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異能探偵局  作者: 春木
異能祓魔院 第一章 異能開花編
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(3話 異能祓魔院)

 楽が目を開けると、高い天井が広がっていた。畳の上の綺麗な布団の上に寝かされている。


「んだ……ここ……」

「涎を垂らしてるなんて、どこまでも緊張感がないようね。楽」


 少し前に目を覚ました様子の愛は、体育座りになって楽のことを見遣っていた。


「なんだお前、てか何があったんだっけ……。確か俺、あの化け物を取り込もうとした気がするんだよな……」

「判らない……。楽がいきなり嘔吐して、発狂し出したかと思ったら、大量の魂を身体中から発し始めたの。多分、ここに居る人たちに助けられたんだと思う。私も途中で気を失ったから、その後は分からない……」


 すると、楽はバッと起き上がる。


「オイ、悪霊! てめぇ、俺の身体ン中住まわせてやってんだから、あーいうときは助けろよ!」


 しかし、悪霊からの反応は見られなかった。


「あれ、中にいるのは感じるんだけどな……。コイツも寝てんのかな……?」


 すると、二人の襖はスルッと開けられる。


「よう、騒がしいと思ったら起きたみたいだな。いきなり騒ぎ始めるとか、すっげえ元気なんだな!」


 楽を助けた張本人、隊長らしき男性は、爽やかに笑って楽たちの部屋に入って来た。


「あ? なんだ? お前」

「なんだお前って……口悪いな……。君たちを助けた異能祓魔院(いのうふつまいん)の者だ。副隊長の睦月(ムヅキ)飛車角(ヒシャカク)だ。お前たちはなんて言うんだ?」

「俺は楽、こっちは愛」

「楽に愛か! よろしくな!」


 すると、後ろから「なんの話してるんですか?」と、ヒョコッと金髪の女性が現れた。


「あ、白装束だった人……」


 愛も印象に強く残っていたらしいが、白装束を着ていない彼女は、またどこか違った雰囲気に見えた。


「こんにちは、私はこの寺院のシスターです!」

()()()()? ってなんだ?」

「シスターと言うのは、俺たち祓魔師が霊魂を祓う際にご祈祷を捧げてくれる人のことだ。シスターの祈りで、霊魂は極楽浄土に行けるとされている」

「ハッ、んなモン御伽話の話だぜ。実際、俺と愛はご祈祷ってのがなくても霊魂を祓って来たしな」

「確かに祓うだけなら誰にでも出来ないことはない。でもね、ご祈祷があるのとないのとでは、彼らの行く先が大きく変わると言っても過言ではない。君たちも祓い人なんだね。そしたら一度、シスターのご祈祷の下で祓ってみるといい。きっと、違いに気付けるはずだ」


 そんなところで、遠くから声が聞こえる。


「隊長ー! ご飯できますけどー!」

「おっ、夕飯の時間だ。お前たちの分も作ったぞ。昨日からぶっ通しで寝ていたみたいだし、お腹も空いてることだろう。しっかり食べて、今夜もゆっくり休むといい」


 そうして、大きな和式の部屋に、長いテーブル、六人分の食事が並べられていた。一人、正座にて待機していた青髪の男は、楽たちに気付くと、立ち上がり敬礼をして挨拶をした。


「隊長、お疲れ様です! 君たちも、よく休めたようで何よりだ。俺はこの異能祓魔院所属、逸見桂馬(イツミ ケイマ)と言う。よろしく頼む」


 すると、奥から追加の料理を持って女性も現れた。


「おやっ、起きたみたいだね! 私は神崎香(カンザキ キョウ)! 一応、清掃とか家事のアルバイトでここ来たのに舞台に入れられてるのー!」

「アハハ、人手不足なんだ。その話は勘弁してくれ、ちゃんと学校に通う時間も作りながら、社員分の80%の給料を支払ってるからいいじゃないか」


 そう言いながら、睦月と笑っていた。神崎は、学生で明るい女性だった。

 暫くして、全員揃って食事が始まる。楽は、生まれて初めて「頂きます」と言った。これも、楽が感じる初めての感覚。施設に移されてから温かい食事は食べさせて貰っていたが、初めて「温かい」と思った。楽も愛も、黙って食事に夢中になっていた。


