カザンの決意!!
*** ゼリア視点 ***
決断はいつも重い。
二人と仲間になってから、特に…だ。
だが、今回だけは違った。
「ザルツの居場所は相変わらず分からないのか?」
タササの声に振り向く。
実は俺たちには秘密兵器があるんだ。
もちろんドワーフ族には内緒のその能力は
カザンの特殊能力【聞き耳】だ。
まぁ、詳しく言えばもう少し複雑な能力らしいが学のない俺にはこの言い方がピッタリだ。
この部屋に閉じ込められてからの唯一の情報ツールなのだ。
そう、ザルツの行方を知るための。。
期待を込めた俺たちから視線を落としたカザンの様子から収穫なしと理解した。
「でも!!一つ分かった事がある。どうやら、中央公園って言うのは特別な場所らしい。」
「特別ってなんだ?」と俺が尋ねれば。
「ドワーフ族にとって、大切な場所と言う意味だけど最近どうやら揉め事もあって、それがドワーフ族にとって不味い事態だったらしい。」
不味い事態だらけだな、ドワーフ。
「まぁ、王太子があの状況じゃな。俺は最初ドワーフ族似の魔獣かと思ったくらいだよ。」
タササの顔色が言いながら悪化する。
そりゃそうだ。
あまりの登場シーンはトラウマになりそうな獣の様な有り様だったのだ。
もし、あの時ガゼランさんが居なかったら、絶対被害はもっと大きかったはずだ。
ガゼランさん、肩に食いつかれても立ちはだかっていた。その前に俺たち全員ヤツの放つ【威圧】にやられていたのに。
本当にすげーや。
あれが本当の騎士なのか。。
トントン。
扉を叩く音がして「はい。どうぞ。」と答える。カザンを見ればどうやらあの宰相ではないらしい。
とにかくドワーフ国宰相閣下は手強い相手だ。マジで俺には荷が重い。強すぎる視線を見返しているだけで背中には汗が流れるくらいに。
「邪魔するよ。」
そう言って入ってきたのは、マクガさんだ。
それと…。
ガゼランさんだった。
俺たちは、一斉に立って席を譲る。
怪我は大丈夫なのか?最後は気を失っていたから分からないが目覚めた時見た絨毯を染めていた血の量は尋常じゃなかったのに。
「そんなに心配しないでくれ。さあ、皆んな座ってくれないか。話が出来ない。」
全く怪我を感じさせないガゼランさんが笑顔で着席をすすめる。
やっぱり…お二人が揃ったと言うことはザルツに関する事だな。しかも、ヤークル姫さんには内緒の話だ。
厄介ごとには、違いない。
「ゼリアよ。そんなに聡いと苦労するぞ。
まあ、顔色で見分けるのは長い事隊長をしていれば得意になる。
とにかく、今我々は窮地に立たされているのだ。」
そんなに顔に出てたか、俺。
もう一度、繕った表情で話を進める。
「では、お話を伺いましょう。」と。
2人の話の内容はこちらにとっても頭の痛いものだった。
王様とヤークル姫様が喧嘩状態にある上に、王太子が行方不明になったのだ。
王太子の方がザルツを誘拐したのは大勢が見咎めていたので問題は無いが、そのザルツさえいなければ…となるのは理解出来る。
そうなると、連れてきた責任の話になる。
道理で我々がこの部屋に監禁される筈だ。まあ、軟禁の方が合っているが。
「しかも、そこに来て中央公園に『精霊の木』が出現したのだ。しかも…実を付けているのだ。」
「「「えっ?!」」」
思わず声が漏れた。
『精霊の木の実』なんてお伽噺話だと思っていた。まさか…ザルツにそこまでの力があるなんて。
本当に『規格外』。
横に座るタササのため息が聞こえる。きっと同じ気持ちなのだろう。
「あの…」
いつも無口なカザンが意を決した顔でこちらを見ている。やな予感がする。
「俺…その実からお二人の情報を聞けるかも。」
やっぱり言い出したか。
あの【聞き耳】は特殊なのだ。
『聖印持ち』の力は秘密だとあれほど言ったのに。
「やはりな。『聖印持ち』の其方ならばと思っていたのだ。言い出しづらいので助力を貰えるならば上場。」
上場だと…マクガのおっさんはヤークル姫さんの為になると何でも他人事だ。
この能力のせいでカザンが今までどんな目に遭ってきたか!!
「おい、おっさん。カザンを出汁にしたら絶対許さないからな。コイツの人良さを利用するなよ!!」
ドワーフ国の中にいる現状の立場などクソ喰らえの気持ちだった。だが、静まり返ったこの場に頭が冷えるとカザンとタササからのジト目に俺の短気が収まりだす。
いや、それでも譲れないものはある。
マクガのおっさんへの視線は外せない。
「ゼリア殿。マクガの言い方が悪かった。恩人の其方達に、この扱いの上の頼み事だ。憤慨するのも無理はない。
だが、これはザルツ殿の行方を探る意味もあるのだ。何とかお力添えを頼む」
ピリピリした空気がガゼランさんの一言でおさまる。やっぱり、凄い人だ。
俺もマクガのおっさんも同時に頭を下げた。
「「言い過ぎた、」」
「すまん」「悪かったよ」
「ゼリアがすみません。俺が弱っちいから過保護な人間になっちゃって。
でも、俺やります。ザルツが居なきゃ俺たちだって今ここに居ないから。
どれだけやれるか分からないけど、やらして下さい!!」
ザルツを助ける。
あの『規格外』に助けが必要とは思えないが、やれる事は全部やる。
それはここに集まった全員の唯一共通の思いだ。
*** 別の場所で ***
「それでは、やはり人間を頼りにするのだな。」
「そうです。この事態はある意味最後のチャンスですから。」
「あの子を諦めないで済むならば、どんな批判も我が受けよう。」
そう言いきった男の視線の先には、一つの剣に向けられていた。先程、カーライルが持ってきたモノだ。
与えた剣は既にボロボロだった。
そう…限界は近づいているのだ。




