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並(なみ)プロちゃんとわたボコる、原子回路設計(QCD)アライアンス  作者: スサノワ
くえすと

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13/27

じゅうさん/1621879200.dat

 現在、(なみ)プロちゃんシリーズには8個の量子ノードが存在している。

 それぞれが有する特化した物理機能は、〝人造脳(ブレインマシン)〟構成上の重要な因子(ファクター)をになっている。


 シリーズ全てに我が社の客員である(さより)ふつう嬢の、たぐいまれなるプログラミング技術が投入された結果、その脳構造の精度はとても高く、一個の人格をもつかどうかのテストにも合格済みだ。


 つまり、まばらな歩行者を華麗にスラロームする〝自走式電動カート〟は、あきらかに自発的に(・・・・)――逃亡を図ったのだ。

 ――――キョキョキョキョッ♪

 横から飛び出してきたピザ屋の〝電動バイク(デリバリー)〟を、華麗なドリフトで回避する。

 (なみ)プロちゃんの自動走行(うんてん)プログラムの出来(しあがり)は上々だった。


 地味子(ふつう)の個人企業としての全て。プログラムと人造脳に関する技術ノウハウ。

 そのウソみたいな規格外性能の基軸となるのは、俺の人造原子模型型量子コンピュータ。


 業務提携(おれたち)の全てがギッシリと詰まった〝並列プロジェクト一式(・・)〟が――――30メートルくらい先の曲がり角を曲がって、視界から消え去ろうとしていた。


 ――――――――キュルロラララッ♪

 地味子(ふつう)が最適化した自走式電動カートの足回り性能は相当高く、ここに来るまでに体力を使い果たした俺と地味子(ふつう)には到底追いつけない。


(なみ)プロちゃん! 緊急停止コード――――」

 俺はバックドアを使う!

 今日は晴れの日だから無理強いをしたくないってのは、人命や(なみ)プロちゃんシリーズに危害が及ばない範囲の話だ。


「ヴォッ♪ 本日開店、大回転ぇーん♪ アナタの町の――」

 突然、街頭スピーカーからのCMソングが大音量になった。


「〝ボスケテISO13850〟――!」

 緊急停止コード(バックドア)は機能せず――――ヴロロロォォォォーーッ!

 自走式電動カート(なみプロちゃん)は、俺たちの視界(まえ)から消えた。


「きゃーきゃーきゃーっ!」

 いつも冷静な地味子(ふつう)が取り乱してる。

 あの業務締結(アライアンス)号泣事件、以来の取り乱しようだ。


「ふつう先輩! 乗ってください!」

 台車に乗って違崎(ちがさき)に押されてた大剣使いが、飛び降りた。

 地味子(ふつう)の腕をつかんで半回転(クルリ)


 台車に乗せられた天才ロボット工学博士が加速していく。

 ぜぇはぁ――――それイイナ、俺も乗せてくれっ!

