハァ〜、悪霊と戦いてぇなぁ〜」


 楽の集中力は限界に達しようとしていた。

 そんな時だった。


 テレレレレレレレ!!


 事務室の電話は突如として勢い良く鳴り響く。


「はい、異能祓魔院です」


 睦月が受話器を持つと、電話越しからはゴソゴソと物音が鳴り響き、人の声がしない。


「あのー、異能祓魔院ですけど……」


 そして、微かに遠くから聞こえる声。


『……隊……助……て……』


 睦月の顔は青褪める。


「 異能教徒……!!! 」


 その声に、楽と逸見も立ち上がる。


()()()()()したのか!!! おい!! 答えろ!!」


 しかし、そのまま電話はプツリと切られた。


「隊長……今のは……」

「神崎が拉致られた。異能教徒だ……!! 本格的に俺たちを潰そうとして来ているんだ!!」

「確かに……。唯一異能祓魔院で寝泊まりしていないのは神崎だけだし、誘拐されやすいかも知れませんね……」

「楽を諦めてない点から、異能祓魔院潰し、並びに()()()()()()()()()としているんだろう。直ぐに行くぞ……」

「直ぐにって言っても……場所が……」

「悠長なこと言ってられるか!! 仲間が危険な目に遭っているんだぞ!!!」


 いつもは真面目な睦月は、熱くなると止まらない。それを知っている逸見は、黙ってしまう。


 パンパン!


 そんな殺伐とした事務室に、手拍子が響く。


「落ち着きなさい、睦月副隊長」

「八幡……隊長……」

「 "神技(しんぎ)" を使います」

「しかし……神技を使ってしまっては……半年間は神技は使えなくなってしまう……。緊急事態が起きたら……」

「本当に慌てているようですね、睦月副隊長。()()()()()()()()()が他にありますか?」

「……ありません。あるはずもない……!」

「それでは、神技を使います。確か、神崎さんの大学から住所までは西武地区でしたね?」

「そうです。恐らく誘拐するとしたらその辺りかと……」


 そして、八幡は静かに事務室を去った。


「なあ、()()()? って、なんだ?」

「口で説明するのは難しいが、八幡隊長のみが扱える『契約している神の力を借りる』ことだ。まあ見ていろ。行くぞ」


 そして、三人も八幡の後に続いた。真ん中に聳える神棚に全員は集まる。シスターも慌てて白装束に着替え、参列した。


「始めます。南無阿弥陀(なむあみだぶつ) 緑地(りょくち) 空虚(くうきょ) 真達羅魔陀羅(しんだらまだら)


 すると、奥に聳える大樹はふわっと光る。


「見えました。神崎さんは()()()()()()()()()に捕らわれています」

「そ、それはどこですか……!? 急がないと……」

()()()()()()()()です。異能教徒の崇める神による神技結界(しんぎけっかい)があり、外部から侵入は出来ません」

「そ、それじゃあ……」

「もう半年分の神技を使い、貴方たちを転送します。しかし、結界は破れない。何を意味するか分かりますね?」

「相手のボスを倒さなければ、俺たち全員が脱出できない……と言うことですよね……?」

「そうです。かなり危険ですし、罠の可能性もあります。きっと、私に一年分の神技を使わせることすら計画の内なのでしょう。それでも、向かいますか?」


 睦月と逸見は、苦い顔を浮かべてしまう。

 しかし、


「おう! 行くに決まってるぜ!!」

「楽……」

「神崎助けんだろ!! 他のこと考えんのは、俺は良くわかんねぇけど、後回しだろ!」

「そ、そうだ……! 転送、お願いします……!!」

「睦月副隊長……。いえ、異能祓魔隊 隊長 睦月飛車角。必ず仲間を全員引き連れ、戻って来なさい」


 睦月は、何も言わずにビシッと敬礼をした。

 そして、次の瞬間、楽たちは薄暗い地下施設にいた。


「すげぇ……一瞬で場所が切り替わった……」

「楽……もう油断は出来ないぞ……。ここは既に敵の本拠地だ。八幡隊長のことだから、相手の監視が少ない場所に転送してくれただろうが、それでも相手だってそれを見越しているはずだ……」


 バチン!!


 薄暗く光っていた灯りは、一瞬にして全て消える。


「やはり……罠か……」


 全員は固まり、緊張に汗を滴らせる。


「うおっ!!!」


 そして、真下に三つの穴が同時に開かれる。


「クソっ……! こんなありきたりな……!」


 三人は更に地下深く、散り散りにされてしまった。

 逸見は、一人で落下させられた。目の前に居たのは、以前手も足も出なかった片腕の老人がそこには突っ伏していた。


「お久しぶりです、銃の青年よ」


 挨拶と同時に、老人は瞬時に眼前に迫る。


「すみませんねぇ……。痛ぶる真似は私は好きではないもので……。瞬殺、させて頂きます」


 老人は、思い切り拳を振るう。


 -異能力・弾丸-


 スッと、逸見は高速移動をして交わす。


「何……!? 以前はそんなこと……!!」

「悪いな、異能教徒。この重たい銃は、"協力して悪霊を優しく祓う" 為の武器であり、俺の本当の特技は "近接戦闘" なんだ」


  老人にも追えない速度の一発を腹に喰らわす。


「速度で負けることはない。俺は、()()()()()()だ」

「こんなもの……調査では……」

「そうだな、ここ十年近く、この近接戦闘をすることはなかったからな……。俺は、元No.5『弾丸暴徒(だんがんぼうと)』。覚えておく必要はない。もう終わるからな」


 次の瞬間、老人は気絶していた。


「さて、奥へ進もう。銃は……置いていく」


 逸見桂馬の目は、いつもより狂気に満ちていた。

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