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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

貯水タンク

作者: 夕

今から10年以上前のこと、私は当時勤めていた会社の近くのアパートに引っ越しました。

そのアパートは半ば会社の寮のようになっていて、家賃の半分を会社が負担してくれるというのです。

築30年、白い塗装が施されたそのアパートは、A棟とB棟に分かれていて、A棟が道路側、駐車場を挟んでB棟が奥にありました。

それぞれの棟は3階建てで、一階ごとに5部屋、計15部屋あります。

私が入居したのはA棟一階の道路側から向かって一番右、105号室でした。


入居して数か月経ったころ、私はある事象に悩まされていました。

それは駐車場の端に設置された貯水タンクに関連する事象でした。

その貯水タンクは一時間に一回、5分間ほど大きな音を発生させるのですが、その音は深夜だろうと早朝だろうと関係がありません。文字通り一時間に一回なのです。

入居してしばらくはその音自体に悩まされましたが、それは次第に慣れました。

ただ、どうしても慣れないのが、深夜2時に鳴り響く別の音です。

普段、貯水タンクから発生する音は低音で『ブオー』という音なのですが、その深夜2時に発生する音は『ドンッ! 』という衝撃音でした。

それは何度経験してもベッドから飛び起きるほどの衝撃音でした。


寝不足に陥っていた私は、同じアパートに住む会社の先輩に相談してみました。

『衝撃音』という言葉を聞くと、先輩の態度が少し変わったような気がしました。

「ところで君は何号室なの?」

そう聞かれて、105号室ですと答えると、先輩はうんうんと頷いてこう言いました。

「1時50分くらいからB棟の3階の手すりを見てみなよ。音の正体が分かるよ」

なんですかそれ、と聞いても先輩は教えてくれませんでした。


音の正体が分かれば、なんらかの対処ができるかもしれないと思った私は、先輩に言われたとおり深夜1時50分にベランダから向かい側のB棟の3階を見上げました。

A棟のベランダは道路と反対側にあり、そこから貯水タンクを挟んで建つB棟を見ると、玄関ドアが並んでいるのが見えます。

1階から3階を見上げると、玄関ドアは見えず、黄色い手すりだけが見えました。

月明かりに照らされた黄色い手すりをじっと見ていると、細長くて丸い影がすーっと横から現れました。

その影は夜の闇よりもさらに黒い漆黒で、そこだけは月明かりが当たっていないのではないかと思えるほどでした。

影はちょうど貯水タンクの上あたり、304号室と305号室の間くらいにくると、そこでしばらく動きを止めました。

その様子を見ていた私は、自分が金縛りにかかっていることに気が付きました。

それから何分経ったか分かりませんが、影はゆっくりと手すりに寄りかかるようにして、くの字に曲がっていきます。

そして、次第に手すりに寄りかかっている部分が長くなっていったかと思うと、影は音もなく落下しました。

私は金縛りにかかりながらも、目でその影を追いましたが、それは貯水タンクに落ちる手前で見えなくなりました。


ドンッ!


貯水タンクから衝撃音が鳴り、ブオーという鈍い低音が響きました。



数日後、先輩と顔を合わせた際に、私が目撃した影の話をしました。

先輩の話によると、深夜2時の衝撃音は、私以外の住人には聞こえていないそうです。

なぜその音の存在を先輩が知っているのかと聞くと、かつて先輩も105号室に住んでいたからだそうです。

そして、当時の先輩から聞いて、私と同様に影が落下するのを見たのだと……

「詳しくは誰も知らないんだが……」と先輩は前置きして話し始めました。


それは以下のような話でした。

三十年前、このアパートが建ってすぐの頃に、飛び降り自殺があった。

飛び降りたのはアパートの住人ではなかった。

なぜそこから飛び降りたのは不明。

当時そこには貯水タンクはなく、アスファルトに頭から落ちて即死だった。

それから数年経って、地下にあった貯水タンクが壊れたのを機に、そこに貯水タンクが出来た。

先輩の憶測によると、三十年前の飛び降り自殺の際に、105号室の住人がそれを目撃したのではないか? とのことでしたが、真相は分かりません。


私は数年後に会社を辞めました。

先日、調べるとそのアパートは取り壊され、今は大きな駐車場になっていました。

今も深夜2時になると音が聞こえるのでしょうか?


友人や知人、自身が経験した実話を元に、極々短い小説を書いています。


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