やっぱりザルツは規格外?!
*** リスタ視点***
二人が知り合いだったとは。
しかも、何故か見知らぬ女性まで居る。しかも、彼女の身分はグレン殿の挨拶から相当高貴な生まれのようだ。
しかし、驚きはそれだけではなかった。
私が口を出す暇もないほど二人の驚きのやり取りが続いているのだから。そして、俺の理解力では、その会話の内容にちっともついていけない。
アザレント公国の姫様を助けた??
しかも、その人を匿いながらアザレント公国へ秘密に入国する?!
あり得ないお願いをしているナラ殿に唖然とする間も無く、グレン殿の返答はまたもあり得ないモノだった。
「いやぁ、ナラ殿ならばそう仰ると思っていました。もちろん、助力は惜しみません。」
。。。
はあ?
もう開いた口が塞がらない。
コレは本当に俺の知っているグレン殿なのか?
アザレント公国の危険性も、その王族がどんな存在なのかも彼ほど知る他国人はいまい。
しかもだ。
絶対不可能なトンデモナイお願いに簡単に承諾するとは…。
それなのに、ナラ殿の塩対応は…
「その言い方だと頼みづらいですね。だってグレンのおじ様の無償の手助けは必ず裏があるんですもの。とは言え、今回は真面目に兄のピンチなのでこちらもとっておきのカードを出しちゃいます!!」
ナラ殿!!
あの頼み事の後で、グレン殿にそんな言い方はかなり危険なのでは。
彼は敵に回せばこんなに怖い人はないのだから。
手に汗がジワリと染み出て不安感に苛まれる。どうすれば…。
逡巡しながら、仲間の方を振り返れば普段は落ち着いているガシャも珍しく目線は窓や周りへと忙しく動き回っていた。
逃げ道か。そうだな…もしもの時は我が身を盾にしても彼女を逃さねばなるまい。
そんな決意はクルゼにも伝わったようで微かに頷いている。俺たちの暗黙の了解の最中も危険な会話は続いていた。
「ナラ殿にそんな風に思われているとは心外ですな。私はいつも純粋な気持ちで力添えをしていたつもりですが。」
「あら?だってこれまでのお付き合いが、それを立証していますわね。」
背中に流れる汗が冷たい。
どんな魔獣と向き合っても、騎士団の対抗試合でもこんな汗の掻きかたはしない。
。。。
。。。
ほら見ろ。無言のまま睨み合ってしまったではないか!!ガシャがそっと背中の武器に手を回して握りしめた。クルゼも魔法展開の準備は整っている様だ。
今なのか?!!
そう思ったその瞬間…何だ?何が…。
「「ハハハハハハハハ…」」
え?ガシャが固まっている。
二人は大爆笑中なのだから、当然だろう。
「ごめんなさい、リスタさん達。おじ様とはこうやって遊ぶ仲なのよ。グレンおじ様は優しくて親切過ぎる方だもの。扉から入って来た瞬間にホッとしたのよ、私。」
「いや、それを言うならば私も悪いのかな。このナラ殿は最重要お取引様なのだ。いや、言い換えよう。我が商会の恩人なのだ。」
急激な展開にまたもや、ついていけない俺たちに二人は説明をしてくれた。
「兄はあんな風でしょ。子供の頃から本当に突拍子もない人で周りを困らせていたの。ううん。違うわね。誰もお兄ちゃんを相手にしなかった。それは両親ですら。
だって、知らない言語でぶつぶつ言い出したり。あり得ないモノばかり発見したり作製したりするから。だいたい、魔力無しで生まれたのよ?しかもその魔力を努力でレベルアップしたの?本当に非常識でしょ?!」
「そうなのだ。彼の作り出したモノが一つでも世の中に氾濫すれば大混乱になってしまう。
そこで全ての商品は私の所で扱う事にしたのだ。もちろん、世界連合の総意なのだよ。」
あり得ない事実の羅列に戸惑いばかりが俺を揺さぶる。
しかしつまり…ザルツ殿はやはり危険人物なのか。
俺の顔色を見たグレン殿がその疑問に答えた。
「いや、それはない。それをしない為に我々がマラサイ村に結界を張ったのだから。あの村に訪れるには世界連合の許諾か、我々の手のものしか入れない。」
「『エリクサーA』を知っているか?ふむ。その顔は知っているのだな。ならば理解出来るだろう。アレは化け物なのだよ。」
化け物。
確かにアレが世の中に出回れば、大混乱は間違いない。しかもそれを作る唯一のマラサイ村は危険そのもの。
「そうだ。だからこその地下室なのだよ。その顔ならば知っているのだろう?でなければ、ナラ殿と同行など許されない。」
「グレン殿。もちろん我々はガルクルト殿よりナラ殿の警護を承ったのです。そしてザルツ殿は我々の…いえナブラン村の大恩人ですから。」
「では、この部屋に掛けられた防音・防御のレベルを最高値にしなさい。ナラ殿からアレを預かっているのだろ?」
クルゼには、この部屋に彼のもてる最大の防御魔法を頼んでいる。これ以上は…。
「グレンさん、まだ渡してないから。それより、ポチがやるよね?」
ま、不味い!!
