脱出不可能?!からの大どんでん返し!!
これを人は迷っていると言うのだと思う。
先頭にマクガさん、最後尾にガゼランさんで一列に並んで進む事。。二日。
二日だよ?!
『あっと言う間に出口にお連れします。』
と、定番の頬を染めたヤークル姫さんだよ。
なのに今は蒼白な(褐色の肌なのに、だよ!!)な顔色で話しかけるられる雰囲気は皆無だ。
しかも、とうとう具合が悪くなったカザンがゼリアの背中でぐったりしてる。俺が作った【防御キノコマスク】ではやっぱり限界がある。
それは、背中に張り付いている【ヤモリ】も同等だ。あの湖から離れない方が良いと言っても『守護者とは側にいてこそだ。それに、この湖と我は繋がっておるので大丈夫だ。』と威張ってたのに。
「何かがオカシイのだ。我々へ拓かれたはずの道を辿っているのにあるべき印も見つからなぬ。」そう言って先頭を行くマクガが立ち止まった。
いや、正確には立ち往生した、だ。
「しかし、反応はあるのだ。間違いなく近くに出口があるはずだ。」段々と声が小さくなるヤークル姫さんの不安そうな顔にガゼランさんが突然跪いて頭を下げた。
何?
やっぱりダメだって事なのか。
動揺する俺たちをよそにガゼランさんが姫さんに自身の脇に下げていた立派な剣を差し出した。
「姫様。面目次第もございません。かくなるは剣をお返しして処分を待つ所存であります。」
ええーーー!!!
この迷ってるのが、何でガゼランさんの責任なの??
しかも、なんだか嫌な予感しかない。
武人の覚悟ってさ。
「よい。其方の責ではない。我の不徳の致す処だ。
しかし、ザルツ殿らには詫びの申しようもない。あの湖の近くは安全地帯であったのに。」
ええ??
今度は俺の方に姫さんが頭を下げてるし。
「もしかして、脱出不可能なのでしょうか?」
ゼリアの沈んだ声がした。
振り返ればカザンの様子が変だ。
【鑑定】をかけてびっくりした。
背中に背負っているカザンのステータス表示を見て背中にゾワッとしたものが走った。
「不味いよ。カザンの具合が急速に悪化してる。このままでは数時間しか保たないよ。とにかく、テントを出すから中へ!!」
最後の方は声が荒くなってしまった。カザン…苦しかっただろうに何も言わないから。
無口なカザンがあの祠を触るのを止めた瞬間が頭を何度も過ぎる。噛み締めた唇から鉄の味がした。
中へ入っても名案は無かった。とにかく、『浄水君』を飲ませるくらいしか。それとて、微妙な先延ばしに過ぎない。
どうしよう。どうすれば…。
堂々巡りで解決策もないまま考え込んでいた俺は周りが話し合いをしていたのを聞きそびれていたら突然の大声にビクッとした。
「簡単に言うなよ!!『聖印持ち』な事が人間界ではどれほど過酷なのか。奴が逃げ出さなきゃ今頃は…」ゼリアの珍しい怒声に首を傾げた。
『聖印持ち』って何?
でもさ、そんな疑問を聞ける雰囲気じゃないから、雰囲気を変えるためにも別の疑問を投げかけた。
「あのさ。カザン達はあの目眩しの樹々の動きをどうやって見分けてるの?」
あれ?
全員の目がこっちを向いたぞ。
しかも、目をひん剥いているから怖いよ。
コレって、漫画の中で見た家族会議で責められる主人公っぽいパターンのような気がする。
「「樹々の動きって??」」
おや?ゼリアとガゼランさんの声が重なってる。気が合うのかなぁ。しまった!!
