やるしか無い?!
ぐわぁぁぁ
!!
何?
何の音だ?!
飛び起きた俺の目に入ったのは真っ白な天井。
そうか…夢か。
怠さの残る身体が、病み上がりだと伝えて思った。
病院に運ばれたんだな。
この所、残業続きで目眩が起きやすかったからどっかでコケたかな。
不味いなぁ…また課長の嫌味が始まるぞ。
「おい。おいってば…」
看護婦さんにしては野太い声がする。そうか…先生だな。
「寝ぼけてないで起きてくれよ。もう、三日も寝込んでたんだぞ!!」
「やべーじゃん。間違いなく案件一個飛んだよ。あれ?えーと…」
三日と聞いて飛び起きて、びっくりした。
「えーっと。お名前は確かゼリアだったっけ?」
美丈夫というのに相応しい顔を歪めて、ゼリアが俺の両肩をぎゅっと掴んだ。
「お前、大丈夫か?魔獣にやられて毒が回って たのか?」
魔獣…そうだ!!
俺が祠を、触って。。。
「えっ?あのでっかい魔獣をゼリア達で倒したのか?!すげーじゃん。ゼリア達も騎士だったのか?」
俺も初めて見る大きさの魔獣だった。ガルクルト辺りなら、倒せるとは思うけどそれでも苦戦したと思う。それほどの大型だったのに。
「それより、何か食い物持ってないか?
俺たち昨日から、何も食ってないんだよ。」
タササの泣きそうな声でハッとした。
「あれ?ビュッフェパーティーは?
肉タワーは何処いった??」
混乱する俺にゼリアが説明してくれたのは、絶望的な立ち位置だった。
① ここは見た事ない場所
② この場所は大型の魔獣が多く毒の森
③ 帰り方も分からないほど鬱蒼としている森
④ 祠に飛ばされると、帰って来た者は居ない
⑤ 何も持たずにイマココ?!
何ーーー!!!
これ、ヤバいくらい詰んでるってヤツだよ。
俺ってば、何で祠触ったんだよぉ。
「とにかく、森の中から食糧探すのは無理だと思う。勝手にアンタの革袋探したけど何も食い物は入ってなかったよ。」
「そりゃそうだ。それはココに…あっ!!ないじゃん。鍋、置いてきたし。」
空気がぐんッと重くなった。
そりゃ昨日から食べてなくて、食糧も無くて、森を出る方法もないんじゃあなぁ。
「ザルツさんよ。俺たちの危機はアンタの危機でもあるんだよ?!とにかく、何か食い物を…」
グルルル。
その音に振り向けば、カザンが、真っ赤な顔でお腹を押さえていた。
『触んない方が良いよ!!』あの時、止めてくれてのに巻き込んでしまったんだ…俺。
顔色が悪いカザンは、まだお腹を押さえて苦笑いをしていてこんな場所に連れて来てしまった俺への不満なんてまるで感じない。
今更ながら、俺は自分のした事を振り返って馬鹿だと自覚した。調子に乗ったのかもしれない。
旅なんて初めてで。
仲間たちとワイワイやるのも楽しくて。
ココは異世界なんだと。魔獣がいて平和は当たり前じゃないんだと突きつけられた気がした。
「俺…食べ物を探してくるよ。魔力はさほど無いけど鑑定はレベル100を超えてるから。」
あれ?何で全員が出かける支度してるんだ?
「俺達は離れない方がいい。ココは常識が通じない。この『テント一発君』が無ければおれ達も無事じゃ済まなかった。」ゼリアの言葉に頷く面々。
「良し!そうと決まればココにあるモノは全部このボタンに押し込めるな!!」
二番目のボタンは空っぽだから好都合だ。
非常識な空間魔法だとナラが言ったけど、このテントの中身くらい朝飯前だからな。
「そうだ!!コレを渡しておくよ。」
俺は手首に巻いていた数珠【バンドルと言う名前があるけど、俺には数珠にしか見えないんだ。】をバラして一つづつ持たせる。
「魔獣避け、清浄付き、体力気力武力の回復付きだよ。ポケットにでも入れてくれよ。」
バラバラにした数珠の玉を凄い勢いでタササが引ったくった。そして目にも止まらぬ速さで一つづつ石を付けたチョーカーが出来上がった。
「カッコいい〜」「ザルツ!!こんな大切なモノを雑に扱わない。これからはモノの管理は俺がするから!!」
俺の感嘆に被るようにタササのお説教が始まった。整理整頓…。
前世も今世も嫌いな第一位だ。
いつもナラが担当してくれてたんだ。
良かったよ、良いヤツが居て。
全てを片付けたら、昼間だとは思えない鬱蒼とした森をじっくり直視した。
何とかなりそうだな。
毒草が多いけど、毒抜きすれば食べられそうなモノも多い。料理するのは、かなりの手間だが飢えは回避されたかな。
そう伝えると、全員がほっとした顔になった。
俺はどこまでも伸び上がった樹々を仰ぎながら、今頃ガルクルト達が心配してるだろうなぁと思いを馳せた。
助けは…来るかな。
自信は無い。。
ま、やるしかないな!!
俺は再び、足元にある毒性の弱いキノコ擬き狩りを始めた。
*** ガルクルト視点 ***
「ですから、皆さんの心配は無用だと思います。」
心配したのは、ナラ殿やご両親殿の心痛だったのに励まされるのは何故か俺たちだ。
ザルツの行方不明。
あれから数週間が経った。
連合国の総意は、ザルツを諦めよ。
その一言だった。
だが、ライト皇子もルティンもマルセラも俺と同じで否だ。仲間を見捨てるなんて出来ない。
しかも…俺達の責任も大きい。
戦闘力ゼロのザルツを1人にしたのだから。
あまりの彼の奇想天外な能力に油断したのだ。
「ガルクルト様。兄は一筋縄ではいきません。皆さんが諦めないと言って下さるのならば、私達も一緒に探す手伝いをさせて下さい。」
ナラ殿の申し出も当然だ。
だが、一般人があの国に行くのは無理だ。
「では、俺がナラ殿とご一緒します。」
答えたのは、リスタだ。
この後、我々は色々な話し合いをした。
そして我々は任務に戻った。
エルサム国へと。
剣を握り魔獣と対峙しながら俺は、最後にザルツに言った言葉を思い出していた。
「気をつけて行けよ。必ず迎えに行くから。」
ザルツ…。
迎えに行くから、頼むぞ。
生きて待っていてくれよ…。
ザンッ!!!
ザルツが村に残した『力水』の威力は凄い。
軽々動く身体から繰り出した剣に魔獣が、薙ぎ倒されていた。




