食べられるシャボン玉
氷枕の水音を聞いて明かした週末。
聞き飽きるほど聞いてもまだ水音は鳴り止んでくれなくて、重い頭にこだまし続いたまんまの月曜。目が冴えて全然寝られないし、かといって何にも手がつかない。体育の授業を逃したこととか、数学の小テストをやらなくてもよくなったこととかも全部、せめてこの感情のないような水音が搔き消してくれればいいのにって思いながら。でもやっぱりそれはどれも一緒に溶け合わないで、ずっと意固地に頭のなかに残り続けた。
次に目を開いたときは、既に空が仄かにオレンジ色に変わっていくところだった。開けっ放しのカーテンの隙間からオレンジが光線になって入り込んで、部屋の白い壁を断片的に色付けていた。
働かない頭をもってぼーっと呆けていると、オレンジ色の白壁に少し大きめのシャボン玉の影が映り込んでくるのが見えた。ユウからだ。今日初めてベッドから降りて、窓を開ける。むくんでろくに動かない手を扇いでシャボン玉を部屋の真ん中にそっと誘導して、窓を閉めた。
机の上から爪楊枝を一本取り出し、少し勢いをつけてシャボン玉を突っつく。パッと割れたシャボン玉のなかから、ユウの吹き込んだ言葉が教室の喧騒と一緒に音になって溢れ出し、部屋の過半を一気に占めた。
「やっほーげんきー?まったく、お前だけ実質三連休にしやがって……。今日の小テストまじキツかったしほんと最悪。お前だけやってねーのまじ許さねーわー。……でもまあとりあえずだけど明日までだからな、日本史のレポート。奥田だからまじ気を付けた方がいいぜー。前課題忘れの奴にガチでキレまくったことあったもんな。お前が怒られてるの見てみたい気もするけど……。まあせいぜい頑張るんだな。……んじゃ明日なー。」
ほんと嵐みたいなやつだ。あいつが無駄に大きい声でまくしたてるもんだから、言葉が終わったときの沈黙が余計に目立って仕方ない。第一、明日学校に行けるなんて一言も言ってないのに。
「うっせーなー。わかってるわ。」
肌寒い縁側にひとり座って、小さなシャボン玉をひとつ飛ばした。ちゃんと届いてくれるだろうか。屋根まで飛んで、壊れて消えるのは勘弁してほしい。
上着を肩から脱ぎながら部屋に戻る。なんだか少しだけ楽になったような気がする。シャボン玉に風邪菌も一緒に吹き込んだからかもしれない。痛いの痛いの飛んでいけじゃないけど。そのうちあいつのところに届くだろう。ざまー見やがれ。
ベッドにゆっくりと腰かけて、氷枕に触れる。
氷はもうなくなっていた。
どうも、瑪瑙です。
このお話は惰性でだらだらとかいただけのものです。
色々と綻びがあるかもしれませんが、満足していただけたら嬉しいです。




