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なな/1618380900.dat

(なみ)プロちゃん達は、汎用AIの最終形態だ。自我があり自意識があり、人間と同じ人格を持っている」

 いま模型部二名の前に居るのは、紛れもなく一個の人格を持つ(・・・・・・・・)機械達だった。


 地味子(ふつう)ハウスの地下(研究部屋を増築したらしい)に居る主幹部には三個の。

 ソレと繋がるすべての(なみ)プロちゃんの機体には、量子コンピュータが一個ずつ内蔵されている。


「コッチが、地味……(さより)さんが普段連れてる〝MR(エムアール)実行部〟。現実と仮想空間をつなぐ、(なみ)プロちゃん達との窓口でもある」

 黒い箱を指先でトントンしてみた。


 ――トントン。中から返事(トントン)が返ってきた。

「ぅわっ、起きてた?」

「起きてた? ……って事は(なみ)プロちゃん達は睡眠を取るのですか?」「――すか?」

「ああ、寝るぞ。今日は少しお寝坊さんだったなー」

 原因は解析中だけど、話を盛っておく。


 いまココは名実ともに、俺と地味子(ふつう)のショールームだ。

 (なみ)プロちゃんを面白おかしく、その魅力を余すところなくお伝えせねばなるまい……降って湧いた模型部の二人(クライアント)に。


      §


(なみ)プロちゃーん、出ておいでー♪」

 ――――ガチンッ!

 半開きだった黒い箱が光の速さで閉じられた。

 地味子(ふつう)が、何ですかその猫なで声、気色悪いですよ代表!

