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異能探偵局  作者: 春木
異能祓魔院 第一章 異能開花編
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(9話 強さ)

 ある時、楽は同じ歳くらいの少年に話し掛けられる。


「やあやあ、こんにちは」

「あ? なんだ、お前……」


 彼の姿は、見るからにボロボロの格好。孤児のように髪が伸び、前髪で目が隠れていた。


「僕は異能教徒に所属している、鬼道(キドウ)と言う。君の異能力と "()()()" を持っているんだ」


 その言葉に、楽は一気に距離を空ける。


「異能教徒だと……?」

「あぁ。君と同じ施設に入れられた番号、1番だ。一番最初の暗殺者として育てられた。先日、やっと異能教徒の連中が僕のことを迎えに来た。そして君のことを聞いた」

「お前も利用されてた子供か……。なんで、異能教徒に加担なんかしてるんだよ」

「加担……? そうじゃない。神に必要とされているんだ。僕たちは選ばれた人間だからね。そして、この世界で最も強い異能力者になれるんだ!!」


 そして、鬼道の目はギロリと現れた。


「憑依……付与!」


 そうして、鬼道はいきなり楽を殴り付けた。ドン! と吹き飛び、楽は空中上を飛ばされている。


「なあ、俺さ、今、吹き飛んでるけど、この後ぶん殴っても、せーとーぼーえい? ってやつになるよな?」

「そうね、この場合なら正当防衛、でもやり過ぎたら過剰正当防衛になるから気を付けて」

「うし……。悪魔、行くぜ……! 憑依…支配……!」


 楽は空中上でピタッと止まり、電話を一本入れた。


《あー、あー、繋がってんのか……? これ……。相手の声が聞こえねぇと分かんねぇな……。まあいいや、二番街の河原で異能教徒と交戦中。以上》


 ブチっと切り、楽は思い切り地面を蹴り飛ばす。


「ただいま」


 そして、楽はその勢いのまま鬼道を殴った。しかし、鬼道は全く動かなかった。


「コイツ……!」

「あれ、もしかして "視えてる" の……?」

「顔……両手両足……場所ごとに全部別の霊を憑依させてやがる……! 俺にはこんなこと出来ねぇぞ……!」

「そう、君には出来ない。僕と君の異能は確かに『憑依』だ。でも、()()()()()()()()()()ってことだね」


 そして再び、見えない速度の拳に殴られた。悪魔を憑依させてる為、吹き飛びはしなかったが、数メートル後退させられた。


「痛ってぇ……」

「はは! 流石に君でも分かるだろ? 僕には勝てないんだよ!! 諦めて、僕と共に行こう。迎えに来たんだ」

「迎えに来た……?」

「ああ、そうだ。僕も、君も、選ばれた人間だ。異能教徒に必要とされている人間なんだ。それに、異能教徒から()()()を授かれば、僕たちはもっと強くなれる……!」


 楽は、パンパン、と砂埃を払う。


「強く……なれるのか……」


 鬼道は、楽の言葉にニヤリと笑みを浮かべる。


「そうだ。強くなれる。今よりももっとだ……!」


 パァン!!


