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夏の火  作者: 水辺ほとり
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雷鳴

後半部ちょっとR15くらいの表現があります。

苦手な人はご留意ください

今朝も、梅雨開け目前と言いつつ、強い雨だった。初めて画家の家に行った時から1ヶ月経つ。私は週に一回、画家の家に通い、料理と掃除をしていた。


「最近楽しそうだね」と夫は和やかな顔だった。

「楽しいよ。絵を描く方と知り合って、時々遊びに行ってるの。少し変わり者だけど……とても優しくていい人」

こんなことやあんなことがあってね、と話すと

「へえ、それはいいなぁ。いずれ僕も会ってみたい」伺うような上目遣いに笑ってしまった。

「夜ご飯に呼んでもいい?」きっとあなたも仲良くなると思うんだ、と言うと夫は笑顔になった。

「もちろん!…………ねえ、そろそろ、冷めちゃわないかな?」夫は夕飯を前にお預けを食らった犬だった。

「ごめんごめん、食べましょ」

手を合わせて、いただきますと言い、もくもくとおかずを食べ始める。夫は美味しそうにたっぷりと肉を頬張ってから、首を傾げた。

「おいしい。けど、いつもより甘いね?」

「みりんがどっと入っちゃったのかな」

首を傾げて、ふと気づく。画家のために作った食事の味にだんだん近づいていた。

「うん、みりんのせいかも」自分でも肉を食べてみてから、もう一度付け加えた。

ご飯を食べながら今日の予定を確認した。しとしとと雨の音が耳について言葉が聞き取りづらい。聞き返すと、緊急のトラブルで、これから仕事、それも泊りがけになりそうだと言う。

「落ち着いたと思ったのに、短い帰宅になっちゃったね……。がんばって」

ということは、午後には画家の家に行けそうだ。

そう考えて、心の底がざわりとあわだった。頭の中に余白があると、画家のことばかり考えてる……。何もやましいことはしていないのに、どうしてこんなに心の底がざわざわとするんだろう。

怖くて無視したいのに、確かめたくなってしまって、夫を見送った後、画家の家へ向かった。




強い雨の中、今日のおかずを準備して、傘を差して画家の家へ向かった。雷鳴の中、打ち付ける雨は跳ね返りも凄まじく、傘はほとんど意味をなさない。びっしょりと濡れてワンピースが体に張り付いた。

呼び鈴を鳴らしても返事がない。ドアに手をかけると開きっぱなしで驚いてしまった。アトリエへ入っていくと、真剣な面差しで、スケッチブックへと向かい合う画家の姿があった。

スケッチブックに描かれていたのは、紛れもなく自分だった。

「誰」画家は、振り向くと目を丸くした。ゆらりと立ち上がると、床の色々な物を踏み付けながら、椅子をずるずると引きずって、スケッチブックの真ん前に置いた。

「あの、ここへ」

ここに座ってモデルになれ、ということらしい。

あまりの真剣さに飲まれて、寒いとか、タオルを貸して欲しいなどとは言えずに、頷いてしまった。

目を閉じて、かりかりと鉛筆が紙の上を走る音に耳を傾ける。外の雨は激しさを増す。時々雷が鳴り響き、窓を切り裂くように光が縦に走っていた。湿気った空気の中、ぷん、と画材の香りがして、今いるのはアトリエなんだと改めて感じ入る。

張り付いた服への視線を感じる。目を閉じていても、視線が激しくからだに触れて、かたちは鉛筆の先から紡ぎ出されていく。

心地よい音と寒さの中でウトウトとしていると、ふう、と大きく息をついた音がした。

目を向けると、おどおどしたいつもの画家がそこにいた。

「す、すみません、集中しちゃって……!冷えましたよね。お風呂浴びていってください。服は貸しますから」そう言って慌ててバスタオルを抱えて走ってきた。そらした目元がほんのり赤く、今更照れるの、と苦笑いした。

遠慮なくシャワーを浴びる。暖かいお湯が体の芯に沁みて、冷えていたんだなと思った。汚れは嫌い、と言っていたとおり、アトリエのお風呂は結構綺麗だった。

バスタオルを巻いてお風呂を上がると、画家は先ほどの絵の修正をしていた。濡れた薄手のワンピースが張り付いた胸、透けるヘソ、髪から滴る雫まで、リアルに書き込んであった。

「あの、ごめん。何か着るものってないかな」

ぼんやりとした目の画家がタオルを巻いた私を捉えると、ボンと音がしそうなほど赤くなった。あまり女の裸には馴染みがないようだ。

「へっ!?あっ!すみません、すみません。すぐに渡します」

ばね仕掛け人形のように大慌てで、薄手の長袖を手渡された。着るとちょうど短めのワンピースのようだった。余った袖をブラブラさせると画家は笑ってくれたが、目をそらされた。

どうして目をそらすんだろう?目線を辿ると……Tシャツへ胸元の形がくっきりと浮き出していた。

「なぁに、これが気になるの」と面白半分に押し付けると

「やっ、めてください……」と顔を真っ赤にさせつつ、前屈みになっていた。

「ごめん、変なことしちゃった」えへへ、冗談だよと言う笑顔を作る。

「ですよね」と少し寂しそうに笑い返された。

どうして寂しそうなの。どうしてそんなに視線が熱いの。どうして私、あなたのことばかり。聞きたいことは山ほどあったけれど、でも。それよりも先に。

「……する?」

ギュッと真正面から抱き寄せて、下から瞳を見据える。こわばった体が、少しずつ火がつくように熱くなっていく。

「します」

そう言って、腕を背中に回してくれた。

力強くて不器用な抱擁だった。

絵を描いている時と同じ、真剣な面差しで組み敷かれた。私は、絵のように、捏ねられ、混ぜられて、塗りたくられた。それは、望まれた形ができるまで、力強く繰り返された。柔らかくたおやかな印象だった青年も、覆い被さられてみれば、力強い大人の男だった。

「おいで」と言うと、精を放って力尽きた青年が抱きついてきた。


やっぱりこうなった。わかっていた。恐ろしい気持ちと、溶けそうな心地良さの中で、小さく呟いた。

ベッドから窓を見上げると、裂くように雷が走っていった。

終わらせたいけど終わるのか……と思ってたら、雨っぽい日に妻が勝手に動き出しました。妻に合わせて執筆も衝動的です。

もう少しで終わらせますが、締め切りなどの時間的枠組み一緒に考えてもらえたらと思います。

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