港町バトナでの戦い(アフターサービス到着?)
少し魔獣との戦いのシーンがあります。
ラストが中途半端ですが、次回のお楽しみにして下さると嬉しいです。
いつもお読み下さりありがとうございます。
爆発音があちこちで上がっていたが、振り返る余裕すらない。エルザムでも有数の観光地として有名な港町バトナ。しかし今はその面影は無い。逃げ遅れた者たちは居ないだろうか?
小物の魔獣を走り回りながら、剣の錆にして行くがあまりにも数が多い。
しかも、町中で暴れ回る魔獣グリゴフが最低でも2体。火の魔獣としては大型で知られているが、ココにいるのは桁違い。こんな大きさでは亜種なのかもしれない。
ゴゴゴゴーー!!!!!
氷柱があちこちに出現する。
また、大型の魔獣が入り込んだな。
あの氷柱の大きさは今度は魔獣ゼリンだな。遠くからでも建物を突き破る氷柱が幾本も見える。
水の魔獣としては珍しく地上で暴れるタイプなのが良くないのだ。被害がより大きくなる。
ドォォォォーーン。。
新手か?!
いや、アレはラルト皇子だな。
なんと…。
恐らく雷魔法の最大級ライディンを放ったのだな。あれならばグリゴフの2体は始末出来たバスだ。しかし…『エリクサーB』(魔力全回復)を飲み過ぎて昨日は起き上がれないほどのダメージを受けていたのに。
ルティンが一緒だから、倒れても彼が担いで帰って来るだろうが。
「きゃぁ!!!」
マルセラと2人、町中に蔓延る小型や中型の魔獣を倒しながらラルト皇子達と合流しようとした矢先、子供の悲鳴が聞こえた。
確か…崩れかけた宿屋の方からだった。
「マルセラ。悪いがココは任せるぞ!!」
言い終えるや返事も待たず、二手に別れ角を曲がって宿屋の方向へ急行する。この町の地図はほぼ頭に入っている。とにかく、一刻を争う。
「了解した『祈りの閃光』!!」
マルセラの聖魔法を唱える声が後方から聞こえてきた。
『祈りの閃光』は、空から光槍を魔獣に放つ聖魔法の一つ。如何なるモノも逃れることを許されぬ聖魔法の奥義だ。
ドドドドトンーーーーー。
恐らく、ゼリンが倒れた音だろう。子供への危険を避けようと無理をしたのだ。彼らしい。
目的地に着いた俺は半壊して開かない扉を蹴破りテーブルの下に身を寄せ合う幼子の兄弟を見つけた。
怪我は?
大丈夫なのか??
「大丈夫か?助けに来たぞ!!」
お兄ちゃんらしき子が頷くが声は出ない。恐怖心が突き抜けているのだろう。二人を抱き抱えれば、どうやら怪我はないらしい。扉が壊れて半壊過ぎたので魔獣が近づかなかったのだ。
よく無事だったな。
2人の頭を撫でながら静かに言い聞かせる。
「よく聞くんだ。この扉の向こうは魔獣がいる。でもお兄さんは強いから心配はない。だから目をぎゅっと瞑って掴まっていなさい。」
魔獣ヤテンの気配が近い。
しかも、一匹じゃない。珍しく群れているようだ。
小型の魔獣ヤンテは力は弱いが、厄介な魔法を使って人を狙う。
【毒魔法】
僅かな魔法が触れても人間には致命傷だ。
しかも、解毒薬は存在しない。
グルルルルル。
片腕に子供を抱き抱えた今、戦うならば、一発で仕留める以外にない。身体中の気を練り上げてその瞬間を待つ。
奴らが、一斉に襲い掛かるその時がチャンスだ。
「「「「「「グォォォォォーー!!!」」」」」
『闘気の爆滅』
一太刀に全ての気を込めて剣を振り下ろす。
バタバタバタバタ…。
「目を開けても大丈夫だよ。もう終わったよ。」
見れば向こうから、ラルト皇子を肩に担いだルティンと足を引き摺り真っ白な顔色に笑顔を浮かべるマルセラが見えた。
「町中から魔獣の気配が消えた。」
肩から下ろされ、座り込む姿からは考えられない強い瞳でそう呟くラルト皇子。
「そうか、良かった。」
俺はそう呟いて子供達を地面に下ろした。
「疲れたぁ。」マルセラも腰を下ろす。もう限界なのだろう。
1人変わらないルティンが子供達の頭を撫でて珍しく笑顔だ。
良かった。本当に終わっ。。。
え?