ポチは間違いなく魔獣に見えるのだ。
グレン殿に見られたら…。
「ほお。ポチまで動員したとは。防御魔法はもう、心配ありませんな。ナラ殿そろそろ本題に入りましょうか。」
グレン殿は、いったい何処までご存知なのか。
本題に嫌な予感がするのは,恐らく俺だけではないはずだ…。
*** グレン視点 ***
ナラ殿の創建な姿にホッと息をついて、リスタ殿の頼みに閃いた私の予感が確信に変わる。
ザルツ殿に…。
「兄は行方不明なんです。きっとグレンさんなら、そこまではご存知でしょう。でも、その先があるんです。」
もちろん、私の元に入ってこない情報などない。私の持つ諜報部が持ってきた情報によれば、心配のないはずなのだが。
「これはここだけの話にして下さいね。兄は『精霊の木』の守護者なのです。普通は1mも育たない『精霊の木』が、兄が育てたら数十メートルの巨木になりました。そして、何より『精霊の実』を付けたのです。ホント非常識な兄です。」
世界中の情報を網羅している私でも、脂汗が滲む。『精霊の実』とは…。しかも守護者とは何だ?まさか世界中の『精霊の木』が枯れる異常事態はこのせいなのか?
「ふふふ。いつも冷静沈着なグレンさんが
こんな風に焦るの見るのは初めてね。
でも、緊急事態だからちょっと話を進めますね。守護者が居なくなった『精霊の木』は枯れます。村の巨木も例外ではありません。
そして、それはこの世界に兄は今いないと言う事になるんです。」
「「「えっ???」」」
リスタ達があまりの深刻な事態に思わず声を洩らす。
「ナラ殿。実はあまりの内容に理解がついて行かない。ザルツ殿が、この世界に居ないのならばナラ殿は何故このアザレント公国に?」
この世界に居ない…。
そんな事、聞いたことも無い。
ザワリと胸の奥に嫌な予感が沸き出すのを蓋をしながらナラ殿を改めて見た。
そう言えば、顔色が悪い。ザルツ殿が常に彼女に『万能薬酒』を与えていたバスだ。
小さい頃から、虚弱な彼女を心配したからだと聞いた事がある。
「私は大丈夫です。お兄ちゃんの作った『万能薬酒』の在庫は数年分はありますから。
でも、兄が『ドングリ』と呼ぶ精霊界の皆様が村から消えました。加護はもうマラサイ村にはありません。」
『エリクサーA』を始めとする我が紹介の主力商品はマラサイ村製だ。それは、今や魔獣に襲われている世界を救う頼みの綱なのだ。
やはり…ザルツ殿はこの世界に居ないのか。
『祠を触ったモノは世界から飛ばされる』
伝説は本当だったのか。
「でも一つだけ兄に繋がる手がかりがあるんです。それは『ポチ』です。ねっ、ポチ?」
白魔獣…そんな名付けをした新種。
村の地下室で生まれた個体は、ザルツ殿のペットだったはずだ。
大変珍しいが、この新種如きにザルツ殿の居場所が分かるとは思えないのだが…。
『アサハカ。ワレ、ミチビクモノ。』
「「「ポチが喋ったーーーーー!!」」」
リスタ達の叫び声が木霊する。
そして、私は人生で初めて口を開けたまま。。
固まった…。




