episode10.孤独
「.......トパーズ...」
「…僕の親は殺された。」
「お前と同じ、エメラルドに。」
え、と微かに誰かの声がした。
「事故に見せかけて、殺されたんだ。
崖から僕ごと突き落とされた。」
「…上を見たら、エメラルドと目が合った」
「僕はあいつを許さない」
「...」
「復讐...か.......」
シオンさんはぼくを睨む。
なのに、どこか僕を見ていないような気がして。
「.......それだけじゃないんだろ。」
テゼさんが口を開く。
「......」
「…僕はあの後、あの村で孤児になった」
「そこで出会ったのがバルトだ。」
バルトさんを見つめる。
蜂蜜色の瞳は、鋭く、どこか寂しそうだった。
「孤児たちを集めた施設があった。
..僕の片目と同じバルトに、惹かれた」
「......」
「…..僕らがどれだけ変だろうが、不気味だろうが、どうだってよかった。」
こいつがいたから、と何かを堪える瞳でバルトさんの方を見た。
「......でも、お前らのせいなんだ」
地の底を這うような、低い声が聞こえた。
「宝石狩りを知ってるか。」
「......うん」
「......」
「17年前、宝石持ちが各地で製われた。
最初はトパーズだ。
.....バルトも、例外じゃない。」
『シオン...っ、シオン、っ、!』
「あんな小さな体引きずって、目玉取り出そうとして.....今でも昨日のことのように思い出すよ。」
「バルトは泣いて嫌がった。そしたら、あいつは零れた涙を拾って、満足そうに帰っていったんだ」
悔しそうに、苦しそうに、目の前の顔が歪む。
「......君の親を殺したエメラルドと、バルトさんの目を奪おうとしたエメラルドは関係あるの...」
「......」
「違う、顔だった......」
「、じゃあ....」
「でもっ!!」
「…...関係ないと、思えない。」
思いたくない...と俯くゆシオンさん。
何かに縋るような瞳は、不安を映していた。
彼の瞳には僕の瞳しか捉えていなかった。
「…なぜそんなに堂々としていられるんだと、お前を見て思った。エメラルドだからなのか、と思えば思うほど、嫌悪感は増した。」
「お前はそんなに堂々と歩ける中、他の宝石持ちはびくびくして生きなければいけないのか!」
「お前らのせいでこうなったのに...!怖い目にあわされる恐怖に怯え、縮こまって生きなければいけない。
ただでさえ...
ただでさえ...、つ」
「呪いの子には、価値がないのに...っ!!」
......え、
「待て、シオン」
僕が目を見開くと同時。
アインさんが声をかけた。
「......宝石狩りとは、なんだ」
「......」
「......」
「......っ、」
「.........」
僕らが押し黙る中、テゼさんが再び口を開く。
「…さっきシオンが言った通り、17年前から2年ほど、起きた事件だ。」
「宝石持ちが殆ど見つからなかったのは...それが原因なのか......
待て、そんな記録..どこにもないぞ。」
「...」
「…主に、裏の人間...閣市などで広まった噂だ。
お前みたいな育ちの良い奴らは知らないだろうな」
「…...噂というか、本当の話だが」
「......」
「…お前は、知っているのか...」
「.........」
そう問われたテゼさんは何も答えない。
「......そうだよ、っ」
「だから、僕はお前を...っお前らを許さない...!」
「お前が16の少年なんぞ知ったことか。
お前の親だってエメラルドだろう。それごと呪ってやる....」
「...や、スイの親は......」
『お前の両親は、どちらともサファイアだった』
「......僕に親はいない。」
一際、シオンさんは眉をめる。
いつの間にか彼が持っている剣は、かたかたと震えている。
「...お前が孤高だろうと関係ない、!」
「お前らだけは許さない...っ、お前だけは...、!
お前だけは...」
下唇を噛み、肩を震わすシオンさん。
「……」
ああ
この人の瞳には、一体何が映っているのだろう。
ずっと、何を言っているのか分からなかった。
シオンさんの心の視線の先にあるのは僕じゃない。
弱く、胎く、あどけない
幼く、小さい
自分だったのだろう。
「シオンさん......」
「貴方は、何を恨んでるの。
何が、見えているの。」
「何を考えて、そんな表情をするの」
紫の瞳と、金色に輝く瞳。
両方から
透明の雫が零れた。