9 新たなるイケメン
朽木勝也視点
アドレスが消えてしまって三条の連絡先が分からなくなってしまった。あてもなく探すというのも考えものだし、相手が現れないのなら関わりたくはない。最近は優馬が家の用事でいない事が多く、俺は一人で居る事が多くなってしまったので、とりあえず三条の事は放置していた。
今日も一人で帰っていて、少し寄り道をしようかなといつもと違う通りを歩いていたら、目の前を三条が歩いてたので焦った。警戒しながら三条の様子を見ていたけれど、こちらには気がついていないようなので少し距離を開けて付いて行くと、喫茶店の前で立ち止まって店の中を覗き込んでいる。
三条は店の中をしばらく見てからそのまま立ち去ってしまった。その店は優馬と旅行で行った時に入った所と同じチェーン店だったので、あの店で食べたサンドイッチとカフェオレが美味しかったのを思い出したら食べたくなって店に入った。
客層は女の子が多めで、男一人で居るとちょっと浮いている感じになってしまう。女の子たちがヒソヒソとこちらを見て話しているのが見えるのがつらい。今度は誰か誘ってこようとサンドイッチを急いで口に詰め込みながら思った。
女の子たちの抑えたような控えめな『キャー』という声になんだ?と店内を見回してみると、イケメンの店員が出てきていた。
(なんか見た事あるような……誰だっけ?)
その店員が出てきた途端に店が混んできて、俺は食べ終わったので女の子達の邪魔にならないように慌てて会計を済ませて店を出た。
今度は優馬と一緒に来ようと思っていたのに、優馬をなかなか誘えない。今日は田中と鈴木が付いて来たので途中で撒こうと工夫したんだけど二対一だと不利なようで失敗してしまって一緒に店まで来てしまった。
田中と鈴木が一緒だと周りの視線を集めてしまっているように感じるので落ち着かない。だから外で会うのは嫌なのに。
今日も店内の皆んながこっちを見ているような感じで全然落ち着かなかったのだけど、イケメン店員が出てきて女の子の視線が一斉にそちらに移ったら田中もつられてそっちを見ていた。
「あれ? あの人高校の時の先輩かも」
「え? 知り合いなの?」
「いや、こちらが一方的に知ってるって感じかな」
(田中の先輩って事はあの学園の卒業生だよね? あの人ゲームの学園の生徒会長だ!)
あんまり覚えていなかったけど、見た事がある顔だと思った。ゲーム内でのイケメン度で言えば、顔の良い順に生徒会長、委員長、先生だったかな。優馬はもちろん可愛い部門だ。
今日は鈴木もいるし、店内に超イケメンが三人揃うとかヤバい。店の空気が変になっている気がするので俺はもう帰りたくなってしまった。
俺が帰りたいオーラを出していたからか、田中が俺が食べたいものを何でもおごってくれると言い出したので、ナポリタンにしようとしたら麺類はやめたほうが良いと止められた。
なんでもおごってくれるって言ってたのに嘘つきだ。結局いつもと変わりなくサンドイッチとカフェオレを頼んでちょっと嫌な条件を付けられたけど、ちゃんと田中におごってもらった。
次の日になって優馬と朝会った時に、昨日は田中と鈴木と一緒で疲れたので、今日こそはと優馬と遊びたいと誘おうとしたら、先に田中達と飲む約束をしたと断られてしまった。勝也も一緒に行こうと誘われたけど、田中の家での飲み会とかさすがに危険を感じるので絶対に行かない。俺が行くわけがない。