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異能探偵局  作者: 春木
異能祓魔院 第一章 異能開花編
16/21

(1話 楽)

 二人が施設から抜け出して三日ほど経つ。軟禁生活で酷い食事を与えられていた二人にとって、サバイバル生活など容易なものだった。施設は森林の多い山の上に建設させられており、二人は山道をひたすら下る生活で、途中で出会した動物や、草木を食べては飢えを凌いでいた。


「歩くの飽きた」


 4番が淡々と歩みを進める中、36番は突如座り込む。


「なんだよ、行けども行けども森! 森! 森! なーんも楽しいことねぇじゃんか!!」

「仕方ないでしょ、あの施設は山の上にあったんだから。自動車使わないと数日は掛かるよ。街まで降りられればきっと楽しいこともあるよ」

「はぁ〜、4番って暗ったいイメージだったけど、意外と前向きなんだな」

「そんなこともない。施設の中ではいつ死んでもいいって思ってた。でも、君といたら楽しめそうだから、もう少し楽しいって気持ちを残しておきたくなっただけ」

「ふ〜ん」


 4番の話を聞き流すように辺りを見回すと、少し離れた場所に、赤い建造物が視界に映った。


「おい! あそこに赤いの見える! 街かな!」


 すると、躊躇なく36番は走り出し、脇目も降らずに建造物まで駆け付けた。


「なんだこれ」

「これは神社だね。もう使われてないみたいだけど」

「なんだよ、街じゃねぇのかよ」


 36番は、体力も考えずに走ってきたもので、神社の真ん中でダラっと寝転がった。


「あー、街、街、街……? 早く行きてぇな〜……」


 ぼーっと空を眺めていると、使われなくなった神社ではよくあることで、浮遊霊が集まりやすい。


「なんだここ、神社って魂が集まりやすいのか。そこら中に集まってんじゃん」

「そうみたいだね。お祓いしてあげる?」

「え〜、別に恩もねぇし面倒臭ぇよ……」


 すると、黒猫がピョンと、36番の腹の上に乗る。


「あ? なんだコイツ……」

「それは猫って名前の生き物。よく人に飼われてたりするんだけど、それは野良かな?」

「いや違ぇよ……コイツ……!」


 すると、黒猫の身体から真っ黒なオーラが放たれる。


『童、恩があれば、あの霊魂たちを祓うのか?』


 その黒猫は、人間の言葉で話しかけて来た。


「あぁ? まあ……恩があれば。そうだな、今だったらこの数だし、()()()()()()()()()()()()()()()祓ってやってもいいぜ。ちょっと時間かかるけどな」

「なら交渉だ。妾の力を貸してやる。街までも一瞬で降りられるし、貴様に憑依すれば霊魂たちも即座に片付けられるだろう。妾だけの力じゃ無理なのでな」

「へぇ〜、いいじゃん。やってやるよ」


 36番は、猫から発せられる黒いオーラを手に掴むと、自らの身体に注ぎ込んだ。魂が抜かれた猫の体は、コテンと転がった。


「うわ、すげぇ……! 今まで感じたことねぇ力だ! 本当に一瞬で全部お祓いできるぜ……!!」


 そして、笑いながら一瞬にして、そこらに集まっている浮遊霊全ての成仏を完了させた。


「おい、サンキューな、お前! じゃあ次は街まで頼むぜ!」

「ちょっと待て。童、何故()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のじゃ?」

「は? 憑依……? 分かんねえけど、霊魂って()()()()()()()()()()()()()()()()()だろ?」

「普通そんな力はない。それは()()()じゃ。憑依までなら巫女などの霊感修行した者なら為せるが、童の異能はその憑依状態での『()()』じゃ」

「は? 異能力……? 支配……? なんだそれ……?」


 すると、驚愕に声を失っていた4番は、安全と見做して近寄り口を開いた。


「36番は本当に何も知らないのね。この世界には異能力ってものが存在するの。目、耳、鼻、口、そして触るってことが第五感。私たちが()()()()()()()()()()()。そして、その第六感を駆使して本来、人体では扱えないエネルギーを使う能力のことを異能って言うの」

