自業自得のその先は…?!
もしかして…俺、半壊の村に一人?!
正気にかえると風の音にもビクッとなるじゃん!!
『ザルツってば、完全に俺たち忘れてるよな』
『間違いないよ。酒はまだなのかーー!!』
肩の上から聞こえる催促にようやく、ホッと落ち着いた俺は頼まれた事を思い出した。
『孤児達に炊き出しを』だったよ。
孤児…は、見当たらないけどきっと村人達が帰ってきたらお腹空かせてるハズだ。やっぱり炊き出しの準備をしよう!!
やる事を見つけたら怖さが半減した俺は、もう一度村の中を怪我人を探してから炊き出しの準備をする事にした。
ウロウロしても倒れている人はいないが、あちこちに血の跡や戦いの焦げ臭さがあって気持ち悪くなる。肩のヤツらも文句タラタラだ。
『ザルツ。ココは臭いよぉ。早く綺麗にしてくれよーー。』
要求が多いなぁ。
でも、跪いて土を触ると魔獣に汚されているのか、変色しボロボロになっているのが分かる。
アレしかないか…。
「じゃあ、いつもの撒きながら怪我人探しするかぁ。」
俺は腰に下げた革袋の一つに手を突っ込むと中身を掴んでは撒く。中身は、まぁいわば石灰と腐葉土をちょっとチートを使って作った『鮮土』ってモンだ。
えっ?名前が変だって?名付けは俺だけど分かりやすさを重視したんだ。ナラのヤツが半眼だったのは、いつもの事だしな。
『鮮土』を撒くと、土は浄化し甦り作物をあっという間に作る様になるんだ。ついでに種まきもしとこう!!
怪我人はいないと思って、炊き出しをしようとしたら『村の外に倒れている人がいるよー!』
ドングリ達め。
早く言えよ。お前たちってば、人の気配分かるんだったじゃん。忘れてた俺に言わなきゃ…だろ?!ドングリがむくれてる…解せぬ。。
怪我人と聞いた俺はとにかく慌てて、ドングリ達の言う方向へ向かえば、藪の中から足が伸びているのが見えた。
急いで『エリクサーA』を振りかければ、足が動き出したのでホッとした。間に合った様だ。あれ?どうやら3人いたらしい。
起き出しても3人ともぼーっとしているので、ポケットから饅頭を、差し出す。
(もちろん、ポケットも革袋も空間魔法で出来てるんだ)
いい匂いに釣られたのか、凄い勢いで饅頭を頬張る3人はお約束の様に喉が詰まっていた。
同じくポケットから竹筒の水を飲ませて出来上がりだ。
「なぁ、アンタら村の人だろ?村の人達はみんな老人や女性子供を助けに行ったからアンタらは炊き出しを手伝ってよ。俺1人じゃ荷が重くてさ。」
暫く、3人はゴソゴソ話し合いをしていたが、快く承知してくれた。
それからは、あっという間だった。
「ほら、コレ『防御キノコ』だよ。コレを村の周りに撒いておけばもう、魔獣が来ないから!!」
革袋を渡せばムッと怒った顔になった。
何故?
「おい、助けて貰って文句を言うのも何だけどこんな小さな袋に入ってるモノなんて村の周りどころか一掴みで終わりだぞ!!」
怒ってる人はゼリア。リーダーらしい。
「あ、ソレは空間魔法で数千個は入ってるから。もう1人の人はコレ。『浄水君』と『湧き水君』を井戸に入れて来て。魔獣の穢れを祓って無制限に水が湧き出すから。えーと、あと1人は俺と炊き出しの準備を頼むよ。」
痩せっぽちで長身のカザンには井戸へ。そしてチビで(俺よりちょっぴり低いからな!!)で童顔のタササは村の広場へ連れてきた。
リュックサックから取り出したモノを準備する。まずは広場に簡易テント『テント一発君』を出して。最初はびっくりしたのか固まっていたタササも少しづつ要領良く手伝ってくれる。
大量の椅子や机。
ビュッフェスタイルが良いだろうと。
ど真ん中には、ウエディングケーキならぬ肉タワーを設置。
周りに数十種類の料理を並べてと。
まぁお子様には、肉でしょ!!