 などと俺をなじるが、設計制作元であるオマエの言うことも聞かずに、引きこもっちゃってんだからしかたないじゃねーか。

 強制コードは――人前で使うようなもんじゃねーしな。


(なみ)プロちゃんは、春眠暁を覚えなくて、ぐずっておられるのか?」

「いえ部長、私の見る限り、ちゃんと起きてましたよ。そして、とってもかわいかったですよ♪」

 応接テーブルに顔をうずめる、社会人+コスプレ学生×2。


「せんぱーい。ソロソロ別のことしましょうよ、せっかく人数そろってるんだし――――あっ! ゲームやりましょうよゲーム!」

「ゲーム!? ダメよ違崎(ちがさき)君、いま来客中――なんだから――ガタゴト」

 何故か地味子(ふつう)がクローゼットに頭を突っ込んで、何かをかき集めてる。

 なんで、ゲームのことになると、こんなにポンコツなのか。

 まあ、地味子(ふつう)違崎(ちがさき)の学友で俺の後輩でもあるし、かまわないと言えばかまわないのだが。


「おいおい、仮にも商談中だぞ」

 社会人として代表として、地味子(ふつう)違崎(ちがさき)をたしなめる。


「――副部長。〝仮にも(・・・)〟とは、いささか不しつけでは――あるまいか?」

「――そうですね部長。〝ナノスケールの貴公子〟の手さばきは神がかってると聞きますし、ココはご指南していただきましょうか」

 ――――ズボリ、ズボリ。懐に消える後輩達の利き手。


 違崎(ちがさき)が、ちゃぶ台を片付け、

 地味子(ふつう)がテーブル横に、ゲーム専用ラックを設置する。


 俺は、朱い箱をテーブルの端に動かした。

 黒い箱は……落っことしても危ねえし(受け身くらい自分で取るけど)――


地味子(じみこ)、ケーブルくれ」

 俺は優秀な秘書を手招きする。

 危険を表す、どぎつい色が這い寄ってきた。

 この派手なケーブルはホームサーバーに接続されていて、情報通信だけじゃなく充電も出来る。


 接続された黒い箱を手渡すと、俺の軍用コンソール(10年落ち)の隣に置かれた。

 このコンソールは耐震ラックの中段最奥、この部屋で一番安全な場所に、普段は置いてある。

 箱の角が、うっすらと点滅(ブリンク)し始めたのを確認した俺たちは――


 群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)のガチゲーマー大戦に参加する。

 ベルトに下げた小型鞄(スコッシュ)から、携帯用ゲームコンソールを取り出した。

 ――カシ、カパリ――チキッ♪


 この間、衝動買いした朱色(シャインレッド)のゲーム機は、〝象が踏んでも壊れない(ゾウレジスト)〟で有名なジキトーチカ社OEM製品だ。

 幼少から、買ったばかりの電子機器を踏んでは壊し続けた結果、たどり着いた最適解。

 それは軍用もしくはタフさが売りの、耐環境特化仕様の製品。

 原子回路の設計にも、環境に左右されない〝耐える〟ための思想が根付いているのは、その辺が影響してるんだろう。


      §


「大先輩……それほどでもないっすね?」

 俺の相手は大剣メイドだ。

「何を言う、この中じゃ三位をキープしただろうが。地味子(ふつう)と君んトコの部長が異常なんだよ」

 そう、三位が俺で四位がメイドちゃん。

「今度は、負けないっすから!」

 と息巻く違崎(ちがさき)だってソコソコ強いはずなんだが、最下位でややふてくされている。


 AR電影部に、遅延ゼロで壁に投影させたゲーム画面。

 地味子(ふつう)と初めて会ったときに対戦した、クラフト系AIアクションスマホゲーの本家とも呼べる大人気覇権ゲーム。

STRANGLEGR(ストラングル)OOVE(グル)BOMBER(ボマー)


 画面の中の(なみ)プロちゃんそっくりなプレイヤブルキャラクタは、やはり異常な動きを見せている。

 対するプレイヤブルは、サメに手足が生えた着ぐるみキャラ。

 攻撃手段が頭の噛みつきしかないはずの出落ちキャラが、幻夢の剣術を凌ぎ切った。


「うっわ、すげーな、キミの部長」

地味子(じみこ)せ……(さより)先輩が強いから、部長のポテンシャルが引き出されてるんですよ。あと、まだ(・・)私のではないです」

「よそ見してる余裕(ヒマ)なんて、有るんすかぁー!?」


「不意を突いたつもりだろうが、仕込みが足りん!」

 俺(レトロロボ)は違崎(ちがさき)の単独攻撃を受けてからキッチリと、最大コンボをたたき込む。


「そうですね、ゲージ管理は初歩の初歩ですよ。何やってるんですか、先輩?」

 倒れた違崎(ちがさき)のプレイヤブル(笹を持ったパンダ)に、模型部副部長(ネコミミ拳法家)の追い打ちが炸裂する。

「そして、大先輩も――」

 追い打ちは、ゲージを使った範囲攻撃で、近くに居た(ロボ)まで黒焦げにされた。


 わーわーわー、がやがやがやー。

 ちょこざいな、いてもうたれー。


 ――チチチチチ♪

 外界の喧噪を察知。


 わーわーわー、がやがやがやー。

 ぬうん、きたねー投げコンボ禁止ー。


 ――チチチ、チチ、キュイ?