「なんだかよく分かんねぇけど、じゃあ俺の場合、その異能ってのが、憑依させて支配することなのか?」

「この……猫……? が言うにはそうらしいわね。施設でも、手から火を出したり、風を起こしたり、多分、貴方が見てて楽しいって言ってた力、それと同じものよ」

「はぁ!? じゃあ俺は身体を石に変身させたり、手から火とか出せねぇのかよ!」

「そうね……。でも、先日の猿と言い、貴方の異能……使い用に寄っては相当凄い力よ……」

「そうじゃな。本来なら童の身体を支配して自由奔放にしてやろうと思っていたが、失敗じゃ」

「は? なんだ猫、お前、俺の身体乗っ取ろうとしてたのかよ!」

「そうじゃ。なんせ妾は、"()()" じゃからな」

「悪霊……? 霊魂に意識ある奴はいたけど、それとお前は違うのか?」

「妾は元々、数百年も前は神だったのじゃ。この神社に祀られていたが、次第に信仰は薄れ、この通りこの場所を離れられない悪霊に堕ちてしまった」

「俺の身体を奪えたら、外に出られたのか?」

「そうじゃな。地上界とより密接に繋がっているヒトの身体であれば、この外に出られる」


 36番は、ふいに檻の中の生活が頭に過っていた。そして、ニカッと笑う。


「じゃあお前、このまま俺の身体にいろよ! 俺も外に出てぇし、お前も外に出たい。な? 一緒じゃねぇか!」


 すると、悪霊はクスクスと笑い出す。


「何百年この地にいるが、童のような人間は初めてじゃ。名を名乗れ、童の口車に乗ってやる」

「俺は36番で、この女は4番」


 紹介すると、悪霊は黙り込んでしまった。


「ちゃんと名乗らんか。なんじゃ、数字だけ答えて」

「は? だって俺らに名前ねぇし。な? 4番」


「いや、私には(アイ)って名前がある。ママに付けてもらった名前なの。私の名前は4番じゃない」

「え、4番じゃなかったの……? えっと、あ、愛だな」

「で、童の名はなんと言うんじゃ?」

「いや、俺は物心着く前からあそこいたから、名前も何も覚えてねぇんだ。だから、36番しか名前がねぇ」

「それじゃと不便じゃな。妾が名前を付けてやろう」


 すると、悪霊と愛による名前討論が始まった。


「コイツは見るからに頭空っぽそうじゃから、能無し! 能無しが良いな!」

「いや、猪突猛進」

「ふーむ、確かに漢字がいいな。餓鬼なんてどうじゃ?」

「今時そんな名前の人いないよ。うーん、もやし……?」

「童、お主はなんて名前がいいんじゃ?」

「は? 別になんでもいいけど」

「名は体を表すと言うものじゃ。例えば、自分のなりたい像とかを名乗るのも良いな。妾ばかりに考えさせないで、お主も自分のことなんだから考えろ!」

「はぁ〜? お前が勝手に付けてやるとか言ったんだろ。まあでも、名は体を表す、こうなりたい、か〜。楽しくてー、楽して生きていきたいな〜」


 二人が黙りこくる中、36番はニカッと笑う。


(ラク)って名前、どうだ? 変か?」

「え、ま、まあ無くはないというか……全然不自然じゃなくて逆に驚いたけど、本当に安直ね……」

「でも、童らしいかも知れんな。改めて楽よ。どんな付き合いになるか分からんが、暫く住まわせてもらうぞ」

「おう、じゃあまずは……」


 すると、楽は身体から黒いオーラを放出させる。


「しっかり俺の身体にしがみついておけよ……!」


 そう言うと、愛を抱き抱えて跳躍し、一気に樹々を足場に街まで駆け降りた。

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