表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能探偵局  作者: 春木
異能祓魔院 第一章 異能開花編
20/24

(5話 赤いプチプチ)

 お祓い後、行きの明るい雰囲気とは裏腹に、暗い雰囲気が車の中を包んでいた。


「うおっ、また海見えた! アレが海かー、広ぇなぁー」


 たった一人、楽を除いて。


「楽、聞きたいことがあるんだが、いいか?」


 睦月は、運転しながら後部座席の楽に話し掛ける。


「なんだー?」

「その『支配』の異能に、霊魂を祓う力……。お前たちは以前まで何をしていたんだ……?」

「あー、俺と愛は暗殺の仕事をしてたんだ。俺は物心付く前から働かされてたから、自分の名前もなーんも覚えてねぇし、こんな異能も()()()()()()が教えてくれた」

「暗殺の仕事か……。今ここにいると言うことは、無事に逃げ出して来られたか、誰かに救ってもらったのか。俺の中の悪魔ってのは、なんなんだ……?」

「悪魔は俺がそう名付けた悪霊だ。施設から抜け出した時にボロい神社があって、そこに居た元神様らしい。俺の身体に住まわせる代わりに力を借りてんだ。俺の身体に居ないと外に出られないらしくてな」

「あの力はそう言うことだったのか……」


 一人でに呟く睦月。そして、よくよく冷静になり、以前、愛より「大人に話したらまた施設に戻されるよ」と忠告を受けていたことを思い出し、焦った顔を浮かべる楽。


「あ、あのな! お前たちも、俺たちのことを施設に戻そうってなら、力付くで相手になるぜ……!! 俺たちは自由に楽しく生きてぇんだ!! な、な! 愛!」


 しかし、愛は窓の外をずっと眺めていた。


「愛……? 寝てんのか……?」

「私は施設に戻るよ……。あんな悪霊が悲しい生き物だなんて知らなかった。これから先も、そう言うのに出会したら私は異能で見てしまう。それなら、施設で静かに過ごしていた方がマシ……」

「はぁ!? ここまで来て帰る気かよ!? 俺は嫌だ! 一人だろうと自由になるぞ!!」


 そんな時、急に車は停車する。


「な、なんだ!? や、やんのかよ!!」

「違う……。交通規制だ。どうやら銀行強盗騒ぎが起きているらしい。別の道を使わないとな……」


 そして、車の横を勢いよく通る影。


「お、おい! 見たかよ今の!! 足から火を噴射してすげぇスピードで飛んでたぞ! アレも異能か!?」

「あの子は……確かNo.2の二宮とかって名前だな。こんな公共の場で異能行使して大丈夫か……?」

「なあ、睦月! 俺はあんな風に自由に生きてぇんだ! だから施設には戻りたくない!!」


 睦月は険しい顔を浮かべながら真剣に楽を見遣る。


「楽、それなら、俺たちと祓魔師の仕事をしないか? 今度は人を殺さない。人を助ける為に力を使うんだ」


 楽は暫く考えたが、答えは直ぐに出た。


「嫌だね。んなモン、牢獄に居た頃とも、施設の中に居るのとも何も変わらねぇよ。一人で自由に生きてぇんだ」


 すると、睦月はスマートフォンでシュッと一枚の画像を楽に見せ付ける。


「な、なんだコレ……。う、美味そうだな……」

「これはステーキと言う食べ物だ」

 

 そして、画面をスワイプさせる。


「こ、今度はなんだ!? 赤……白……赤いプチプチ! なんなんだよこれ!!」

「これはお寿司と言う食べ物だ。俺たち異能祓魔院で仕事をすれば、ちゃんと給料、つまりは、これらを食べられるお金が手に入れられる。でもな、子供一人で生きていくんじゃ、大人に見つかっていつ施設に戻されるかも判らないし、こういう食べ物も食べられない。一生サバイバル生活でも続けるか?」


 暫くの静寂の後、震えながら楽は声を絞り出す。


「睦月……。本当にコレ食べられるんだよな……?」

「あぁ、なんなら今晩は、俺の大好きな料理でも振る舞ってやろう。今日の褒美も出来ていないしな」


 仕事では、報酬なんてものはない。美味しい食べ物なんて与えられず、常に餓死を凌ぐ為だけのパンが支給されていた。それに、楽の頭でも分かる。今まで愛と行動を共にしてきて、逃げたり隠れたり、確かに自由ではあるが、子供には制限が多い。


「判った……。やってやろうじゃねぇか!」

「あぁ、歓迎する。愛はどうする? 愛の異能も向いている仕事だとは思うが、さっき自分で言っていた通り、悲しい過去を沢山見ることになるだろう。強引に勧誘をしたりはしない。自分で選んでくれ」

「愛もやるよな! こんな美味そうなんだぜ!」

「私は……」


 愛は、俯いたまま静かに答えた。


「私は施設に戻るよ。私の中で一番美味しい食べ物はもうこの世にはないの。私の最後の誕生日を祝ってくれたショートケーキ。もう、家族では食べられないから」

「つまんねぇー奴。まあ、俺には悲しいとか苦しいとかよく判んねぇから、少し羨ましいけどな」

「私は楽が羨ましいよ。そんな風に、あんな人たちを目の当たりにして何も感じないなんて……」

「ふーん、そう言うもんか」


 暫くして、愛はそのまま睦月の車で施設へと送られ、「また会おうぜ」と楽は一方的に握手を交わした。施設の人には、睦月から話を通し、そのまま楽を引き連れて異能祓魔院の寺院まで帰還した。

 施設からの帰り道で、楽は悪魔の詳細を話した。元神様で意識もしっかりとしている。その為、寺院の神様に交渉し、自由に行動できるように配慮もしてくれるとのことで、楽の部屋も用意してくれた。楽は、異能を使用した疲労感からか、部屋に通されて直ぐに就寝してしまった。

 タバコに火を付け、寺院の外の階段に座る睦月。月が照らす中、入浴後のシスターが迫る。


「隊長、タバコは辞めたんじゃなかったですか?」

「シスターか。副流煙は身体に毒だぞ」

「楽くん、本当にいいんですか……? あの()()()()()は身近で見ててとても恐ろしいと感じました」


 ジュッ! と、風に煽られたタバコは音を鳴らす。


「楽は子供だ。実の年齢が不明だが、恐らく十六歳か十七歳くらいの歳だろう。彼は未だ、善にでも悪にでもなる。一番恐ろしいのは、()()()()()だ。好奇心に煽られ、あの異能を悪の道に使われたら、異能教徒もきっと見過ごさない」

「つまり、()()()()()()()()()()、と言うことですか?」

「そうだ。きっと、今の楽の力ですら、あの悪霊と手を組めば俺一人では止められない。だが幸い、体調やこの寺院の神様の力、それに、俺たち祓魔隊の力があれば、楽のあの力は抑えることが出来る」

「そりゃ、タバコも吸いたくなっちゃいますね」


 睦月は、フハッと笑い声を漏らす。


「確かに気苦労は多いな。でも、アイツが霊魂を祓った時に、()()()()()を確かに実感していた。これは俺の直感でしかないが、アイツはきっと、いい祓魔師になる」


 その言葉に、呆れた顔のシスターも笑う。


「隊長がそう感じたのなら仕方ありませんね」

「いつも面倒を掛けるな。シスター」

「無理だと感じた時には、私の力を使ってください。こちらこそ、いつも守ってくれてありがとうございます」


 そう告げると、睦月の背中に一礼し、シスターは寺院内へと戻って行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