方向音痴も役に立つ?!
拠点を出ると、ムレをとにかく撒く。魔獣に襲われたらイチコロだものな。
最前線に俺のいる意味は、戦いじゃ役に立たない。だから、今朝のライト皇子の提案に乗ったのだ。
二日酔いの朝、痛む頭を抱えて台所へ行けば、顔色がツヤツヤしたライト皇子が出掛ける前に提案してきたのだ。
「孤児の保護が間に合ってない。まずは此処からザルツにお願いしたい。炊き出しを一人でこなせるか?」
拠点から一人で動くのは正直不安だ。ムレがあるとは言え戦闘力はほぼ子供と一緒だからな。
でも…孤児とは。
『大丈夫。ザルツがいつものくれるなら俺たちが一緒に行くから!!』
不安げな俺にテーブルの上で転がっていたドングリ…違った妖精もどきが張り切っている。
コイツら役に立つのか?うーん…不安だ。
「ザルツ。頼むから全てを顔に出してくれるな。そして精霊界の皆様と共に安全に尽くしてくれ。これを渡すから。」
ライト皇子のくれた腕輪は魔法リンクというモノで皇子の攻撃魔法が詰まっているらしい。敵がきたら勝手に発射する仕組みとか。
魔獣が沢山出ても、ほぼ全滅させるだけの威力はあるらしい。
魔法…やっぱり羨ましいなぁ。俺のはファイヤーボールとか氷の刃とかカッコいいのないから。
まぁ、そんな訳で地図を渡させれた俺がたどり着いた先はほぼ、半壊の村だった。孤児はこんな場所にいるのか…。不安なままカケラしか残ってない門をくぐる。焼け焦げた匂いが充満していて、先日の悲惨な場面がフラッシュバックして吐き気が込み上げる。
でも、孤児達が腹を減らして待っているんだ!!そう自分を奮い立たせて奥へと向かえば。。。
マジか…。
ほぼ死にかけた倒れた人々が点々と倒れている。凄い酷い怪我人ばかりだ。動揺する気持ちを抑えて声をかけた。
「おい、お前たちも手伝ってコレ上から掛けてくれないか?」
手分けしようと頼んだドングリ達は『分かったけど、後でアレくれよ。』とちょっとガメツイ。むー、妖精ってこんなのだっけ??
とにかく、俺の作った『エリクサーA』をかける。(名前が厨二病なのは見逃してくれ)その正体は、村でチート育成してたら偶然できた薬草だ。
まぁ、大抵の怪我や病気はこれで一発なのだが、こんなに酷いのは効くのかなぁ。
いかん!!不安など感じるてる暇はない。一刻を争う怪我人へとにかく、じゃばじゃはかけて回るうちにある事に気づいた。
倒れている者全て、屈強な者達なんだ。孤児は何処へ??
しかも老人や女性もいない。まさか…連れ去られた?!不安な胸中を押し殺して、エリクサーAを撒きながら村中を駆け巡る。
村の中のあちこちに倒れている者がいるのだ。
結構、大きな村だったので時間がかかり、ヘトヘトになり始めたその時、突然俺の肩を誰かが掴んだ!!
ビクッして思わず声が出た。
「ぎゃ!!」
誰?や、やめてくれよ。。。
動いている者がいないんだよ。
もう、幽霊一択じゃん!!
幽霊はダメだ。とにかく、俺はこの手はダメなのだ。手を合わせ念仏を唱える。
「ナンマイダ、ナンマイダ…」成仏してくれー!!
「おい、アンタ。おいってば。聞いているのか?此処の村の者達を助けてくれているのはアンタだろ?」
うん?
話をする幽霊?まさか…振り返った俺は、また驚く事になる。
ボロボロな身なりの元気そうな集団がこっちを見つめているから。
良かったよぉ、人間だ(幽霊じゃない!!)