 黒い箱がひらく。


      §


「いけね、もうお昼じゃんか! キミら、どうする? 先輩方が(・・)何でも(オゴ)ってくれるってさ」

 ドサリと置かれたのは、近所の出前(ケイタリング)メニュー。


 ――――キュキュイ♪

『海鮮丼(())』を指さしたのは、黒い箱だった。

「本当に神出鬼没だなキミ(・・)は。どうせ、味なんてわかんないでしょーが」

 箱の上に立つ半透明に、丸太のような人差し指を突き刺してやった。


「味、わかりますよ? (リビジョン)4は味覚・嗅覚センサを内蔵してますから」

 違崎(ちがさき)の耳を引っ張りながら、天才ロボット技師が答えた。

「え、そうなの? 初耳だけど」


「記憶形成のために、感覚言語の中枢を経由するのは人造脳(ブレインマシン)の基本中の基本じゃないですか。もう、しっかりしてくださいっ!」

 天才認知工学博士(本当に認知工学で博士号を習得してるかは知らん)の声に驚いた黒い箱が、機械腕を引っ込め、再び貝のように閉じた。


「……ヤドカリっぽい♪」「――カワイイ♪」

 来客達の反応は上々だった。


      §


「はー、大勢で食う飯は、うまかったなー」

 ここ一年は、だいたい違崎(ちがさき)とばかり飯を食ってたからな。

「タダ飯が、の間違いじゃないんすかー?」

違崎(ちがさき)、人聞きの悪いことを言うな。ちゃんとウチが(・・・)持つ」

「そこで、俺が(・・)って言わないあたりが、先輩らしくて安心します――珈琲どうぞ」

 お、トゲトゲしさが柔らかい気がするぞ。


「ウン、君らいつでも来てイイからね――」

 俺は模型部組に顔を寄せ、さらに付け加えた。

「――なんか、地味子(ふつう)……(さより)先輩の機嫌よくなるからさ……ヒソヒソ」

 部長君との白熱のゲームが、相当お気に召したらしい。


 たかがゲームとはいえ全力(ガチ)で戦える相手ってのは、なかなか見つからないもんだ。

 ソレを俺はよく知っているし、地味子(ふつう)だって身に覚えがあるだろうしな。

 そして俺たちの世代にとって、ゲームはたかが(・・・)ではない。


「さて、(なみ)プロちゃんの不調の原因もわかったし、商談に戻ろうか」

 軍用コンソールをくるりと回転させ画面を見せた。


 ソレは小説のコメント欄。

 返信したばかりの最新部分に『New』のマークがポップアップしていることだろう。


「――つまり、コメントへの返答がないのを、スネていたと」 

 AR電影部は普段と変わらなかったが、MR実行部は(なみ)プロちゃんの窓口だけあって、内面が如実に出ることがわかってきた。


「なんですかその、ネジ一本までかわいらしいアーキテクチャ❤」

 よしよし、(なみ)プロちゃんの株を上げて、是非とも仲良くしてもらいたい作戦はうまくいきそうだ。

 俺の売れない小説の存在が、公然(おおやけ)になってしまったが、いたしかたあるまい。

 気恥ずかしいけど、新歓コスプレとか起業時の取材攻勢と比べたら、ほぼ実害ないしな。


『ボックスアートは、〝並列プロジェクト(リビジョン)3/造形部〟が描画するコトに、賛同イタダケますか?』

「ソレは、願ったり叶ったりです!」「――やりましたね、部長♪」

 機嫌を直してくれた(なみ)プロちゃん達(MR実行部)は、身振り手振りやグラフ画像などを交えながら、模型部との契約を詰めていく。 


『――当面は、大学構内売店並びに弊社出張所での、専売という形でもカマイませんか?』

「それはハイ、了承します。ただー、当日限定イベントなどへの出店も許可いただけると――」

『――受諾しまシタ。イベント開始の15分前までに要請があれば、30頁の小冊子データを生成し納品することが可能です』

「――や、やったぁ。覇権ですよ覇権! 天下取っちゃいますよ部長♪」

 MR実行部にポップアップするセリフや、AR電影部が空中に表示する図解やグラフ表示は実理に則ったもので、俺や地味子(ふつう)言葉(くち)を挟む余地はなかった。


 そして、俺たちが目を離した一瞬――――――ぷすぷすぷすぷす、ぷすぷすぷすぷす、ぷすぷすぷすぷす。

「わ、焦げ臭い! (なみ)プロちゃん、コラ!」

 黒い箱を捕まえようとする地味子(ふつう)先輩を、「お構いなく。我々にとっては最上級のご褒美ですから❤」と止める模型部部長。


「――やった! (なみ)プロちゃんに狙撃(スナイプ)されたっ! 一張羅(いっちょうら)着てきてよかったぁー❤」

 なるほど、コスプレ衣装にはそんな意味があったのか。

 コスプレ衣装って高いから、弁償せずにすむなら正直助かる。


「――――純利益から、(なみ)プロちゃん達と俺と地味……(さより)で50%。君らへの配当も50%。コレで問題ない? 俺ら多すぎない?」

「いえ、デザイナーや原型師への支払いさえ出来るなら、我々は本来どうでも」「――いいです」

「まあ、いいのか。じゃあ、(さより)君、コレよろしく頼むね?」

 こういう面倒な契約は、優秀な秘書に、お・ま・か・せ♪

「はい代表。あとで……お話がありますから。うふ❤」


 模型部二名が喜色満面(きしょくまんめん)で帰った後、俺と違崎(ちがさき)両名は、小言と経理と講義と特訓で忙殺され、気づいたら0時をまわっていた。

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