2 転生者の俺は幼馴染が好き
転生者(朽木勝也)視点
自分が転生者だと気がついたのは五歳の時だ。
それまでは自分の今の記憶と大人の記憶が混ざってよくわからな感じだったし、親や周りの大人達は俺がたまに発する大人びた発言にすごい! 天才! と単純に喜んでいたので、それが普通じゃないことに気がつかなかった。
小学校で西園寺優馬に最初に会った時は聞いたことがある名前だな。としか思わなかったけれど、自分の名前や住んでいる街の名前などたまに思い出す記憶とごちゃ混ぜになって、急にハッキリと前世の記憶が蘇って、俺は転生者で交通事故で死んでしまった事と、二十五歳で結婚していて子どもは居なかった事。そして俺が今生活をしているここは、ゲームの中の世界だなという普通ではありえない結論にたどり着いた。
そこからは周りの様子を伺いながら周りの子供の生活レベルに合わせて行動しながらゲームの記憶を辿る。確かアプリでは有名な乙女ゲームだった気がする。
*
頻繁に表示されるネット広告の可愛い女の子につられて少しだけ遊んで見た事がある乙女ゲームは、主人公がすごく可愛い、ごく普通の女の子で、高校生活で色々いじめにあったり、勉強、友情、恋愛要素がつまっていて、恋愛の攻略対象者には、俺……朽木勝也とか、幼馴染の西園寺優馬。他にも同級生の委員長とか生徒会長とか教師とか攻略対象者が沢山いる恋愛要素盛りだくさんの学園がメインのゲームだ。
主人公や他の攻略者達とは幼馴染設定の俺と西園寺以外はこの年齢(五歳)では、まだ出会わないらしい。
しかし、俺と西園寺ってゲーム内では「幼馴染なんだ」というセリフで紹介された以外に特に絡みもなく、幼馴染設定も特には生かされていなかった気がするんだけど、こんな子供時代からすでに物語が始まっているのかとゲームの奥深さに感慨を覚えた。
*
「ねえ、かっつん。今日かっつんの家に行って良い?」
優馬が可愛く聞いてくるので俺はデレデレしてしまいそうな顔を引き締めて答えた。
「良いよ」
「家にランドセル置いてくる!」
優馬が少し駆け足で家に向かう。
最初の出会いから五年経って俺と優馬は十歳になった。優馬とは普通に幼馴染としての仲を心がけていたのだが、優馬の可愛さにすっかりやられてしまい今では別の意味で大好きだ。前世では結婚していたし、ショタ好きとか男が好きとかはまったく無かったのでこの気持ちを持て余している所もあるのだが単純に優馬は可愛い。
優馬は本当に可愛いし、性格もすごい素直で女の子はもちろん、男にもモテた。俺はもっと仲良くなりたくて幼馴染としての関わりでは薄いと感じてインパクトを与えるためにゲームの世界であるという事は隠して、俺が転生者であると打ち明ける決意をした。
俺の誕生日を祝ってくれる優馬に感動して、ケーキを頬張っている可愛い姿を撮りたいなという気持ちを抑えつつ、転生者であるという打ち明け話を思い切ってしてみた。
しかし、優馬の反応はイマイチで、転生ってすごーいとか前世の事について喰い付いてくるかと思ったんだけど何か違う。しかも、大人の割には頭が良くないとか俺の唯一の欠点を鋭く突いて来たりする。
もうちょっと俺に興味を持ってもらいたくて前世の俺の経歴と、結婚していた話など盛りだくさんで自己アピールしてみたが前世が「みの虫やイルカだったら面白かったのに」とか言っている。ここまで話しても俺に興味を持ってくれないのかと心にダメージを受けすぎで立ち直れない。
俺がうなだれていると可哀相になったのか、優馬が俺の前世の嫁探しを手伝ってくれると言いだした。ここはゲームの世界だから現実には俺の嫁は存在していないのだと、この時になって気がついた。なんで俺は前世の話とかしてしまったのかと、ちょっと反省しながらも優馬が一緒に何かしてくれると言うのなら良いかなと手伝いを頼んでみた。