「で、さっきから気になってたんだけど、お前達の『いのうふつまいん?』ってのは、なんなんだ?」


 食事も中盤、楽は食事を囲う皆々に尋ねた。


「あ? お前達ってなんだ、ガキ!」

「神崎、落ち着け。口が悪いのは、どうやらこの子のデフォらしい」


 怒る神崎を苦笑いで仲裁する睦月。


「異能祓魔院と言うのは、国から特別に異能行使を許されている機関の一つ。霊魂を祓う祓魔師の中でも、特にお前たちが出会したような強力な悪霊を、異能の力で一つの隊として祓う組織の事だ」

「じゃあ、()()()使()()()()()()ってことか」

「簡単に言えばそうだな。ところで、お前たちはどうしてあんなところに居て、何があってあんな悪霊に憑かれていたんだ?」

「いやいや、隊長……。アレは憑かれるレベルじゃないですって! あんなの見たことないですもん! 隊長の異能じゃなかったら、楽くん死んでましたよ!」


 今度は、あの状況の究明に、楽の話に移る。


「あー、つい最近知ったんだけど、俺の異能は『自分の身体に憑依させて、その力を操れる』らしい。だから、あの強そうな悪霊を憑依させようと思ったんだけど、なんでか思い通りに行かなかったんだよな……」

「え!? じゃあアンタ、自分から取り込んだの!?」

「そうだけど」

「馬鹿でしょ!! いや、異能力も驚きだけど、あんなの憑依させようとするとか馬鹿だよ!!」

「あんなところに地下があることも、あんな悪霊が眠っていることも驚きだったからなぁ……」

「いや、本当にコイツ馬鹿だって!!」

「うん、そう思う」


 静かに同意する愛。


「それじゃあ、明日も仕事があるから少し見学して行ってみないか? ご祈祷の素晴らしさも分かる!」

「とか言ってー、私と逸見さんがいないから人員が欲しいだけなんじゃないですかー?」

「そ、そんなことはない! こんな子供たちに戦わせたりなんかしない! ちゃんと見学させるよ! それに、明日の案件は然程強いとも聞いていないしな」


 前例である自分を踏まえてツッコむ神崎、それに対し、睦月は露骨に苦笑いを浮かべていた。


「それじゃあ明日、よろしく頼むよ」


 夕食後、二人は周辺地図と多少のお小遣いを貰い、少し散歩することになった。

 鳥居からでた瞬間、


「ぶはぁ〜!!」


 悪霊は思い切り息を溢した。


「おわっ! なんだ、起きてたのか?」

「起きてたわ! この寺院には神が祀られておる。妾の力も強いからな、楽の中にいることもあって見つかり辛いのじゃが、こうして息を止めてねばならなかったのじゃ! それも知らず、主らはゆったりとくつろぎおって……」

「いや、んなもん知ったこっちゃねーよ。それで、なんであの時助けてくんなかったんだよ。身体ん中、居させてやんねぇぞ」

「違うわ! あの悪霊は、既にあの地に踏み入った者を何人も殺しておる。そして、それらの魂、きっとあの量なら付近の浮遊霊共も喰っておったのじゃろう。既に妾を憑依してる楽が、大量の霊を憑依させようとしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃ!」

「そうだったのか……。なんか、俺は本当に知らないことばっかだなー」


 そう言いながら、限られたお小遣いを早々に自動販売機に入れ、缶コーヒーを買う。


「これ、仕事命令してたおっさんがよく飲んでたんだよ。高級な物だと思ってたけど、クソ安いんだな。つーか苦ぇし飲めたもんじゃねぇな」


 そう言うと、えへへ、と再び口に入れた。


「そういや悪霊さー、俺も適当に悪霊って呼んじゃってるけど、他の悪霊と区別つかねぇから、お前こそ名前付けるべきじゃねぇ? 前の神だった名前とか」

「神だった名は使いたくない。楽が考えろ。楽の名前も妾たちで考えてやったじゃろ」


 自分で考えたんだけど……と思いつつも、苦いコーヒーを口に運びながら唸る楽。


「じゃあ、悪魔(あくま)! 神を名乗んのが嫌なんだったら、悪霊みたいだし悪魔って呼ぶ! かっこいいしな!」

「悪魔か……。ふん、好きにするといい」


 その後、コンビニに立ち寄り、再び寺院へと戻った。

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