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夏の火  作者: 水辺ほとり
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日常

初めてまともに打ち合わせをして、プロットを考えて、小説を書きました。こだわりすぎて進む気がしませんがじわじわ書きます

  梅雨の夜、仕事から帰るとパンを焼く匂いがした。

 玄関で「ただいま」と叫ぶと

「おかえり!」と穏やかな笑顔で夫が出迎えてくれた。廊下から香ばしいにおいが流れてくる。夫が柔らかく腕を広げるので、思わず口元が緩んだ。強く抱きしめると、頬を擦り寄せてきた。

「む、冷たいな」

「雨の夜は冷えるよ」

「あれ?今日、雨なんだ。気づかなかった」

「キッチンじゃわからないよね。……いい匂い。今日は洋食?」

「そう。焼いたパンとカルパッチョ、今日収穫した野菜のパスタかな。どう?」

「素敵」と笑ってリビングに行くと、既に夕飯の準備が整っていた。抹茶色のクロスの上に器やカトラリーが整然と並んでいる。

 政治家の秘書を務める夫は、家にいるときはこうして全てのことをやってくれる。お姫様待遇は私はあまり好きじゃない。むしろ私は世話を焼きたい性分だ。夫が家にいないから、何かしら世話したいと家庭菜園を作ってしまうくらい。それでも、滅多に家にいない分の埋め合わせぐらいさせてくれと彼は言う。


「シェフ、美味しいディナーでした」

「それはよかった!」

 夫は子犬のように、喜びのみなぎった顔を上げた。見えない尻尾がばたついている。

「片付けが終わったら、弾かない?」

「しよっか」

 ふふふ、と目を合わせる。


 リビングにはグランドピアノがある。飾りではなく、二人で気まぐれに弾くためにある。街で今流行っている曲をうろ覚えで弾いたり、見終わった映画のエンディングテーマを思い出して連弾をしたりしていた。

 二人とも幼い頃からピアノは習っていた。「ご趣味は?」と聞かれれば、夫は即座にスポーツを列挙し、私は絵画や舞台を語った。立場は近くても全然趣味は違う。そんな私たちを、ピアノは真ん中で繋いでいてくれたのだ。


 音が重なるのは、とても気持ちがいい。張り詰めた真剣な演奏も、徐々に肩の力が抜けていく。夫は、指や体がダンスのように揺れても、旋律は美しい型を守っている。真反対に、私は行儀よく指を運びながら、ジャズを真似て音を踊らせる。一度揃った音は、自然と揃った足並みと同じで、ずれる事なく重なり合う。耳を通して、ふたりで溶け合っている心地がする。

 激しい演奏を終えると、いつも興奮で熱くなっていた。音楽で昂ぶった身体に、冷やしたアルコールはどの季節でもご褒美だった。

 夫は今夜は何を弾くのだろうか。私は1組のシャンパングラスを早速冷やした。

私、小説を書くにはあまりにも他人に興味がないなぁと思いました……

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