episode. 1000年前の僕へ。
「はーい、グラタンね〜」
こと、と皿をテーブルに置く。
きゃっきゃと喜ぶ子供が美味しそうに口に頬張るところを見て、口元が綻んだ。
「......ふぅ、」
名はスイ。
もうすぐ16になる男だ。
この小さな村で飯屋を営んでいる。
自分もまだまだ子供だが、作る飯は美味いと評判だし、効率よく仕事はできる。
(稼ぎも申し分なし...と)
腰に手をあて、店内を見渡す。
まだ昼前だが、既に店内は半数の席が埋まっている。
自分もこの状況には満足しているのだ。
すると、勢いよく扉が開きからんからん、とベルが鳴った。
「スイちゃーーん!手伝いに来たよ〜!」
そう言って店内に足を進めるのは、友達のレナトくんだ。
「あ、レナくん......!
店前の掃除頼める?
いつもありがとうねぇ」
「任せて!」
そう店先に出るレナトくんを見送る。
本当にいい子なのだ。
店を始めた去年、初めて出会った。
パン屋さんの息子さんで、僕の店のサンドイッチなども彼のパン屋さんのものを使っている。
(美味しいんだよなあ...)
フライパンで野菜を炒めながらそう思う。
すると、カウンターの席にいた5歳くらいの少年に話しかけられた。
「ねぇねぇ、なんでてんちょうのひとみはみどりなの?」
へんだねぇ、なんて言う男の子。
こら、と隣のお母さんが小さく叱る。
「……」
男の子は首をかしげ、僕を見つめる。
「……」
「なんで…だろうね」
僕はそう微笑んで返す。
お母さんに謝られたけれど、大丈夫だと首を振る。
(.........?)
掌で片目を後う。
熱を持った掌が目元に伝わった。
ふと、外が騒がしくなっていることに気がついた。
(なんだ......?)
調理場から出ようとすると、同時に店のドアが開いた。
「あ、ちょ、待ってください…」
入ってきた”人達"の後ろからレナトくんが出てきて僕の方に駆けてきた。
「スイちゃん......あの...」
「この人たち、誰?」
じ、と見つめる。
どう見たって貴族、王族。国の紋章が腕にある。
そして腰に剣があり、全体的に白い服装。
睨むようにその"4人"を見ると、1人が口を開いた。
「ここに16になる少年がいると聞いたが、お前か」
レナくんは違う、僕のひとつ下の子だ。
ならば僕だと、黙って頷く。
「そうか......」
その1人...金髪の彼は顎に手をあてる。
「ならば単刀直入に聞こう」
「お前は、宝石持ちか?」
赤い瞳に、僕の瞳が映る。
「……」
輝きを放つエメラルドが、その目には映っていた。