育ち盛りだからな。
その間にも、『鮮土』に蒔いた種から既に畑が出来上がっているからタササに胡瓜とトマトを採ってもらう。サラダも大切だ。好き嫌いはダメだからな。
あっ、二つともココでの名前は違うけど分かりやすさが大切だから改名しといた。
タササには、ちゃんと元名前の『レンレ』と『ルルボ』を採ってと言ってあるよ。
俺、気遣いの男だから。
さぁ、間に合わせるぞーー!!
*** ゼリア視点 ***
流れ者の末路など決まっている。泥棒だ。
それも俺たちの様に武力に自信のないモノは火事場泥棒に限る。
と、なれば、魔獣に襲われて無人となった村を荒らす。武力が必要ないし危険も、少ない。
道中で倒れている人間からも奪う。だって、誰も生き残ってないのだから俺たちが有効利用した方が良いだろう。
そんな日々も長くは続かないらしい。
言い訳も要らない位に荒んだ俺達にも自業自得の結末の時が来た。
そこはエルサム国の田舎の村だった。
魔獣がまだ、村を襲っている最中に近づいてしまったのだ。武力もない俺たちなどイチコロだ。魔獣が半分くらい俺たちを襲って離れたのは、ただ単に腹がいっぱいだったから。
でも、致命傷を負った俺たちは倒れて痛みに呻く以外に方法もない。
こんな辛い最後なんて…。やっぱり自業自得なのか。そんな風に思いながら、やっと意識を手放してこんなチンケな人生から解放されると思った。
その時だ。
何か温かな雨が上から降り注いだ。
それは傷を癒やし、欠損した右足まで元通りにしたではないか!!
一体…何が?!
横を見れば故郷から腐れ縁で流れてきた仲間の
カザンとタササも同じ状況だった。
「あっ、良かったよ。。間に合った。」
少年があどけなく笑っているのが見えて、あぁ夢かと。幸せな夢がラストとは有り難いと思っていたら…現実なのか?!
いい匂いがする。三日何も食べてないのだ。
だから、少年の手のひらから奪う様に引ったくって、饅頭を食らえば…旨い。
何だこれ…こんなに旨いモノ食べた事ないぞ。
次から次へと出される饅頭を10個くらい食べた時に喉に詰まれば、水が差し出される。
??
何だ…この水?!
身体の中から力が湧いてくる。もしかして、『力水』なんじゃ。いや、あれは伝説と言うか超高級品で王族くらいしか口に出来ないと。
しかし、恐らく武力も身体力も急上昇している自覚は俺にも仲間にもあった。まさか、本物?!
コイツ…何者なのか?
もしや、王宮から派遣された聖騎士なのか?
色々考えていたら少年は『タキダシ』を手伝えと言い出す。
(おい、コイツ何やらすごいお宝を、持ってるから隙を見て奪って逃げるぞ!!)
(でも、兄ぃ。命の恩人にそれは不味いんじゃ)
(タササ。俺たちはお尋ね者だ。今更真面目になってもお縄になりゃ終わりなんだ。いいな。合図を待て)
言い争いも2人はいつもリーダーの俺には逆らわない。
最後は従うからな。
ぽやっとした少年を見て、俺はもしかして、運が向いてきたのかもしれないと思った。
親に捨てられ国に捨てられた俺たちにもチャンスが。コイツのお宝を一つでも奪えば、もしかしてどっかの田舎で3人で…。
笑顔で俺たちを呼ぶ、カモネギへ俺は近づく。
どこがチャンスか、見極めようと。
最後のチャンスに、より慎重になりながら。
しかし…。
その後の出来事は、俺の全ての予測から遥かに違うモノになるのだがその時の俺はまだ知らない。
そして心の底から思い知ることになる。
俺如きには全く手の届かないモノがこの世にある事を。
3人とザルツの続きは次回です。宜しくお願いします。