 ここ一年、ジムにも通ってない俺が、若い連中について行けるはずもなく。


「せんぱーい、どうかご無事でー」

 ぜぇはぁ――――ハンカチを振るな。

 (なみ)プロちゃん一式に続いて、違崎(ちがさき)地味子(ふつう)コンピが視界から消えた。


 俺は息を整え、遮光ゴーグルを掛け、輝度最大に(みやすく)した。

 台車組と連絡するなら、使い慣れたコイツが手っ取り早い――あれ?。


「どうしました? 大先輩も急がないと!」

 大剣使いが、立ち止まった俺の袖を引っ張る。


「ここんとこ(なみ)プロちゃんをランチャー代わりに使ってたから、通信アプリが自動で立ち上がらなくて一瞬あせった」

「だめですねー。コレだから現代人はー」

 なら、君はいつの時代の生まれだってんだよ……(ヘッドドレス)だけはヴィクトリア朝時代か。


 プププッ――――ガチャ♪

「はい俺。今どこだ? ああ、映像来た。この画像処理は(なみ)プロちゃんのか?」

 地味子(ふつう)からの通話には、全権限を譲渡してある。

 ビデオフォンだろうが共通鍵暗号通信だろうが、帯域が許す限り、すべて直通。


 映像は解像度が高すぎて、すこし遅延し(ラグッ)てた。

 (なみ)プロちゃん無しの俺のスマホだけだと、当然こうなる。

 通信元が、地味子(ふつう)のハイスペックスマホなら、なおさらだ。

 ヴュヴッ――コッチの受信環境に向こうが会わせてくれたのか、最大解像度が必要最低限に絞られた。


 視界の半分の半分くらいを占める映像は、上下二つにわかれている。

 上がそこそこの速度で走行中の『パノラマ映像』。

 周囲の状況が数値化され、縁取られた輪郭がCG映像のように貼り付けられていく。

 同時に分類(カテゴライズ)された項目名(アイテムネーム)が、リアルタイムに入力される。


 そして下の映像は、次々に切り替わる『定点カメラ映像』。

 コッチは、最寄りの公開定点カメラからの受信映像だ。(なみ)プロちゃん一式(カート)の高機動の要でも有る。

 この映像のお陰で、ブラインドコーナーの先に障害物がないことを前もって確認できているからだ。

 上の開発中のゲーム画面みたいなので分類された項目(カテゴリ)に、なんらかの数値が記録(マーク)されていく。


『おじさん→1・2m/s』『しょうねん↓1・8m/s』

『おんなのこ←1・1m/s』『おーえるさん→0・9m/s』

『ごみはこ_0m/s』『かんようしょくぶる↓0・1m/s』『たてかぶばふ↑0・2m/s』

 上から見た(トップビュー)矢印(ベクトル)……移動速度の平均か。


「はい。(なみ)プロちゃんファイル入出力APIⓇからの、リアルタイム処理映像です」

 内部処理がひらがなベースなのはAI処理的に珍しいけど、地味子(ふつう)の人柄が見て取れる。


 ――――キュキキーッ♪

 映像が路肩に停止した。


「ん、止まったぞ? そこは、さっき通ってきた家電量販店のあたりだろ? やっぱりさっきの『()盛りポイント』に向かってるのか?」

「そのようですね。停止中の今なら安全に、私か代表の強制コード入力が可能ですが――」

 映像の中を運ばれていく大型家電。

 (なみ)プロちゃんは、ソレをよけて一時停止しているようだ。超かしこい。


『――――うごくもの_(ぜろ)░』

 状況変化を知らせるステータスが変化。

 定点カメラ映像内の全ての数値が端数切り捨て、つまり補正さ(まるめら)れ――――『きけんど_0%』という緑色の算出結果をはじき出す。


 キュロラロララッ――再び軽快に走り出す、パノラマ映像。

 (なみ)プロちゃんは、倉庫で運用される配送ロボット程度の判断力を身につけていた。


「いや、行き先がわかってるなら、ムリしなくてイイ。今んとこ、ちゃんと通行人をよけて進んでるみたいだし、下手なことしてひっくり返られでもしたら、目も当てられんしな」

「はーい。じゃ、先に行ってますね。映像はこのままつないでおきますのでー」

 地味子(ふつう)との音声通話が途切れた。


 すると、(なみ)プロちゃんが見てる映像(せかい)の余白。

 つまり、遮光ゴーグルを通して見える現実世界。

 まるで、メイドさんの頭に乗ってるような感じのヒラヒラが、視界の隅をウロチョロウロチョロしてた。


「なんか、面白そうなモノを見てますねぇー」

 この遮光ゴーグルはAR映像が見られる簡易的なVRHMD機能も備えているが、簡易型だから正面から全部見えてしまう。

 ウロチョロしてたのは、好奇心旺盛な副部長ちゃんの頭だった。


「うーん、後学の為だ。ちょっとだけだぞ」

 ハズしたゴーグルを即座に、コスプレ大剣メイド少女にひったくられた。


「うっわ、コレ(なみ)プロちゃんの中身(・・)ですか? 面白っ! コレ録画いただけませんかね? (なみ)プロちゃんお使い途中のハプニング映像として、フィギュアのオマケに付けましょう♪」

