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とある村人の独り言



*** とある村人の独り言 ***


「初めてのお客様だぞ。しかも有名人だ!!

いいか、薬草チームには負けるなよ!!」


「「おー!!」」


俺は拳を振り上げてチームリーダーであるスタンの言葉に応えた。何たって、副リーダー…候補なんだから!!


「エラン。お前、店の前にいつもの立ててくれよ。あれは目立つから。」


スタンの言葉に頷きながらも、裏の小屋まで走った。あれを取りに行かなきゃな。


俺があれを設置し終えた途端に、お客様達を連れたザルツとナラさんが到着した。


「いらっしゃいませー」


ザルツから店子は、大声が一番と言われていたから思いっきり大声でお客様を迎えると、一番大柄の方が俺のあれを触っていた。


「お?ルティン様も意外に目ざといじゃ…いや目ざといですね。あれは幟と言うんですよ。商売では何を扱っているかをお客様に知らせる為のもの。」


「…」


「おい、エラン。あの絵の説明してくれ。どうせあの絵はお前だろ?この村一番の絵描きなんだから。」


あれ?ルティン様何か質問した?何でザルツは内容が分かるんだろう??

あっ、それどころじゃないや。緊張して聞いてた俺にお鉢が回ってきてたのに。


「あー。コホン。あ、あのでふね。あっ噛んだ。これは魔獣でふ。。」

「ごめん、ごめん。エランは緊張屋だったな。

この店は魔獣屋なんだよ。魔獣の肉の燻製やソーセージ。それと…」

噛んじゃったよ。大事なとこでこれだから俺は候補から副リーダーになれないんだ。そんな風に思って聞いてたらザルツの声を遮るガルクルト様がまさかのご発言に驚愕する事になる。


「おい、待て!!魔獣をまさか食すると言うのならばそれはこの国の禁止事項だ。」


「「ええーーー!!!」」


俺も思わず声が出ちゃったよ。でも、それは仕方ないと思う。ザルツをはじめこの村の者なら全員驚くさ。だって毎日食ってたし魔獣の肉って、めっちゃ旨いのに。なんで?



「あー。ガルクルト。それは説明不足だよ。ここは首都じゃない。『お触れ』すら届かない田舎町だよ。えっと、ザルツ。魔獣に毒があるのを知らないで食べたとなると、マルセラの聖魔法で解毒した方が良いぞ。たぶん、相当重症化している人間がいると思う。」


深刻そうな声の主は、ラルト皇子だ。きっと。

だって、あの輝く金の髪に青い目、そして柔らかな笑顔は田舎町の女どもでも噂してるくらい有名だからな。まぁ、魔法の始祖と呼ばれる位の天才らしい。 

それにしても、毒って。

どうしよう…俺。店の残り物をいつも貰って皆んなより沢山食べてたのに。


「あー。それなら問題無しだ。解毒は全て完了してるからな。毒のある食べ物もイケるって事さ。まあ、まずは『鑑定』してみてくれよ。ラルト皇子なら出来るだろ?」


ホッとひと息。

さすがはザルツ。やっぱり解毒してあるのか。

そう思って周りを見渡すとスタンを始め誰も驚かない。えー、知らないの俺だけ?


(エラン。昔、ちゃんと説明されたろ?それに

処理チームがしてるのは、何だと思ってたんだ?)


仲間にそう囁かれ頬に赤みが差す。

しかし、お客様はちゃんと驚いた顔をしていた。特に無表情だったルティン様も微かに眉毛をピクリとさせたのをちゃんと俺は見たぞ!!


