『晩餐会』はお客様を招かなきゃな!!
晩餐会と言えば、酒だろう。
ここは秘蔵の酒で決まりだ。
名前は『…』ちょっと忘れたけど、村の『精霊の木』から採った果汁を発酵させた5年ものだ。貴重なんだよ。
特に果汁を採るのは本当に骨が折れた。中々実を付けないからちょっとチート使ったし。果汁目当てのアイツらにも協力を頼んで…あっ、来たな。とにかく、お客さんが来なきゃ晩餐会は出来ないからな。
*** ガルクルト視点 ***
何だこの大き過ぎるテーブルの上のご馳走は。
何人分だろうか。城での晩餐会ですらここまではない。もちろん300人以上は招かれるが。
中央に置かれた魔獣の肉の旨そうな匂いにルティンが既に齧り付いた。この連戦続きでは、彼の様な盾の戦士ならば無理もない。体力ゲージはほぼ尽きかけているだろう。我々がマラサイ村で魔獣の肉の虜になるのはあっという間だったのだ。
それほど、旨い!!
「ガルクルト。ザルツはまだ外か?」
防御キノコの気配があるから油断していた。
ヤツなら何をするやら。
「気配は?」
「それが先程から魔力が行き渡らないんだよ。
こんな事、未だかつてないからちょっと不安になって。」
俺は慌てて踵を返して出口へと向かうとしたその時、向こうの方から沢山の気配がこちらに近づいて来た。
ルティンが既に盾を構えて我々の前に立っていた。どんな時も警戒を怠らないそれが盾の戦士。そのルティンの緊張感に我々もそれぞれ身構える。
『聖なる魔力よ。その身に纏う力を』
マルセラの聖魔法で失った体力が半分くらい回復した。
「助かったマルセラ。下がってくれ。」
真っ白な顔色のマルセラが後退りした。だいぶ無理をさせた。気になりながらも、近づく気配に備え全ての気を剣に送り込む。
「あっ、皆んなほら、お出迎えだよ。
おーい、お客様の到着です!!」
ダメだ。幻が見える。
側にいたアルト皇子が跪くのが見えてギョッとした。
まさか…アレは実物?!
「精霊界からのお客様、歓迎の意を表します。」
アルト皇子が厳かに歓迎の意を伝える時には全員が同じく跪き首を下げた。
数百年来、こちらへの渡りがないと聞いていたのに。
「やっぱ、皇子って堅苦しいんだな。コイツらは俺の酒目的なんだから。
まあ、果汁の時に世話になったしな。ほら、五年ものだぞ。それに『精霊の木の実』もたんまり出したから。」
ザルツ。。。
規格外とは言え、精霊界から来たお客様を『コイツら』呼ばわり。しかも『精霊の木』の酒??それは一口飲めばどんな重い怪我も病も一発で治ると言い伝えで聞いた事はある『万能薬酒』では?
本当に存在したとは。
「ガルクルトもアルト皇子も早く食べないと晩餐会っぽくならないよ。皆んながお腹いっぱいならせっかくのご馳走が残っちゃうから。俺…もっとお客さん連れて来ようかな。」
「いや。全く必要ない。我々は大変に腹が空いておる。」固まっていたライト皇子がギクシャクと動き出す。無理もない。かの国では精霊界は絶対的存在として崇めているのだから。
凄い勢いで食べ出したルティンを見て、にっこり微笑むとザルツはまだまだ足りぬとばかりに次から次へと料理を並べる。見た事のない酒類が朱塗りの大きな盃に並々と注がれてはお客様方が群がって…コホンそちらに夢中になっていた。
「さぁ、そろそろアレの出番かなぁ…。」
その先の事は正直思い出したく無い。
『かくし芸』…侮れぬ。
翌朝の目覚めに驚いた俺は暫し固まった。
長年の戦いの日々で傷だらけの身体は必ず何処かに痛みを齎す。目覚めとは、痛みと共に。
戦士となった今では当たり前の事だ。
それが…無い。
身体の何処にも傷跡が見当たらない。それどころか、気の充満の仕方がオカシイのだ。
『ダイギンジョウ』
ザルツの時折話す聞き慣れぬ言葉。
この『精霊の木の酒』はこの後またトンデモナイ事態を招く事になるのだが。
今朝は感謝を捧げたい。
ザルツ、痛みのない朝をありがとう。