 コスプレ大剣メイドがVRグラスを掛け、はしゃいでいる。

 ココがいくら電気と趣味の町とは言え、人通りがなくて良かった。


「コラ後輩。俺はハードだからソウでもねえけど、ソフト担当の地味子(ふつう)の企業秘密を軽々しく扱おうとするな。減点1だ、忠告しとくぞ」

「あ、そっか。(なみ)プロちゃんはお二人が心血を注いだ〝愛の結晶❤〟でもあるわけっすもんね。すみません。金平(かなひら)先輩、失言でした」


「まてまて、減点2だ。間違っても地味子(ふつう)の前で〝愛の結晶〟だなんて言ってくれるなよ? コレは厳命しとく。絶対だからな?」

「えー、じゃあ、なんて言えばいいんですかぁー? 〝製品〟なんて言ったら(なみ)プロちゃんがかわいそうだし……」

「じゃあ、ソイツは君ら模型部への宿題にする。(なみ)プロちゃんたちも了承するような、素敵な呼び名(カテゴリ)を期待する」

 俺は、地味子(ふつう)達が消えてった突き当たりへ向かわず、その手前の中古OA機器専門店へ進路を変えた。


「先輩、ソッチは道が違うっすよ?」

「近道ついでに探すモンが有る。なんか、いい感じのが置いてりゃいいんだが」

 俺は店内のコピー機とかPCとかが置いてあるあたりを素通りして、有るモノを探し始めた。


      §


「いけるか後輩? 違崎(ちがさき)も」

「「問題ないっすよ!」」

 君ら息ぴったしだな。

 

 〝並盛り〟メニューが書かれた壁――のはるか上空8メートル程。

 吹き抜けの天井部分にペタリと取り付けられる、全天球カメラ。


 たまたま地味子(ふつう)のツテが利く、ビルメンテナンス会社が近くにあって助かった。

 この通路の正式な使用許可は申請中なので、〝(なみ)プロちゃん監視システム(・・・・・・)設置〟に手は貸してくれない。

 それでも、作業用クレーンと命綱(ハーネス)と必要な道具を即座に手配してくれたのは、とても助かった。


『高性能汎用AI

 (なみ)プロちゃんⓇ

 絶賛稼働中です』

 俺は通路の多少開けた側から、壁際を切り取るように小さな看板を設置していく。

 その中心にはもちろん、〝自走式電動カート(なみプロちゃん)〟が居座ってる。


 ――――キュロロラッ!