 その瞬間、鬼道の眼前を弾丸が通過した。


「なんだ!?」

「強くなれる話は悪くねぇ。でもよぉ、お前が憑依させてる悪霊共、すげぇ苦しそうだ」


 楽は、鬼道の眼前までゆっくりと迫る。


「楽!! 大丈夫か!!」

「わざと当たらないようにするの、めちゃくちゃ難しいから、次は出来ないですよ、隊長……!」

「クソっ、異能祓魔隊を呼んでたのか……!!」


 ここに来て、異能祓魔隊の車が駆け付けていた。


「鬼道っつったか。俺は確かに強くなりてぇよ」

「くそっ……殴るなら殴れよ!! お前の拳なんか俺の防御の前じゃ歯が立たないんだ!!」


 しかし、楽は殴りはしなかった。


「俺は気付いたんだ。苦しい奴がいたら、楽しくねぇ。お前の苦しそうな悪霊、俺は殴らねぇ」

「なんっ……」


 その瞬間、楽の前に異能祓魔隊のメンバーが立ち並んでいた。


「ふっ、まあいいや。今日は挨拶程度だ。じゃあね」


 そう告げると、鬼道は跳躍して帰って行った。


「楽、彼で合っているのか!? 見たことないが……」

「あぁ、自慢気に自称してたぜ。俺と同じ、()()()()()使()()()()()()だ」

「彼の異能は……判るか……?」

「俺と同じ『憑依して操る異能』だ。でも、アイツはいろんなとこに()()()()()()()させてる。俺の上位互換みたいな異能だ」

「そうか……。そこまで一人で探ってくれたのか……。しかし、彼のそんな異能、どうやって分かったんだ……?」

「え、()()()だろ……? 足とか、手とか……」


 しかし、祓魔隊メンバーはキョトンと顔を浮かべる。


「それは恐らく、楽にしか見えていないものだ……」

「もしかして、この前の異能教徒の二人組に纏わりついてた悪霊も、見えてなかったのか!? だからあんな風にみんな反応が遅れてた……!?」

「楽、ちょっと待て……。今の話、本当なのか!?」

「隊長……。これって、愛ちゃんの "視る" 能力なんじゃないでしょうか……?」

「いや、違うだろう。前回、異能教徒襲撃時には、まだ愛は楽に憑依されてなかったんだ……。楽の力だ……。異能教徒は暗殺施設の子供たちを攫いに来ている。恐らく、その時にでも特別な薬か……」


 そんな暗い空気の中、楽は目を瞑った。


『そうではないぞ、睦月とやら』

「お前……は……?」


 楽は、女性の声を発した。


「妾は楽の中の悪霊、悪魔と名付けられた者じゃ」

「お、お前が……楽の中の悪魔か……!」

「楽が本来の人間に見えざる力を持っているのは、()()()じゃ。妾を憑依状態だから見られるのじゃ」

「お前……楽の身体を逆支配したのか……! お前の本当の目論みはなんだ!!」


 睦月は途端に熱くなる。異能教徒がここまで好戦的に動いている中で、楽の中の悪魔にも問題を起こされたら、それこそ手が追いつかないからだった。


「勘繰るな。妾が睦月と話したいと断った上で、楽は妾に身体を預けたのじゃ。妾は平穏が好きでの。これだけは主らに伝えておこうと思ったのじゃ」


 全員がゴクリと唾液を飲む。祓魔師の仕事をしていても、こんなことは全員が初めてだったからだ。


「楽は主らが思ってるほど危険な子供じゃない。特殊能力に恵まれている訳でもない。楽の "視える力" も、妾の力での。妾はこれでも元神じゃ。それくらい視える」

「それでも……楽の憑依し、それを支配する異常な力は凄まじいと思うのだが……」

「アハハ、それも妾を憑依してるからじゃよ。此奴がそこらの悪霊を憑依したとて、驚異的な身体能力は手に入らなかったじゃろ。だから、そこまで危険視するでない」

「悪魔……さん。本当は……貴女は……」

「睦月、それ以上言うでない。妾は悪霊に堕ちた身。人間に加担してやるのも、外に出られてる、それだけじゃ」


 そう言うと、楽の表情はスッと変わった。


「お、話終わったか?」

「あ、ああ……」


 睦月は、未だ険しい顔で、楽を見遣っている。


「なあ〜、腹減ったし帰ろうぜ〜」


 そう言うと、楽は悠長に背を向ける。


「な、なあ……楽……」


 睦月は、表情を変えずに楽の背に問う。


「なんで今回、俺たちを呼んだんだ?」

「あー? だって、()()()()()()()()()()()()って、そう言ってたの隊長じゃねぇーか」

「いや、まあ……そうなんだが……」


 楽は、まだ背を向けたまま付け足す。


「まあ、あと、この前隊長が俺のせいで謝ってんの見て、仲間が傷付けられるの嫌だなって思ったんだ。俺でも思うってことはよ〜、真面目な隊長たちなら、もっと傷付くんじゃねぇかなって、思ったんだよ」


 そして、「ハァ〜!」と大きく伸びをする。


「さ、早く飯いこーぜ。またラーメン奢ってくれよ!」


 そのまま、楽はスタスタと車に向かって行った。


「仲間ですってよ、隊長」


 神崎はニヤニヤしながら睦月に迫る。シスターも釣られてニコニコとしていた。


「仲間……か……。まさか、楽の口から、俺たちを仲間と言ってくれるとは思ってなかったな……」

「まだ、タバコは吸われますか?」


 三人は夕焼けの空を眺めていた。


「ちょっと、止めてみようかな」


 そして、二人に向けて睦月はニカっと笑った。

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