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episode8. 優しい人

「なあ、ここは酒はないのかい?」


「.......来ていきなり文句ですか」


夕暮れ時に店にやってきた情報屋は

カウンターで杖をつき愚痴を零す。



「いや、子供対象っていうのもなかなか珍しいと思ってなあ」



こういう店増えないかなーと嘆き情報屋は伸びをする姿がなんとも猫に見える。



「...」

「色々と面倒なんですよ、お酒を出す店を構えるのは」


「ふぅん......

だとしても口が寂しいなあ....」

「なあ、お前さん達もそう思わないかい?」



情報屋は後ろを向く。


そこには4人の騎士と僕の友達。


客も減る黄昏時、この光景はよく見るものになった。



「僕はお酒は飲まないので..」



苦笑するまひとくんに心の中でグッドサインを送る。



「んー……、

まあ飯美味いし、あんま考えたことないかもなあ」


「考えたら飲みたくなるので思考を放棄してます」


「......勤務に支障をきたすので」


「......好きじゃない...」


「おっと......」


面食らったような表情を一瞬見せた後、

6対1かあ...なんて笑う情報屋を心の中で見下す。



(ざまあみやがれ...)



後にはこんなに仲間がいるんだ、と笑ってやる。



(......あれ...?)



目元を抑える。



(僕..この人たちのこと...)

(懐に入れようとしてる......?)



僕は情を必要としない。


涙を流さないために。



「......」


「スイちゃん?」


「...ん?」



特別な感情は持たないはずだった。


そうやって、生きるはずだった。



「お酒とかなくても、美味しいからね」


「......うん」



救われるような気がして嫌だった。


誠の笑顔が出る気がして嫌だった。


人の優しさに、触れたくなかった。




「......」



アインさんは身分が良いのだから、きっともっといいものを食べているだろうに。


なんでそうやって、幸せそうに口に入れるのか、分からなかった。



「.......美味い」


「......」



その微笑みが、僕に向けられている気がして嫌だった。



「.........」



僕を見て欲しいのに

みんなの目に映るのは僕の瞳だけ。


僕を見て欲しいのに

輝くのはこの瞳だけ。


僕を見て欲しいのに

見て欲しくない。


嫌だ。とても、嫌だ。









__________










「......アインさんってさ….」

「人形みたいですね.......」


「......人形、」


「はい。」



ある日、スイちゃんのお店でアインさんたちが全員揃ってる前で、控えめにそう言ってみた。



「端正な顔立ちだけど、表情が一切変わらない」


「ぶはっ!

子供にも言われてんぞ、仏頂面」



バルトさんが笑って机を叩く。



「あー......確かに感情の起伏がないよな、シオン以上に」


「僕は別に起伏が無いわけじゃない」



そういわれ、シオンは不服そうに不貞腐れているように見えた。



「これで一人称”私“とかだったら俺ぶん殴ってたよ」


「やだわそれ、流石にウザったらしくなる」


「ゾッとる」



酷い言われようだなぁ...そう思いながらも、納得してしまう僕がいる。



「確かに気難しい感じだもんね、アインさん。スイちゃんもそう思う?」


「......気難しい?アインさんが?」



調理場から手を拭きながらスイちゃんがこちらに向かう。


小首を傾げて顎に手をあてた。




「......」

「どこら辺が?」



ちら、とアインさんを見てからそう言い放った。


その瞬間それはもう僕らは困惑した。



「え、スイちゃん。アインさんだよ?初めてここに来た時、スイちゃんを連れてったあのアインさんだよ」


「......うん、そのアインさんだね」


「おいおい......」


「マジかよ...」



次々に感嘆の声を洩らす騎士たちに、なんで?って解

問いたそうな顔のスイちゃん。



「え、じゃあスイちゃん、アインさんのことどう思ってるの?」



まるで少女のようにスイちゃんに問うた。



「...優しい......人...」



かな、なんてきょとんとするスイちゃんに今度こそ僕らは絶句した。



「???」


「ちょ、ちょっと待ってスイくん。

.....誰の事言ってる?」


「え?アインさん。」



まるで僕らが可笑しいように見つめられる。



「お前マジで言ってる?

コレだよ?この無表情だよ?」


「......」



アインさんも表情は変わらないけど驚いている、ように見えた。



「え?うん。だってアインさん...」

「よく笑うじゃん」


「はあ???」


「え、それまじ?え、まじ?」



そんなわけないと騎士たちは口を揃える。


そして僕はスイちゃんに尋ねた。



「.....本当にそう思うの?」


「...そう、だね......」

「なんか落ち着く匂いがするし」


「......匂い?」


「...そうだね」



例えば?と聞くと、スイちゃんは唸ってから閃いたように人差し指をたてた。



「.....あれだ、田舎町のような感じ」


「ほう…」



それは落ち着く匂いだろうな、なんて頷く。


アイン笑えよほら、なんてバルトさんが方を揺さぶっているのを見て、苦笑した。



「......そうだなあ」

「エルビス村に行った時....」


「......っ?!」


「同じようなにおい......が...」


「......え、」



瞬間、スイちゃんの首前に剣が突き出された。


シオンさんの、ツルギだ。



「.......お前は何を知っている」

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