拠点作り…結局、ザルツはザルツだった。。
「とにかく、この場所を拠点として攻める手を考えるぞ。」
リーダーとなったガルクルトが皆に告げた。
目の前の情景は穏やかな森そのもの。
だが、先程見てきた光景を忘れるのはきっと一生無理そうだ。
魔獣を大人しくさせる『ムレ』を発見してからだいぶ経つ。だから知らなかったのだ。
他国はこんな状況とは。
「おい、大丈夫か?戦いを見るのは初めてだったんだな。真っ白な顔色になってるぞ。」
ラルト皇子に言葉に小さく頷くと鍋を持って外に出た。
「どうした、ザルツ。ここの拠点作りをしてからいつも通りに飯の準備を、頼むから鍋は後に…」
ガルクルトの声がそこで終わる。
ごめん。
やっぱり、動揺してるんだな。説明しながら進めるハズがこの有り様だものな。
鍋から取り出したモノを振り撒きながら、周りの反応を見れば昔のマラサイ村の皆んなを思い出した。
俺の空間魔石はこのフライパンなんだよ。
大切なモノはいつも使うモノに入れてる。そう言ったらナラのヤツが呆れてたけど「もうお兄ちゃんだから諦める。」とか言ってたな。
人間って動揺しても、いつもやってる事なら出来るんだな。
拠点作りと言えば、今までのキャンプとは違う。これまではガルクルトが用意した幌馬車っぽい乗り物の中で寝泊まりしてたけど。
狭くて揺れるから苦手でさ。
とにかく!!
俺は居心地の良さに全振りした持ち運べる『家』は出した。中身付きだ。
さぁ、とにかく今日は晩餐会にしよう。
単なる、やけ食いに近いけど動揺を鎮めるには少しの酒がよく効くからな。
とっておき…だすか。
おっと、その前にもう一つ。
ボタンを一つちぎって投げた。
よしよし。
これで魔獣も盗賊系も心配ないな。
やれやれだよ。
作り置きの飯で勘弁だ。
「今日は拠点作り1日目だから、ちょっと飲み会しようぜ。」
何だろ…ちょっと温度差がある気がするんだけど。何?
あっ。既にルティンが肉に齧り付いてる。
さあ、飲むぞーー!!
*** マルセラ視点 ***
物心ついた時には、聖魔法の魔力の強さで王宮に召し上げられていた。聖魔宮と呼ばれる聖地での厳しいしご…いや特訓はもう思い出したく無い。それでも聖魔法の申し子との呼び名に相応しいくらいの力はつけたつもりだ。
だから今回の第一討伐隊の選抜もさして驚かなかった。やるべき責務は何度も繰り返し教えられてきたからだ。
でも…予想外が一つ。
ザルツだ。
何から何まで予想外。
何故、鍋から屋敷が出てくるのか?しかも、かなりの作り込み方だ。
一見は小さな白い布で小さな出来た簡易小屋。
なのに、だ。
中へ入ったらそれこそ五人で入ったらパンパンな位に見えていたハズなのに。
何部屋あるんだ?!
奥まで見えない。
「おい、ここは何だ?まるで水のない池があるがこれも部屋なのか?」
奥の方を見ていたガルクルトが聞けば。
「あっ、それは風呂だよ。大浴場なんだ。温泉は出ないけど『温泉のモト』はあるから!!」
元気よく答えるザルツ。
オンセン??
モト??
見た者を唖然とさせる天才ザルツ。
この広さが魔獣退治の拠点にいるのか?
心の中の呟きをガルクルトが尋ねていたら。
「ガルクルトは知らないんだよ。
お風呂は翌日の元気のモトなんだ。魔獣退治の拠点には必須さ。」
また、不十分な説明だ。
それよりこの部屋は何だ?
何故水が流れ落ちている??部屋に水って…。
「あっ、そこは滝だよ。風景の楽しさも入れようと思って河と滝、紅葉の樹樹なんかも用意したよ。」
え?
部屋の外に見える光景は外の風景でなくて作られたモノなのか?
あの鬱蒼とした樹々も??
「そうそう。あの樹々は果樹だから後で楽しみだよ。」
声に出てたのか?
「今日は晩餐会だから、ちょっと仕掛けしてくるね!!」
そう言ってザルツはこの不可思議な拠点から飛び出した。恐らく『防御キノコ』
はぁ。もう驚かないぞ。
さすがにネタは尽きただろう。
疲労感満載でそんな風に考えていた数時間前の俺を殴り飛ばしたい。
結局、ザルツはザルツだった。。