何だ?ルティンが辺りを警戒し始めた。
子供達に気づかれないように、俺も剣を握り直す。
「ココですよ〜。お久しぶりです。ザルツのお父さんですよ。覚えてますか?」
なにーーー!!!!
空から彼は降りてきた。
彼の乗っているのは、魔馬っぽい羽が生えた何かだ。しかも、『リヤカー』を引いている。
理解を遥かに超えた登場に誰一人声も出ないのに彼はまるで近所に散歩に来たかの様に笑顔で「アフターサービスですよ。」
ツッコミ処しかない状況は彼が差し出すコップで更に混乱する。
「ザルツ曰く…『二日酔い』はちゃんとケアすれば大丈夫と。ザルツの作るモノは強烈な威力ですが副作用もあります。それが『二日酔い』です。
と、いう訳でコレをどうぞ」
せ、説明がザルツと同じだ。やはり親子…何の事か全く分からない。。
差し出されたのは異様な赤い汁。ラルト皇子の胸元に押し付けられている。悪い顔色が更に悪化して真っ白だな。
しかし、ザルツの父君だ。毒とかではないだろう。。
「頂きます。」コクリ…。
え?劇物なのか?!
ラルト皇子が悶絶してる。だ、大丈夫か?
「ふふふ。酸っぱいでしょ。コレは『クレ』の実を干してお湯割りにしたモノです。えーっとザルツの名付けは確か…『梅干し湯』でした。
『力水』や『エリクサー系』は飲み過ぎると急激な変化に身体が悲鳴を上げるのです。そんな時は我が家はコレです。いや、クレです。あ、ダジャレですよ?」
。。。
なるほど、そりゃ強烈だろう。森の生き物すら食べない酸味の強すぎる食べ物なのだ。
しかし、俯いて動かなくなったラルト皇子が心配だ。さすがのザルツも失敗作を作ったか。
震えるラルト皇子の肩にさするマルセラの手を跳ね除けて、ラルト皇子がザルツの父君に抱きついた。
「直った。完全に体調が戻ったよ。ガルム殿。ありがとうございます。こんな遠くまでアフターサービスして頂いて…」
半泣きのラルト皇子の頭を抱きしめられながら撫でているガルム殿(ザルツの父君)はやはり大物だ。
「うちの子…責任感が強いから。私がザルツに代わってこんなサービスしてるんですよ。」
それから、リヤカーに積まれた大量の差し入れはこのバトナの人々を救う最大の助けとなる。
我々のこれからの戦いも、大きく違ってくる。
これで一歩、ザルツに近づけたのか。
行方不明の彼を探す事が出来るのか…。
そんな風に互いに思っていた頃、ザルツ達が大変な事になっているとは全く想像していなかった。それも、やっぱり斜め上に危機的状況になっているとは…。
*** その頃の毒の森 ***
「大変だあーーー!!
『湧き水君』の蓋が緩んでいたから、溢れちゃったよー。中身が殆どないよ!!」
「昨日、しまったの誰?」
「誰だよ。」
「「「俺じゃない」」」
暫しの沈黙…。
「ザルツだよ。昨日、寝る前に飲んでたじゃないか。空間魔法を閉じないと無くなるから気をつけてって僕言ったよ。」カザンの一言で全員の視線がザルツに定まる。
「俺…知らないよぉーー!!」
揉める四人は知らない。
湧き水君が作った川があると。
そして、そのせいで『テント一発君』ごと、全員が川に流されていっている事実を…。