episode7. 存在価値
「...アインさん」
青空を見上げながら、テラスに顔を出し、隣に立つ男に問いかける。
「.......なんだ」
「アインさんは、騎士やってて楽しい?」
風が透き通り、彼の金色の髪がなびく。
「...」
「俺はどうやら薄情らしいからな。
仕事に私情は持ち込まない。」
「...それも規則?」
「ああ」
「......そう...」
「…...じゃあさ、なりたかったの?騎士?」
薄情な彼がなんでこの仕事を選んだのか、知りたかった。
「......そう見えるか」
「...」
「ううん、全く。」
見えないからこそ......
「......」
「半ば強制の仕事だった。それに従ったまでだ」
「......それは、規則?」
「...いや、.....」
「家族との、約束だった」
俯いた彼はハッキリと答えた。
__________
(家族......約束......)
(僕には..無縁のものだな...)
店に1人、ふと考える。
僕がここにいる意味は、どこにあるのだろう。
生まれてきてから、分からないことだらけだ。
目元を抑える。
この瞳が消えたら。
周りの人達も離れていくのだろうか。
(絶対、涙は流さない)
「……」
(ごめんね、『僕』。)
『僕の涙で、花を咲かせたいんだ』
(僕の存在価値は、この瞳にしかないんだ)
(…...「呪いの子」なんて、物騒な名前だよなあ...)
(僕にとって、1番欲しいものなのに)
エメラルドが、嘲笑うように細まった。
__________
「あーやだやだ。
王様は怒りっぽいし、王子様は怖いし」
「それ本人に言ってみろ、即死罪だぞ」
「えー?
だってさあ...折角聖風士になったのに、やるこったあ伽噺の調査だの、王子の機嫌取りだぜ?」
「......御伽噺じゃない。」
「……」
「否定すんのそこかよ......
..はいはい、分かってるって。
実際エメラルドも見つかったし…..」
「……」
「……」
幼馴染の2人の騎士の間に沈黙が走る。
「なあ、シオン」
「......本当に、これでいいのか」
「.......なんで」
「...俺の為なのか、自分の為なのかは知らないけど、お前まで騎士にならなくても」
紫髪の男は軽く俯いた。
「僕は、」
「......」
「僕は.....」
「"エメラルドを許さない”。
...ただそれだけだ。」
紫の騎士が握る写真には黄金に輝く瞳が
3つあった。
__________
「......へえ、美味そうだな」
「でしょでしよ~
柔らかくて美味しいって評判なんですよ」
太陽がまだ傾いてない頃、僕は両親の手伝いをしていた。
そんな時、商店街から少し外れた大通りにある店に緑の彼が現れた。
「んじゃ、これ1個ちょーだい」
「はぁい」
テゼさんが指したパンを袋に詰める。
お代を受け取り、パンを差し出す。
「......首になんか掛けてる?」
「…ん?
あ、これですか、ロケットペンダントです、昔からつけてて......」
「って、あー!!」
チェーンの部分を持ち上げて話しかけていると
気がついたらロケットペンダントはテゼさんの手元にあった。
「......ふぅん」
「いつの間に......」
悔しそうにする僕を横目で僕のペンダントをいじるテゼさんがいた。
「これ、開かないの」
「あ、開かないです。なんかコツがいるみたいで......あと返してください」
「ん、」
テゼさんは素っ気なくペンダントを放る。
「手癖が悪いんですか...」
「はは、隙が多いんだよ、レナト。」
「......スイとは大違いだな」
「……、」
(スイちゃんと比べるところじゃないでしょ)
「じゃ、帰るわ」
手を挙げ店を出て行こうとするテゼさんを僕は呼び止める。
「テゼさん、」
「、ん?」
「……」
「テゼさんのペンダントも、素敵ですね」
はは、皮肉?なんて笑うテゼさんの左胸には
緑のペンダントが輝いていた。
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『ねえ、ねえ』
『ねえ、スイ』
「なんだい、アノニム」
『なんだか不思議な人たちが来たみたいだね』
「......そうだね」
『僕が君に託した願い、覚えているかい?』
「...“僕の涙で花を咲かす”......」
『叶えて、くれるかい?』
「......僕は、涙を流す気はないんだ。」
「僕は僕であって、君ではないんだ。」
『でも、君は僕だろう?』
「いいや、
君は愛する人が出来て、人に慕われて、人の為に自己犠牲をものともしない」
「対して僕は、空っぽの宝石だ」
「過去を生きた君と、今を生きる僕に、どれ程の差がある。」
「君が僕に託したこの瞳と、1つの願い。」
「情が無い僕には、守れるものが無い。」
『君は随分と、悲しい事を言うんだね』