「アンタのおかげだ。その薬のおかげでこの者達も俺も助かったよ。アンタは命の恩人だ。
欠損していた腕も元通りとは…アンタ凄腕の聖魔法士か?
おかげ様で何故か腕もこの通りだ
本当に有難い。」深々頭を下げる男前。何故イケメンなんだ?!仲間たちと言い、異世界のイケメン率エグいなぁ。
「人間?」と一応聞けば
「あぁ、もちろんだよ。俺はこの村の村長代理のリスタと言う。アンタの名前は?」笑顔がまたモテモテの気配だ。でも孤児とかは?
お年寄りや女性はどこ?
「心配をありがとう。年寄りも女子供も大丈夫だ。地下道があるからそこから逃した。」
『ザルツたぶんその人間たち不味いよ。魔獣の気配が大勢の人間の近くにあるから。』
リスタの話を聞いていた肩の上のドングリ達が騒ぐ。ドングリよ、それを早く言ってくれよ。
えーと。焦る俺の目に飛び込んだ腕輪の存在。
そうだ!!
「おい、アンタ。逃げた人間の所に魔獣が近づいてる。これからそこへ向かってくれ。コレを貸すから!!」
リスタにアルト皇子に貰った腕輪とムレを持たせて慌てて説明した。
「コレを付けてれば魔獣は近寄らない。そしてコレはライト皇子の攻撃魔法の詰まった腕輪だから魔獣を勝手に退治するから。」
言い終えるや否や、顔色を、失ったリスタが慌てて受け取った品物を持って駆け出した。村の男たちが、その後を追う。
大丈夫かなぁ。
間に合うかなぁ。
不安な俺にドングリ達が『仕方ないなぁ、ザルツの頼みだ。仲間たちに時間稼ぎを頼んだよ。だから今日もまた、酒を頼むよぉ』
飲んべえめ。
でも、この際誰でもいい。
あんな光景はもう見たくないんだ。だからドングリ達の要求に頷いた。
頼むよ…精霊。
*** リスタ視点 ***
魔獣に囲まれる前に皆を逃し終わった事だけが救いだ。弟妹も逃げ延びたハズだ。
俺たちは決死の覚悟で魔獣に立ち向かう。少しでも遠くへ皆を逃すために。
しかし、勝負は一瞬だった。
腕を齧られ、それでも振るった剣で一匹を仕留めた俺の意識はそこまでだった。
それなのに…。
温かな雨が降っている。
覚醒は、一瞬だった。しかし、精神が状況を把握するのは暫く掛かった。
半身を起き上がった俺は奇跡見た。
倒れていた仲間達が次々と起き上がるのだ。その誰もに欠損もなく怪我もない。
一体何が…。
気配を探れば、村の奥に清浄な空間が満ちていた。頷き合った仲間たちとそこへ向かうと一人の少年が何かを倒れた仲間にかけていた。
すると…どうだ?!
仲間の傷も、欠損もあっという間に治る。
その上、彼の周りには清浄な空間が満ちていた。何か神々しさがある彼に声を掛けるのは勇気が、必要だった。
礼を言おうと声をかけるが、全く耳に入らない。仕方なく肩を掴むとビクッと飛び上がる。
しまった!!
怖がらせるつもりはなかったのだが。
礼を述べ名乗りをした俺に笑顔の彼が、突然顔を顰めた。
何だ?
『魔獣が近づいている』
そのセリフに全身から血の気が引く。弟妹の顔が浮かぶと彼が『腕輪』を差し出してきたのだ。
魔法を多少なりと扱う俺は触った途端理解した。
これが途轍もないモノだと。
そして希望の光だと。
間に合ってくれ!!
俺はそのまま駆け出した。
その後の展開は、俺の人生を大きく変えるものとなる。その全ては一人の少年との出会いからだ。
いや、彼は…青年だった。
マジか…。
生涯の感謝を捧げるザルツとの出会い。
その方向音痴にひたすら感謝を、捧げた。




