ザルツは何者…?
*** sideナラ ***
人攫いに合った兄が転移魔法で帰宅した。
しかも、凄すぎるメンバーを連れて。
『鉄壁の盾』ルティン様
『聖なる戦士』マルセラ様
『魔法の申し子』ラルト様
そして…この国の守り神『軍神』ガルクルト様
気が遠くなりかけた私を正気にさせたのは、兄ののんきな『ただいま』の声。いつもながらツッコミ処満載なマイペースな兄。
あの人攫いがあった日は、あまりのショックに記憶があやふやで。お得意様が集めてくれた情報で人攫いをした人がガルクルト様だとわかってからは心配はやめたけど。
それにしても、何処にいても誰といても兄はやっぱり変わらないわ。
「数日したら、また出かけるから。その間だけ店を閉じてくれ。」
紹介もそこそこに、いつもの全然意味の通じない連絡きた!!
どこへ行くの?
なんでお兄ちゃんも?
店を閉じて何するの?
混乱している私に救いの神が降臨!!
「初めまして。ナラさんお世話をかけますね。」眩しすぎる笑顔で、説明してくれたのはマルセラ様。ありがたいと思ってたら途中で言葉が止まる。ん?なにかしら。
「ナラさん。こんな突飛な話なのに随分と落ち着いていますね。」
そりゃね。あの兄を持てば誰でもね。
こんな風にいつかはなるかと想像してたから。
でも、それは伝える事じゃ無いからいつもの営業スマイルで頭を下げた。
「いえ、とっても驚いています。顔に出にくいタイプなのです。ご説明ありがとうございます。」
「ナラ。馬鹿だな。マルセラには通じないよ、その営業スマイルはさ。相手を侮りすぎ。相変わらずお前は変わり者だよな。」「お兄ちゃんにだけは、その言葉言われたくないわ!!」
私達の兄弟喧嘩を他所に静かな声が響いた。
「ナラさん。驚かない理由を聞いても良いですか?」
あれ?少し怒ってるかな。
そうよね。
これだけのメンバーを見たら、普通は取り乱すのが普通だもの。その上、平凡な兄がスカウトされたなんてとなると予想するわね。
マルセラ様の目が笑ってない。
「正直に言いますと、予想の範疇だったので。人攫いに合った時が一番びっくりしたくらいで。」
ここは正直に言うしかないみたい。
こんな事言うと、馬鹿にされる事が多かったから子供の頃から身につけた営業スマイルだったのにやっぱりこのメンバーじゃ通用しないか。
全員の視線が刺さって痛いから。
「まぁ、ガルクルトは非常識だから。」
それまで黙っていたラルト様がニヤリと笑って
場を和ませてくれたのに、兄が斜め上の発言始めたし。
「予想の範疇って何だよ。背が低くてもお兄さんなんだぞ!!」
背の低いの気にしてるのお兄ちゃんだけだから。
「私も聞きたいな。予想の範疇と言われるな。」ラルト様の鋭い目線がこちらを向く。
いつもは絶対言わない本心を言うと、決めたわ。だって、誤魔化しなんて通用しない相手だもの。
「兄は天才です。あっ、馬鹿と紙一重の天才の方ですけど。」
「何だとー!!」
むくれた顔の兄を他所に全員が、少しがっかりしてる感じ。そうなのよね。
これを言うとだいたいこんな反応だから。
ブラコンとかじゃないのに…単なる事実だから。
「皆さん、村に入って不自然なモノを感じませんか?この村は魔獣被害がまるで無いのですよ。それは全て兄の『防御キノコ』のおかげなのです。そして、兄のおかしな発明は何度も色々な人を救ってきました。その筆頭が私ですから。」
さすが…皆さんの目力が凄い。
話の途中から、視線を痛いもの。
「そんな事より、用事があるのは地下室だろ。
父さんと母さんが居ない間にさっさと荷造りをあっ…か、母さん。」
言いかけた所で両親が1か月振りに帰宅した。
気まづそうな兄を見れる唯一の瞬間ね。
でも、この状況は…たぶん。
*** sideガルクルト ***
誤解から誘拐紛いの連れ去りをして初の帰宅だ。ザルツの家族からの抗議の声には真摯に謝罪するつもりだった。なのに、我々を見ても冷静な妹のナラ殿。
予想外な反応と発言に驚いていると、ご両親が帰宅された。
「あら、英雄ガルクルト様じゃない。ザルツ。あんたまさか攫って来たんじゃないでしょうね!!」
はっ?
この俺が誘拐されるというのか。この少年にか?!
ムッとした気持ちが表情に出たのか…今度は父君が爆弾発言をした。
「母さん、ザルツは魔獣をペットにするくらいだから、物好きなんだ。諦めなさい。
庭のロンの餌は、王都で買ってきたぞ。」
「魔獣を…ペット…」
ラルト皇子の顔から、表情が抜け落ちた。
マルセラは手のひらに聖魔法を込めているし、ルティンの闘気が家の家具をビシビシと揺らしていた。
「父さんと母さんは黙っていてよ。秘密バラシばっかりするんだから!!
俺は魔獣討伐に行くから、地下室のモノは粗方持っていくよ。」
今度はご両親が固まっている。
「村の安全なら大丈夫だよ。『新防御キノコ』作りに成功したから。あと三年は持つ。ロンでお試し済みだよ!!」
「ちょっと待ってくれ。こんなびっくり情報ばっかり繰り出されても整理がつかない。」ラルト皇子が零すとナラ殿がとどめの一発。
「地下室にあるモノから見たら序の口よ。」
その言葉に虚偽はなかった。
全員が思ったのだ。
ここは変だ。
そしてザルツはいったい何者なんだ…と。