驚いた事に、あるわけないと思っていた前世で自分の住んでいた町名がちゃんと存在している。今住んでいる所は元々の地名に似せた手抜き感半端ない町名なのだが、攻略対象者が住んでいる主要な都市以外はゲーム作成者が考えるのが面倒でそのままの名を使っていたのかもしれない。
まあ、実際に行動を起こすには子どもすぎるので優馬と一緒に出かけられる年齢になるまでは適当にごまかす事にして、現在の年齢相応の遊びを優馬と思い切り楽しんだ。
*
ゲームの中の話ではあるのだが、設定とかは現実世界のものをそのまま使用しているらしく、未成年では泊まりで出かけられなかったり、お酒、タバコ等も成人してからとか、前世と変わりないルールで生活していた。
高校進学の時に優馬と一緒に頑張って勉強をしてランクを上げた結果、二人とも私立の乙女ゲーム用の学園じゃない普通の公立高校に受かってしまった。
ゲームのルールを破ってしまった感が強く、これは何か不味い事にならないかと心配したけれど特にはイベントも起きなかった。
自分と優馬以外のゲーム関係者にも会ってみたかったけど、俺に変なフラグが立ってしまって優馬をゲームの主人公に会わせる事になってしまって、優馬が攻略されてしまうと困るので好奇心を押さえてそのまま高校を卒業した。
大学も優馬と一緒の所に進学して実家にそのままいるので小学校の頃からずっと一緒で、お互いの家に行き来している現状に満足している。優馬と二人っきりで泊まりで遊びに行きたいなと考えた時に、久々に前世の話を持ち出して旅行に誘ってみた。
泊まりは予算もあって、ビジネスホテルで、ダブルは流石に不味いかとツインにしたが、優馬ならあんまり気にしなかったかもしれない。二人一緒の部屋でも抵抗なさそうだし。
実際に存在していない人を探す振りをしなくてはならないので、とりあえず優馬を残して適当に時間を潰して戻って一緒に遊ぼうと考えていた。最初の日からいきなり早く帰るのも不味いので少し遅めに帰って一緒にご飯を食べて部屋に帰って色々話をしたりして楽しく過ごした。
次の日は、少し遊べる所はないかなと辺りを回って探したりして適当な時間を見計らって戻ってみると優馬に近づく男を発見して慌てて喫茶店に駆け込んで声をかけてそこから連れ出した。
(あの人……見た事ある顔だと思ったら、乙女ゲームの攻略対象者の高校教師じゃん!)
攻略対象者の中では割と好きなキャラだったので一目でわかったのだけど、なんでここに出没したんだ? ゲームの強制力とかじゃないはず。だって優馬は攻略されるキャラであって、主人公じゃないんだし。
もしかしたら俺と同じ転生者かもしれないなと思いついた。普通に考えたらこの街で優馬に声をかけるのはゲーム的におかしい。まあ、優馬は可愛いからな……自分が転生者だって気がついたら真っ先に優馬を探すのはわかる。
俺は運良く幼馴染設定だったのでもう十五年も一緒にいる事が出来ているけど『幼馴染で仲の良い友達』という枠から出れないのがちょっと悩みだ。
ゲームでの先生のキャラは好きだったけど、転生者で優馬を狙っているというなら話は別だ。この街に転生者かもしれない高校教師がうろうろしていて危なくなってしまったので、親に会う事が出来たから帰ろうと適当な事を言って旅行は切り上げて帰ってきた。もどって来てからも警戒しているが一応、家の周りでは見かけていない。
ゲームの内容が学園中心で、生徒は寮生活だったし、家の情報とかがゲームに出てこなかったのが幸いしているかもしれない。俺も他の攻略者たちとは学園に行かなかったから会う手段がなかったしな。あの教師があそこに居たのは偶然だったのだろうか。