「だから、このサラミは長期保存が可能でさ。しかも常温で腐らないから持ち歩きに便利だろ?荷物の中に入れたらどうだろう?」

よそ見していた間に店先の商品のオススメをザルツがライト皇子にしてた。


向こうではリーダーも乗り出してオススメしていた。

マルセラ様はジャーキーに興味深深だった。


「マルセラ様、良ければ味見をどうぞ。

あっ、そうでした。この村では試食は当たり前だったのでつい。こんな、場所で召し上がったりしないですよね。」


試食を差し出せば、眉を寄せ手を出さないマルセラ様にリーダーってば慌ててるな。

しかし、試食もしないのか…貴族とかって大変だな。


「いいえ。場所などは関係ないのです。商品をザルツに無断で試食しても大丈夫かと。」

「あっ、それならこの『試食』も彼の提案ですから大丈夫です。ほら、ザルツもラルト皇子にもオススメしてるでしょ。」


美味しいモノを食べる=売れる


ザルツはいつもこんな風に新しい風を村に吹き入れる。それはいつも俺たちを救ってきたんだ。村の者なら誰でもザルツに感謝している。

でも…。

それも間もなく終わる。

彼は『討伐隊』とやらに選ばれてこの村を離れるのだから。


あの日からザルツに頼り切りの俺たちにとって、それは覚悟していた事でもあり、最悪の展開でもあった。だって、何で危険な場所ザルツがって思う。


天才だと思う。

いや、変人だと思うだった。


だけど、強くない。賢くても剣など振るったら自分を切りつける位に鈍臭いのに。村人ならば全員が知ってるくらいに。


出来るなら…と。


*** ルティン視点 ***


『第一討伐隊』に選抜された。


それは当然の流れだった。

メンバーもなるほどの選出で、納得していた。


あの日、彼を見るまでは。

普通の青年。いや、普通と言うよりも小柄な、か弱そうな青年だ。


何故?

無理だろう。


それが率直な感想だった。

魔獣との戦いは厳しい。時に盾として最善を尽くしても守れない者もある。そんな時はおのれの力不足に煩悶とする。そして更に強くなると誓うのだ。努力も欠かしてはいない。


しかし…。

彼を守りながら戦うのは厳しい。

特に魔獣が溢れているエルザム国へ赴く今は。


物思いに浸っていたら、いつの間にかマラサイ村の彼の家に到着した。そして、案内された場所で俺は久しぶりに戦慄する事になる。


「それは幟だよ。。」


描かれたモノが気になって手に取っていたモノの名前だ。

ノボリ…そんな名前のモノは恐らくこの世界にない。もちろん、こんな『地下室』など存在するハズもない。


しかし、それ以上に自分が驚いたのは書かれていた絵が『モブザブ』だったからだ。

魔獣の中でも、大きな牙を持つ魔獣でしかもその牙から猛毒が出る。


『食糧店街』へ案内されたハズだ。

だとすれば。。


自分の杞憂はライト皇子も同じだったらしい。

眉間に皺寄せた彼は久しぶりだ。

それだけ、この村人達は不味いと言う事か。

案じている俺やライト皇子の不安もザルツの一言であっさり解決した。その上、『鑑定』してもやや疑っていたライト皇子に対して彼は実力行使に出たのだ。


「鑑定では問題無しと出るが、まずは私が頂くとしよう。

むっ?!これは…」


口を開けた隙に放り込まれた『モブザブ』の肉。ラルト皇子の目が白黒していた様子に俺は胸ポケットに素早く手を入れた。万病に効く薬を取り出す為だ。それは出発時に親友に貰った貴重品だ。魔獣との戦いが厳しさを増す中、薬や魔法医師の不足は深刻だ。

恐らく、彼の命に関わるハズと前へ出ようする俺の身体を遮る者がいた。


「ふふふ。大丈夫ですよ。安心して見ていて下さい。」

ナラ殿だ。ザルツの妹はそう言って柔らかに微笑んだが、ラルト皇子はピクリとも動かない。

ナラ殿をそっと抱き上げて横にずらそうと手を伸ばしたその時。


「ザルツ!!これ何?!

めっちゃくちゃ旨いよ。本当に噛めば噛むほど味が溢れて。こんな美味しい肉を食べたことないな。『鑑定』でも『栄養食品』となっているし問題は全く無い。」


そのラルト皇子の声に反応したのはガルクルトだ。

「俺にも一つ」と口に放り込んだ途端「旨い。これ何だ?」と興奮した様子だ。


「この先にはもっと旨いモノを出す店があるからさ。」得意げな様子の、ザルツ。


遠目のスキルを持つ俺でも見通せない。

広大な畑、森、小川まで。


これが『地下』にあるのだ。

ザルツの持つスキルなのか。それにしても、もっと旨いモノを出す店とはどこに?


規格外と言う言葉の意味を心底理解する事になるザルツとの出会いはこんな風に始まった。

だが、まだ一言も喋れてないが…な。




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