「あぶねっ!」

 うかつに近寄ると、こうして突進してきて危ないから、こういう措置(・・・・・・)になった。


「はーい、映像来ましたー。電源は私の広域LAN汎用契約IDに切り替えますので、パス送ってくださーい」

 こんな往来で汎用LANから、無申告で無線電源が確保できる地味子(こいつ)は、やはり侮れない。

 そのうちと言わず、スグにでも裏付けを取っておいた方がいいかもしれねーな。

 ボディーガードがついてたりするわけじゃないから、要人ってワケじゃないとはおもうが。


「よし。映ってる映ってる……さすがに画質いいな。並プロちゃん(はちごうき)程じゃないけど」

 さっき買ったカメラは防犯用の安物じゃない。プロ御用達のリアルタイムVR配信向けの本格的なヤツだ。

 今日は色々とひどい出費だが、いまココで解決しておかないと〝並列プロジェクトⓇ〟の大きな障害に発展しかねないと、代表(おれ)が判断したのだからしかたがない。


 なんせ『あんぜんだいいち』という自衛行動決定の結果、激突の危険を顧みずフルスロットルで接近者(おれたち)を排除しようとするのだ。この矛盾する挙動は放置できない。


 ちなみに、即時決済可能な手持ちじゃ足りなかったから、副部長ちゃんにもすこし借りた。

 (なみ)プロちゃんに乗っかったままのあのパーツを買うために、急ぎで工面したもんだからいろいろとムリをしたのだ。


 地味子(ふつう)に言ったら、怒られた。

 そして例の凄い色のカードを認証デバイスごと、よこそうとしたから、やんわりと突き返した。

 ひとまず、部外者である副部長ちゃんへの返済だけ頼んだ。


 ウィウィゥイゥィウィゥィゥイゥィーーン、ガチン。

「いやー、これも記事にしていいっすかね? おっもしろかったぁー!」

 作業クレーンから降りてきた副部長ちゃんは、超ご機嫌だった。


 まあ普通に生きてりゃ、仕事以外で電気街の天井にカメラ取り付ける事なんて、まずないからな。

 俺だってない。正直高いところはあまり得意ではないし、ココの天井は相当高い。

 別に高所恐怖症ではない違崎(ちがさき)も、へっぴり腰で降りてきてタラップに座り込んでるし。


「バカ言ってんな。タダでさえ無理なお願いしてるってのに、減点3でアウトだ」

 俺たちはビルメンテナンス会社の社員に、ひときわ深く頭を下げた。


 だが、社名入りのツナギを着た社員さんは、

「え? 記事? なんかで出版されるんですか? ならひとまず社名が出なければ全然かまわないですよ。むしろ広報に通したら、コッチから取材させろって言いそうですし」

 なんて言ってくれた。いい人だ。

 そして、ウチ以上のオープンな社風には共感が持てた。

 地味子(ふつう)のツテも関係してるんだろうけど。

 さっき頂いた名刺に、(おきにいり)マークを付けとく。


 けど、取材と言っても大学模型部の部誌か、可動フィギュア販促用のオマケ記事だからな。

 あまり、おおやけにお手を煩わせるわけにもいかない。

 説明を始めた副部長に、やんわりと脳天チョップを食らわせ、『(なみ)プロちゃんⓇ可動フィギュア』のチラシを進呈するにとどめさせた。


 帰って行く作業クレーンを全員で見送る。


「通路の使用許可は?」

「はい、父の秘書の方が都心に居たので、直接手配してくれることになりました。……ので多分、30分はかからないと思います」

 なるほど、有能ってことか。


「よーし。映像のコントロールをくれ」

 ソレは違崎(ちがさき)から手渡された、小さな3Dマウス。


 遮光ゴーグルに移し出されていた上空からの映像が、拡大(クローズアップ)される。

 ――――ウィィィィィ…………、

 ゴーグルの指向性スピーカーから聞こえていた、カメラ自身が発するモーター音が無音になった(・・・・・・)

 つまりそれは、映像の中心の音を捉えているということで、指向性マイクが搭載されている証だ。

 本当に性能いいな、このカメラ。


 ――ッキュッ。

 俺と全天カメラの目が合った。

 上空(てんじょう)を見上げる凸凹(デコボコ)四名(チーム)と、自律型面白カート(オートノマス)一台。


 カメラ映像の隅に表示されたデバイスIDを、俺は視界(ゴーグル)の向こうから指先で摘まみあげた。


 俺の指先から伸びるオレンジ線が、ベリッと音を立ててゴーグルから離れ、天井の全天カメラに繋がった。

地味子(ふつう)、さっきの入出力API経由で、コノ映像を(なみ)プロちゃんに送ってくれ」


「でも、こんな映像ひとつで、本当に(なみ)プロちゃんの脆弱性を解消できるんですか?」

「まだ確証はないが、やってみる。不具合修正(デバッグ)開始だ!」


      §


『ひかじ:(なみ)プロちゃんへ告ぐ。貴殿のスタック状態を解消するために、定点カメラを用意いたしました。どうぞご査収下さい』

 ――――愛用の旧型軍用コンソール(耐衝撃仕様ノートPC)から打ち込んだチャットに対する返答はない。

 シビれを切らした違崎(ちがさき)が、僕らはじっとしてても仕方ないから、ちょっとゲームショップ覗いてきていいっすか?

 なんてのんきなことを言うから、10分したら戻ってこいと厳命する。


 途端にすっ飛んでいった後輩1を、うらやましげに見つめる後輩3(ふくぶちょう)

「あー、いいよいいよ。さっきは俺も言い過ぎたし、そもそも君らだってヒープダインの顧客だ。気兼ねは要らない」

「じゃ、チョット行ってきまーす。あ、大剣かさばるんで置いておきますね。えへへー♪」

 大剣を近くの壁に立てかけ、違崎(ちがさき)先輩まってぇーとすっ飛んでいくコスプレメイド(大剣無し)。


「あー、地味子(ふつう)も行きたかったら、行ってきていいぞ?」

 俺だって、こんな状況じゃなかったら折角の都心だ。ゲーム屋くらいのぞきたいトコだし。


「えー、何か言いましたかー?」

 どこかから持ってきたパイプ椅子を並べてる、業務提携(アライアンス)(パートナー)

 「よいしょっと」と腰掛け、ノートパソコンと分厚いノートを広げ、コッチを向く。

 その顔には『今日は、どんな出し物を見せてくれるのかしら?』と書いてある。


 だから、何そのブ厚い信頼。ドコから来てんの?

 地味子(ふつう)の隣に腰掛ける。


 俺たちの視線の先には、カートの上の超高額特注パーツと黒と朱の小箱。

 黒い方が半開きになり、朱い方が天板からカメラ付きの機械腕を伸ばすまで、それほどの時間はかからなかった。

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