3話①「こんな世界さっさと滅べばいい」
第3話①
「ルーカディア騎士団長。オーガ族の街に、動きがありました。魔王軍が本格的に攻めてきたようです」
「ふむ……ついに、か」
「どうやら、オーガ族に裏切り者がいるようです。魔導書を盗まれたそうで、街の門が破壊されています。今、他の騎士たちが討伐に向かっています」
「なるほど……では、我々は、引き続き勇者様を見つけなくてはな」
「はい。……あの、勇者様とは、どのようにして探しておられるのですか?私、最近第1騎士隊に配属された者で、お恥ずかしながら、あまり詳しく知らないのです」
「それは、この国に危険が迫った時にわかるものだ。そういう言い伝えでな。創造神リデスティア様が、お告げになる」
「はあ……でしたら、今の段階では、探しようが無いのでは?」
「お告げになる前に見つけ出す。この国に危険に迫ってからでは遅い。何か、素質があるはずだ。なんか、勇者属性、的な?」
「はあ……」
「あー。とにかく、今は我々がすべきことをする。魔族どもを駆逐し、威嚇し、この国を守る。それが我々の使命だ」
「はい!わかりました!失礼します!」
兵士は、敬礼をして部屋を出ていった。騎士団長は、窓の外を見る。そこには、美しい景色が広がっていた。
「勇者様……どうかご無事でいて下さい……!」
騎士団長は、両手を組んで膝をつき、天へと祈りを捧げた。
◆◇◆◇
「はぁ〜♡まったく、ヒューマン族は、とーっても可愛いですねぇ〜♡」
どこもかしこも黒で埋め尽くされた空間の中、玉座に座っている黒い影が呟いた。その手には、水晶のようなものが握られている。
そこに映るのはヒューマン族の町の何気ない日常。
影は愛おしそうにそれを見つめていた。
「それで?もうオーガ族に手をだしたんですかぁ?早いですねえ」
黒い影は、玉座の下で跪く2つの人影を見下ろして言った。そして、巻きツノと細長い槍のようなシッポを揺らす、細身の男がニコニコ笑う。
「はい。僕がやったんですよ?ちょーっと僕が色仕掛けしただけで!たまたま声をかけた門番のオーガ族お兄さんが男色っぽくてぇ、簡単に騙されちゃって。あはは!それで、魔導書も、盗んじゃいました!」
「あら〜。貴方にしては上出来じゃないですか。オーガ族も、あなたみたいなのにも欲情するんですねぇ。アイツらは私の苦手な脳筋族だと思ってたから、正直貴方はミンチになって帰ってくると思いました。ふふふ。それで、魔導書は?」
「あっ、えっと、それがですねぇ……」
男は、両手の人差し指同士をツンツンさせながら、照れ臭そうに話す。
「その……帰り際にかわいいヒューマン族の子どもがいたので、食べようとしたら、魔導書スられちゃってぇ……」
「……は?」
「うぅ……。だから、食べられなかったんですよぉ。甘い匂いがする、ヒューマン族……可愛い顔で見とれて油断してたら、魔導書持って逃げられて……」
「……はあぁあ!???」
黒い影は声を荒らげだすと、玉座の横にあった燭台を男に投げつけた。すると、男の心臓辺りにグサリと刺さる。
「あァッッッ!!♡すみませぇんッ♡」
「全く、性欲とは愚かです。不潔!不潔!不潔!この、穴しか役に立たないオス夢魔!だと思えば頭にも穴が空いてるなんて最低!最低!最低!最低!」
「すみませんッ♡すみませんッ♡穴しかなくてすみませんッ♡」
「……それで?ドラゴンちゃんはこのバカが魔導書を盗まれた後、何していたんですかぁ?」
黒い影は、男の隣で跪く女に声をかける。女の方も巻きツノであったが、太い爬虫類の尻尾を生やしている。
「は、はいっ。速攻で追いかけました……!でっ、でも……逃がしちゃいました……!追いつきそうではあったんです!でも、でも、突然空から光が現れてですね、いつの間にか知らない場所にワープさせられてしまったのです!申し訳ございません!」
女の方は緊張感の無い甘い声であったが、真剣である。震えながらも、必死に謝罪をした。
「はあ……。まあ貴方は頑張ったのでいいでしょう。戦犯はそこの淫魔ですし。………ふぅん。なら、私達も、そろそろヒューマン族に手を出しましょうかぁ……モンスター共を蹂躙した後に可愛い可愛いヒューマン族を飼う予定でしたが……今、ヒューマン族に魔導書が渡ったとなればぁ……ふふ、ふふふふふふ」
黒い影は、甲高い不気味な笑いを響かせた。
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