また声に出てた。
俺の暢気な独り言に低い声での問いかけをしたのはガゼランさんだ。
「質問に答えて貰いたい。重要な事なのだ。」
「えーっと。この森の樹々って目眩しの為に動き回るじゃん。だから迷子が多いのかなぁと。
ドワーフの皆さんはそれをどうやって見分けるんだろうと思って」
俺の発言の後、俺とカザンを除いた皆はヒソヒソ話をしていた。
おい、俺を仲間外れにするなよ。
でも、何か良い案が浮かんだ感じがしてちょっとホッとする。
横で弱い呼吸音しか聞こえないカザンを見ながら強く願う。
話し合いが終わったドワーフからの問いかけに俺はガックリ肩を落とした。
「ふぅ。いや有難い。そう言うべきなのだが、もう少し早く言って貰えたら助かった。森全体が意志を持っているんだとしたらかなり不味い展開なのだ。何せ目眩しが分かっても、躱す手段が無いのだ。しかも、時間が無い。。」
無いのかよ。こんな時なのに【ヤモリ】が久しぶりに背中から降りて口を出す。俺はすぐさま湖の水を汲んだ水筒を差し出した。それを【ヤモリ】の癖に両手で掴んで器用に飲んでる。やっぱり変な鰐だ(現在は成長が止まってる…)
「八方塞がりは変わらない。」
タササの静かな声はまたもや静けさを呼んだ。
重苦しい沈黙の中に、カサカサとテントを引っ掻く音がして全員が身構えた。
ガゼランとサガンが剣をに手をかけて
「「魔獣か!!」」
と同時に叫んだ。
なんだァ。。やっぱり仲良しだったじゃん。
ゼリアとガゼランさんは気が合うんだよ。
そんな俺の呟きに隣でタササが「また、明後日の方向に勘違いをしてるし」と言ってたのは聞こえなかったけど。
気の合う二人はそう叫んで同時に外へ飛び出した。
俺も後を続いた。いや、実はあの音に覚えがあるんだよ。もしかして。。
「見た事のない魔獣だが、奴ら独特な嫌な臭いがない。」「こっちも何だか闘気を感じない。」
「あーーー!!!!待って、二人ともその子達を切らないでーーー!!!!」
俺は慌てて2人の前に立ち塞がった。
良かったよ。来てくれたんだ。
「太郎と次郎。良く来てくれたね。こんな場所だから無理かと思ったよ。」
来たのはペットで俺の乗り物『ミミズ』だ。
質問は受け付けないよ。
ミミズだって、異世界仕様で大きいし知能が高いから。
馬に乗れない俺は、この太郎と次郎に乗ってる。
乗り心地も抜群なんだ。
ちなみに二人は大きさが三メートルくらいある。これなら全員が乗れるから脱出できそうだ。
そう言って振り返ったら、全員固まってた。
【ヤモリ】よ。守護者のくせにドン引きするなよな!!
太郎と次郎にかかれば、森の目眩しなんて関係ない。
これまでの悩みが嘘のように数時間後には、森の出口に到着した。
まあ、ズルとか言わないで欲しい。
地下を潜るのがミミズなんだ。
地下トンネル掘るのは当たり前だから、森の目眩しも地下までは関係ない。
まあ、無事脱出が出来たんだ。
でも、ただいま別の危機的状況にある。
こっち槍を向けた兵士さんとヤークル姫さん達が大喧嘩中だからだ。
「人族は入れられません。」
「吾が申しておる。兄上様の救世主となられる方々だ。そこを通せ。」
「規則です。」
うーん。埒が開かない。。
でも、そんな事関係ない。
こんなに美味しい空気をご馳走になってるから!!
ほら、カザンなんて凄い勢いで回復中だよ。
相変わらずゼリアの背中にいるけど、過保護が過ぎるゼリアの頑張りのせいだからな。
「降ろして下さい。」「まだダメだ」
不毛の言い争いはココでも勃発中だ。
でも、頬に赤みが差してきたカザンがいる。
今はそれだけで…。
『もう、二度と祠に触らない』
俺は固くそう心に誓って、もう一度澄み渡る青空を眺めて深呼吸をした。




