『毒の森』の本気?!
*** タササ視点 ***
誰かが俺を揺すっている。
泥の様に草臥れた身体は睡眠を強く欲求している。しかし揺する手は容赦がない。
「ねぇ、タササ。悪いけど起きてよ。」
全く悪いと思っていない声色は少年のソレで柔らかく優しげだ。
誰だ?
俺にそんな知り合いなんていた事があっただろうか。寝ぼけた頭は声の主を探す気がないらしい。寝ようと意識が落ちていこうとしていた俺に嫌な単語が耳に入った。
「起きなきゃ、ルンザを食べされるよ。」
ルンザ?!
その言葉で、俺の意識が一気に覚醒した。
ルンザとは俺の天敵だ。苦味の強い上に臭いソレはまだ俺が保護下にあった昔、栄養豊富だと食べさせられていたからだ。
「あっ、目が覚めた。タササってば本当にルンザ嫌いなんだな。」
目の前に悪い顔でニヤニヤ笑うザルツの顔がドアップで迫っていた。
「まだ、夜中じゃないのか?」
外は相変わらず暗い。夜中でも昼間でもさして変わらないほどに。
「こんがらがっちゃったんだ。」
何が?なんで??
ため息が自然と漏れる。ザルツの説明不足と言うか説明下手は本当に困る。
質問には一切答える気がないザルツは先程から俺に目の前に白いモジャモジャした物体を差し出していた(突きつけていたと言うのが正しいな。)
「コレは?」
「防御キノコの胞子」
「胞子とかは、こんな風に紐状になってないだろ?」「俺がやったんだよ。」
またもや、目が点になる。
防御キノコは世界を揺るがす大発見だ。それだけでも、異常事態なのに胞子を、糸に?!
「まぁ、やっているうちに偶然出来たと言うか。とにかく、コレで『マスク』作るから手伝ってくれよ。」
「ザルツ、頼むからちゃんと説明してくれよ。夜中にヘトヘトなのに起こされたんだぞ。もう寝るからな。」
俺の語気が強まると、ちょっと反省した顔をして説明を、始めた。
纏めると
① この『毒の森』は居るだけで身体に害がある。例え、防御キノコを携帯しても。
②皆んなの身体に毒が溜まりつつある。『浄水君』の洗浄力だけでは取りきれない。
③『マスク』なるモノは口を覆う布の事で、それを防御キノコで作れればほぼ毒の影響から脱せられる。
「不味いじゃん。ゼリア達も起こして話しをした方がいいだろう。おい…」「待って。」
真顔のザルツが俺の肩を押さえている。
戦闘力ゼロに近いザルツだ。ソレを振り切るのは俺にはいとも容易い。でもいつもと目が違うんだよ。平凡な茶色の瞳が圧を強めている。
なんだ?
一体、何を隠しているんだ?
見つめる俺に暫く逡巡して様子の(逡巡するヤツだとはびっくりだよ。。)ザルツが意を決してこちらを向いた。
「カザンだよ。彼は小柄で力も強くない。この森事態が、かなりのダメージなんだ。『鑑定』してみたけど、このままじゃ…。アレがあれば一発なんだけど何もかも置いてきちゃったからな。」
カザン…なのか。
ザルツの『鑑定』はレベルがカンストしている。間違いなど絶対に有り得ない。
カザンは16歳にしては成長不良なのだ。しかしその身体にはそれなりの理由がある。
そうだ。彼自身を我々の仲間とするだけの(盗人になるだけの…)理由が。
カザンの寝顔を除けば、確かに呼吸が浅い気がする。隣に寝ているゼリア比べ顔色も悪い。
あの顔色は、単なる疲れじゃなかったのか。
「朝方までに4人分作りたいんだよ。器用と言えばタササだろ?ゼリアは…まあ戦闘向きだからな。」
ツッコミは色々あるが、すぐさま取り掛かりたいと申し出ると『マスク』の作り方の説明を始めた。まずは布にする所からだな。
集中力を必要とする作業が続いた。
胞子は糸の数分の一ほどの細さで軽すぎて扱いにくいのだ。
それでも、諦める訳がない。仲間の命が懸かっているのだ。
必死の甲斐もあり夜明け近くに出来上がったマスクを満足そうに眺めていたら、近くから声がした。
「ご苦労さん。まだ出発までは時間があるから少し休めよ。」ゼリアだった。
起きてたのか。
ゼリアは起き上がると手作業をした途端、寝息を立てて座ったまま寝ているザルツの肩に毛布をかけてこちらを見た。
「怠さが酷い理由が分かったよ。だが、実際だいぶ追い詰められたな。
これもそれもザルツのせいだけどな。」
やっぱり寝てなかったのか。
まあ、流れ者になっても警戒心の強いゼリアがリーダーだったからこそ生き延びられたんだ。
「くくっ。そのザルツに恩人として尽くしている盗っ人のリーダーが笑わせるぜ。とにかく、ココは力を合わせるしかないだろ。」
盗っ人になってから、ギスギスしていたゼリアが珍しく打ち解けた相手ザルツ。それは命の恩人と言うだけでないのだろうな。
俺たちを見る『目』だ。
真っ直ぐなその目こそ。。。
肩に痛みを感じて摩りがらも少しだけ満足した俺は『完全毛布君』をかぶるともう一度横になった。
薄暗い朝日が届くまで暫しの休息を求めて…。




